ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間

◎77本目『すべてうまくいきますように』

2026/03/09

 【あらすじ】
フランソワ・オゾンが、安楽死を望む父親に翻弄される娘の葛藤を描いた映画で、「スイミング・プール」の脚本家エマニュエル・ベルンエイムの自伝的小説が原作となっている。
活力にあふれ、人生を楽しんできた85歳の男性と、その娘たちの物語。
脳卒中で倒れ身体の自由がきかなくなった彼は、安楽死を望む。そしてそれを娘のエマニュエル(ソフィー・マルソー)に頼む。
彼女は妹と協力しつつ、葛藤しながらも、そして父の気が変わることを願いながらも、合法的な安楽死を支援するスイスの協会に連絡。
最後まで人生を楽しもうとういう、身勝手だけれど憎めないところのある父親、その父親に翻弄される娘たち。
安楽死というテーマをオゾン監督ならではの視線で描く。
母親役はシャーロット・ランプリング。




♣R
淡々というか…登場人物の感情があまり表に出ないまま物語が進んでいきましたね。
中盤ぐらいまでソフィー・マルソーは演技が下手なのかと思っていました(笑)。

♥M
(爆笑)。

♣R
主人公のエマニュエルだけではなく、主人公の妹パスカル(ジェラルディーヌ・ペラス)も感情を表に出していなかったですよね]だからそれがずっと不思議でした。
でも、「安楽死」を描いた映画…例えば『母の身終い』は、もっと重苦しい雰囲気でしたが、その重苦しくなりがちなテーマを、逆にここまで軽やかに描くことのできるオゾン監督は、やっぱりすごいと思いました。

♥M
かなり軽やかだと思うよ。

♣R
感情が表に出てると思うようなシーンは本当に少なくて、エマニュエルがトイレで泣き出すシーンぐらいですかね。

♥M
あとは、父親の元カレが毒々しく暴力的に描かれているぐらい?

♣R
登場人物の中では、一番感情的な人物でしたね。

♥M
妹のパスカルは、感情を表に出すことはなかったけれど、何かあるとすぐに姿を消しちゃう(笑)。 

■貧乏人はどうする?


♥M
「安楽死」がテーマなのに、日常の一コマとして描かれているよね。
オゾン監督がこの作品で何を伝えたかったのかをずっと考えていたの。
テーマとしては新しいものではないけれど、多くの人たちが扱っているテーマ。
それを、監督自身がこういう風に捉えている、というのを主張したかったのかな。

♣R
「安楽死」はお金持ちしか出来ないと話しているシーンは、オゾンらしい描き方だと思いました。

♥M
ああ、言ってたね。
父親(アンドレ・デュソリエ)がエマニュエルから安楽死にかかる料金を聞いた後、「そんなにするのか。だったら貧乏人はどうする?」と、尋ねると…。

♣R
エマニュエルが「最後まで生きるのよ」と答える。
オゾンの毒っぽさというか、社会へ問題提起を投げかけているように感じるシーンでしたよね。

♥M
父親はホモセクシュアルだけど、結婚をして、ふたりの娘がいる。
娘たちの両親は長い間別居をしているみたいだけれど、「なぜパパと別れなかったの?」というエマニュエルの問いに対して、母親クロード(シャーロット・ランプリング)は「愛していたから」、と答えている…それなのに、夫は妻のことを「セメントの心」だと言うのよね!!
かわいそうよー、ランプリング!!

♣R
(笑)。
実生活のことではないのに、シャーロット・ランプリングのファンとしては、何だか悲しくなってしまいますよね。

ランプリングは基本的に塩対応で、冷ややかな表情や態度でみんなと接している人物を演じていましたね。でも、「愛していたから」と答える時だけ、ちょっと微笑みを見せる。
とても印象的でした。憎いなぁ、あの演技!

♥M
ぞくっとしちゃうよね。
さっきりきちゃんが言った「登場人物の感情があまり表に出ないまま物語が進んでいくから、ソフィー・マルソーは演技が下手なのかと思った」という最初の感想が忘れられない。

♣R
我ながらひどいことを言ったと思います(笑)。

♥M
いや、私もそう思っていたの。
でも、オゾン監督がそのまま撮るとは思えないから、そういう風に指示していたのだろうなとは思った。

♣R
きっとそういう指示を出していましたよね。
自分の使っているりきマルソーという名前はソフィー・マルソーから取ってきているくせに、ソフィー・マルソーの映画をほとんど観たことがないので、比べることができなくて(笑)。

♥M
彼女が43歳のときの『マーガレットと素敵な何か』はよかった。40歳のヒロインを演じているの。
ソフィー・マルソーは1966年生まれで私と同じ。
りきちゃんが好きな「いい感じの枯れ方」をしている人ではないよね。

