ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間

◎81本目『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』

2026/03/10

【あらすじ】
重い病に侵されたマーサとかつての親友イングリッドがふたりで過ごす最期の日々。
マーサは安楽死を望んで準備もしているものの、一人では死にたくなくて、「その日、隣の部屋にいてほしい」と親友のイングリッドに、最期の日々を共に過ごしてほしいと頼む。
静かな森のなかの小さなコテージで、「その日」までの日々を共に暮らすふたりの息遣い、愛情、知性、そして友情が細やかに描かれる。




※途中、ネタばれあり

♣R
演劇を観ているかのようでした。

♥M
ふたりきりのシーンがメインで、セリフも多かったからね。

♣R
映画『ザ・デッド』のセリフを使っていて、詩的な感じもありましたね。

♥M
音楽もベタで、狙っている感じがまた演劇っぽい。

♣R
予想通りの展開ではありました。

♥M
うん、予想が裏切られることはなかった。
マーサは戦場ジャーナリスト、イングリッドは作家。
登場人物全員がインテリだった。
世界的に見てもハイクラスな人たちばかり。

♣R
色彩が鮮やかでしたよね。
引き出しの中を映し出すシーンも、彩りがとてもきれい。

♥M
ねっ!
洋服やインテリアが鮮やかなのは分かるけれど、引き出しの中までだったもの!
ティルダ・スウィントンはどうだった?

♣R
生気の薄さのようなものがすごくよかったです。
ティルダ・スウィントンの映画はあまり観ていないかも…。
ジュリアン・ムーアが相手役でなくてもよかったのかもしれないと、少し思いました。

♥M
そうだね…ちょっともったいない使われ方だったね。
存在感が薄い?

♣R
うーむ。
(知人にこの話をしたところ、その方も同じことを思っていたそうなのだが、ティルダ・スウィントンと並ぶ、同じくらいの年齢と存在感がある人となるとジュリアン・ムーアぐらいしかいないのではと。たしかに他の俳優が演じていたら、イングリッドという役柄がもっと霞んでしまっていたかもしれない。ちなみに、イングリッド役に誰がいいかと尋ねられたティルダ・スウィントンは、真っ先にジュリアン・ムーアの名前を挙げたとのこと。)

■息遣いを感じて


♣R
どんでん返しやミステリー要素があるのかと思っていましたが、そんなこともなく。

♥M
私もアルモドバルだから、何かあるのかと少し構えながら観ていたけれど、途中からそういった展開はないかもしれないと思い始めた。
淡々と細やかに、あまりにもリアルに描かれていた。

♣R
監督たちは、ある年代になると安楽死を考え始めて、それを作品として残したくなるんですかね?

♥M
そりゃあそうよ。私も最近、死を意識した生活をしていたのだけれど、この作品を観終わった時にひとつの理想を見た気がした。

主人公のマーサは、私と同年代の女性…恐らく50代半ばくらいで、死ぬにはまだ早い年齢。
だからこそとても可哀想ではあるけれど、死をあんな風に迎えられるなんて、とても恵まれた人だと思った。

♣R
友人がずっと側にいて、自分で死を選んだ人ですからね。

♥M
そう!

♣R
マーサは、もうひとりの主人公である友人・イングリッドに、「死を迎える時は(自分の)部屋の隣にいてほしい」とお願いしていましたが、最終的にはイングリッドが外出をしている時に薬を飲んで亡くなっていますよね。マーサへの最期の手紙には、「気まぐれで変わることもある」みたいに書いていました。

何故、イングリッドが外出している時に死を迎えようと思ったのかを考えた時に、ふたりで過ごす家で部屋選びをしていたシーンを思い出しました。
イングリッドが隣の部屋は狭いから下の階の部屋でもいいかをマーサに尋ねた時、「息遣いが感じられれば問題ない」と表現していましたよね。

♥M
そうそう。誰かがいる、ということが重要なの。

♣R
少しの期間を一緒に過ごしたことで、実際に彼女が家にいなくても、イングリッドの「息遣い」を感じ、安心感を得られたのかなと思いました。
イングリッドがマーサについての作品を書いているシーンで語られる、マーサがいなくなっても、マーサという存在は自分の中で生き続けるという旨の言葉は、この「息遣い」の感覚に似ているような気がしました。

■友との距離感


♥M
ふたりが大親友ではない、というのがひとつのポイントだよね。

♣R
ふたりの関係性は深く語られてはいませんでしたね。

♥M
何年もの空白の時間があったのよね。

♣R
会話の中でも、一番仲のいい友達に頼めばいいだとか、あなたは何番目にお願いした人だとか、お互いに「一番仲がいい」とは思っていない節は感じられましたね。

♥M
他の人には断られたと言っていた。

♣R
仲が悪いわけではないけれど、微妙な距離感の関係。
でも、だからこそイングリッドは、マーサのお願いをOKしたのかもしれませんね。
あとは、イングリッドの作家としての性というか…。