♣R
年齢を重ねている割にはきれいすぎるからですかね。
でも、映画のラストシーンで電話をしながら泣いているシーンは、一気に老け込んで見えましたね。

♥M
じゃあ演技上手いじゃないの(笑)。

■オゾンだって歳を取る


♥M
この間一緒に観た『愛する人に伝える言葉』も、舞台が病院で、主人公が病気で死んでいくのを看取る話だったけれど…。

♣R
『愛する人に伝える言葉』も感情的には静かに進んでいく作品でしたが、その静かさとは違いましたよね。

♥M
全然違う。

♣R
そういえば、映画を観る前に、路子さんが「『すべてうまくいきますように』は、コメディなんだって」と、話していましたよね。

♥M
そうそう。映画のジャンル分けが「コメディ・ドラマ」になってた。

♣R
そういうジャンル分けをされている理由は分かりました。
メロドラマ的な作りではなかったですね。

♥M
『愛する人に伝える言葉』の監督であるエマニュエル・ベルコは、メロドラマを作りたかったと言っていたぐらいだから、メロドラマの要素がたくさんあったけれど…。

♣R
今回の作品は、笑いやユーモアの要素がより多く描かれていましたね。

♥M
ひとりの死を描くにしても、こんなに違いがあるのね。
ベルコ監督の作品は、医者の先生が素晴らしい人だったし、あぁなるほど、と思うこともあって感動するシーンが多かった。

♣R
狙って作っていましたからね。

♥M
そう。でも、オゾン監督のこういう作品を観てしまうと、ベルコ監督の作品は普通のドラマだったのだと思ってしまう。
普通に感動できる作品だし、素敵な言葉もある。誰かに話したくなるし、勧めたくなる。
でも、今回観た『すべてうまくいきますように』は、そうではない。観る人を選ぶと思う。
よほどのオゾンファンか、映画のコアなファンでないと…。

♣R
オゾンだったら、こんなことをしてもよし! みたいな感じですかね。

♥M
これもオゾンならではの毒なのかな。

♣R
昔のような毒ではないですよね。

♥M
オゾンだって、歳を取ったのよ。

♣R
やわらかくなりましたよね。だからちょっと物足りなく感じてしまうところはありますね。
昔を知っているから、やるならもっとやってほしい。

♥M
私がさっき「もう少し映画を観ている人を楽しませて欲しかった」、と話したのはそこなのかもしれない。最近観たオゾン監督の映画は何だっけ?

♣R
『Summer of 85』です。

♥M
あれはよかった!
『Summer of 85』は、思い切って青春しちゃいましたという感じだった。

♣R
オゾンは、ゲイ突き抜けみたいに描く方がいいんですかね(笑)。

♥M
まあ、人は変わっていくからね。表現方法だって変わっていくよね。
今回の作品では、他の人は「安楽死」というテーマを重苦しく描いているけれど、オゾンは「死は重いものだけれど、自分ならこう描く」、というのを言いたかったのかな。
だとしたら成功していると思う。

■横暴な父親


♥M
前半は、それこそ眠気が襲ってくるような淡々さがあった。
後半からは、何を描き、どうラストへ持っていくかに興味が湧いた。
ひとつは、「安楽死」をするのはすごく大変で、色々な障害があるけれど…。

♣R
国の法律だったり、費用だったり。

♥M
そう。「簡単に死ぬことはできない」ということが描かれている。

もうひとつは、父親の陽気な身勝手さ。そんな父親に対して、娘たちは抵抗できない。
過去のシーンが少しあったけれど、その少しのシーンだけでも、父親がどれだけ横暴で権力者だったか、そしてそれに対して娘がどう耐えてきたかがよく分かった。

♣R
娘に対して、結構冷たい態度でしたよね。

♥M
父親失格くらいのレベルだと思う。

♣R
「子どもの時はブスだった」とか平気で言う人ですからね。

♥M
そうそう。そして芸術に造詣が深く、仕事も成功している人だから、多分、フランスの白人の一番上にいるような人。

♣R
ブルジョワ的な。

♥M
失敗も知らずに来たのだろうね。
そんな人が85歳で脳卒中になり、身体が動かなくなった。お金もあるし、そんな自分が嫌だから終わらせてほしいと言い始めるけれど、自分ではどうにもできないから、娘たちに辛い作業をさせて死んでいく。
そんな自由な生き方ができたらいいよね。

♣R
(笑)。

♥M
家族の中に自分の生き方を貫く人がいると、周りの人はそれをサポートしたり、振り回されたりするけれど、きっと娘たちの両親は生き方を貫く側で、そして娘たちは振り回される側ね。

■父親に振り回される姉妹


♥M
淡々としているから集中するけれど、もう少し映画を観ている人を楽しませて欲しいと思った。
エマニュエルのところの夫婦だって、もっと面白い話があったと思うの。

♣R
エマニュエの夫婦間は、割とハッピーに描かれていましたよね。

♥M
うまくいっている感じがしたね。

♣R
そうですね。
父親とエマニュエルがやりとりをするシーン以外は、ご飯を食べたり、夫と幸せそうにハグしたり、ジムに行ったり、日常生活が「普通」に描かれていましたよね。
たまに暗い表情をすることはあっても、基本的には苦しいことを抱えているようには見えなかったです。

ご飯といえば…父親がひと口だけかじったサンドウィッチを捨てようとしたり、冷蔵庫に入れて保管したりしているシーンが気になりました。

♥M
最終的には捨ててしまうのよね。

♣R
あのシーンは何を描きたかったんだろう…。
父親に対する想いみたいなものを描きたかったんですかね?
この作品は「食」に関するシーンが多かったですよね。
「食」が、何かを伝える手段として使われていたように思えました。

♥M
うん、たしかに多かった。
「食」に対する欲求みたいなものを描きたかったのかな?
最後の晩餐のシーンで一番美味しそうに食べていたのは父親。ものすごい食欲だった。
あれは「貪欲さ」みたいなものを描いていたのかもしれないね。

♣R
幼い頃の回想シーンでは、エマニュエルは父親から「また食べているのか」「ずっと食べている」と言われていましたよね。
食べることで父親に対する鬱憤を晴らしていたんですかね?
食べている時のエマニュエルの目には、父親に対する反抗心みたいなものも感じました。

♥M
娘たちは、父親から愛されてもいないし、父親のこと、大嫌いだったと思う。
それほどの愛情も受けていないのに、父親に対して返すものが大きいよね。
ふたりとも、とても成熟している。

♣R
姉妹間の絆が深いですよね。

♥M
しかもちゃんと姉妹の役割が決まっていて、姉であるエマニュエルがしっかりしているから、頼ってる・頼られている、という力関係がはっきりしている。
でも、ふたりの関係性はうまくいきすぎてるよね。

♣R
たしかに…歪み合いや苦悩などをほぼ取り去って描かれていましたね。

♥M
孫がふたり…女の子と男の子がいたけれど、エマニュエルの父親は、きっと男の子の方が好きなのかな。
公証人へ渡すビデオを撮影している時も、男の子だけにメッセージを残していたけれど、すごく無神経な行動。

♣R
人に対する配慮みたいなものが欠落していますよね。
気にするような人だったら、ふたりの孫へそれぞれメッセージを残すと思います。
でもきっと、無意識の行動なんでしょうね。

♥M
全然意識していないと思うし、今までも、そうやって色々な人と接してきたのだろうね。

■「安楽死」を選ぶ


♥M
『君がくれたグッドライフ』という映画があるの。
難病で余命僅かとなった若い男の子の主人公がベルギーで安楽死を選択するという物語なのだけど、主人公が若いからかな…悲しみを感じたの。
でも、これだけ歳を重ねた上に病気だと、悲しみはないね。

♣R
ありがたみがないということですか?

♥M
なんだろうなぁ(笑)。
ありがたみがないというか、だったらこんなに人に迷惑をかけないで、拳銃自殺すればいいのにと思ってしまった。

♣R
あぁ…でもそれすらできない身体になってしまったということですよね。

♥M
自由がきかないからね。

♣R
自分で何もできなくなってしまった、そういう姿を他の人に見せたくない、という理由で「安楽死」を選ぶ気持ちは分かりますよね。

♥M
意識がはっきりしている間にしたいという気持ちね。それは分かる。
でも、そのために全員に命令して、全員を動かすのはすごいよね。

♣R
見せたくないという割には、病気のことや安楽死のことを色々な人に話してしまいますよね。

♥M
彼はきっとかまちょなの。みんなにかまって、かまって、と言っているの。
私、最終的に「安楽死」をやめると思ったくらい。

♣R
金銭的にも法律的にも「安楽死」は大変ですね。
自殺幇助になりかねないから、色々な人に秘密にしておかないといけないし。

♥M
共犯になってしまわないように、「安楽死」の意図を知らせてはいけない。
法律がこのままだと、私たちも簡単に死ねないね。

♣R
それなのに、警察で「安楽死」のことを正直に話して、捕まったりしなかったのはなぜですかね?

♥M
法に触れていないから?

♣R
でも、フランスの法的にはアウトなんですよね?
どうして…(笑)。

♥M
違法なことをやってるの?

♣R
フランスでは違法なんですよね?

♥M
フランスの地で「安楽死」をするのは違法。
でも、送り出すのはいいのかもしれない。

♣R
あぁ…詳しくないから、何でだろうね? としか言えないですよね。

♥M
調べたくなるね。
最近は連続ドラマやドキュメンタリーばかり観ていたから、全然違うところをいじられた感じがした。 考えなくてはいけないという気持ちになったから、観てよかった。

♣R
自分もそう思いました。
実写版のサザエさんばかり観て、ワカメちゃん役の松島トモ子で喜んでいる場合じゃないですよね(笑)。

♥M
(爆笑)。
本当よー! 少し考えましょうよ、私たち。
そのために映画があるということで、今日のまとめはこれよ(笑)。



~今回の映画~
『すべてうまくいきますように』
2021年 フランス/ベルギー
監督:フランソワ・オゾン
出演:ソフィー・マルソー/アンドレ・デュソリエ/ジェラルディン・ペラス/
シャーロット・ランプリング/ハンナ・シグラ

-ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間