♥M
そうそうそう、それもあるし、何番目かに頼んだ人ではあるけれど、イングリッドだったら余程のことでなければ受け止めてくれると思ったのだと思う。
イングリッドを作家に設定したということだけで説得力があるけれど、彼女なら「そんなのだめよ」みたいなことにはならないと思うし、受けとめる度量がある人。

♣R
尋問をしている時に警察の人も言っていましたよね。
「あなた(イングリッド)は断らない人だと思う。」と。

♥M
ネタづくりのために協力したとは思わないけれど、イングリッドはいい人すぎる!
人がいい。

♣R
マーサから「ドアを開けて寝るけれど、もしドアが閉まっていたら私はもうこの世にいない」なんて言われているから、起きる度にドアのことを気にする生活なんて、生きた心地しないですよね。

♥M
それほど親しくない人に、すごく酷なことを頼んでいるよね。
わがままでないと出来ないことだと思うけれど、それに付き合えるなんて、組み合わせが余程よかったのかもしれない。
警察には自殺幇助を疑われてしまうけれど、マーサなりに考えて、友達には負担にならないように死んでいき、遺産は娘とイングリッドが相続するよう手紙に書いていたから、単に勝手な人というわけでもない。
あとは、イングリッドは作家だし、この体験を何らかの形で昇華するから、彼女にとっても悪い話じゃないでしょうという想いがマーサは心のどこかにあったと思う。

■終わりに向かって


♥M
タイトルをわざわざ『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』にしているのに、隣の部屋が狭すぎるという理由で上下の部屋になったけれど、何かを象徴していたのかな…どんなに計算をしたとしても、全てを思い通りにすることはできないということ?

♣R
ああ、たしかに。
あんなにしっかり準備をしていたのに、安楽死をするための薬を家に忘れてきたりもしていましたよね。
それは治療の副作用で、注意が散漫になっているからですかね。

♥M
注意散漫になっていることを表すひとつの象徴的な事件だったよね。

♣R
到着したばかりなのに、次の日に後回しにせず、すぐに薬を取りに行って戻ってくるなんてことを、嫌な顔をせずにイングリッドはしてくれるんですよね。
少し人間味がない…ちょっとロボットみたい。
病気の人が相手だとしても、何かしら負の感情が湧き出すような気がしますが、それを感じさせない。

♥M
そうなの。
引き受けたからには全うしようという気持ちがあったのかもしれないね。

マーサとイングリッドの昔のパートナーである男性が言っていた「この歳になると喜びが少なくなって、関心を持てるものが少なくなってくる」という言葉は、多分アルモドバル監督のつぶやきと重なる部分があると思うのだけれど、私はすごくよく分かる…本当にそうなの。

♣R
以前よりですか?
路子さんは割と色々なことに関心を持っている人だと思っているのですが。

♥M
そうかな…昔に比べたら全然。
湧き上がるような何か…というのがすごく減ってきているような気がする。
唯一、映画は観るけれど、本も昔ほど読まなくなってきている。

♣R
気持ちの問題もあると思いますが、体力や身体の状態も関係しますよね。

♥M
あるある。

♣R
目が見えなくなってきて、本を読むのが大変になるとか。

♥M
それもそう。出かけた翌日はものすごく疲れちゃうとか。
タンゴの翌日は使いものにならないもの。
でも、そういう身体と付き合っていかなくてはと思いながらやってる。
歳を重ねることで興味のあるものが少なくなっていったり、病気とはいえ集中力がなくなる…何かが突然パツンと終わるわけではないけれど、終わりに向かって着陸態勢に入っている状態が全編に漂っていた。

■尊厳死


♥M
私は尊厳死に賛成なのだけれど…。

♣R
アメリカでは尊厳死が認められているんですかね。州によってですか?
認められているとしたら、その州に行けば、他の場所に住んでいたとしても尊厳死が認められるんですかね。

♥M
そうかもしれない…薬は違法とかなのかな?
条件が整えば認められるのかもしれないけれど。

アメリカでは、いくつかの州で尊厳死法が制定されているが、「患者が治療の難しい病気で余命が短いこと」「患者に判断能力があること」「患者は自ら薬を服用しなければならないこと」など、いくつかの「条件」が設定されている。

♥M
遺伝子操作や卵子凍結みたいに生まれるほうのコントロールは許されているのに、なぜ尊厳死は認められないのか…何かがおかしいと思ってしまう。
マーサが手に入れた薬はどういう薬だったのかな。

♣R
フランソワ・オゾン監督の『すべてがうまくいきますように』やバンサン・ランドン主演の『母の身終い』も尊厳死がテーマで、薬の話が出てきたかと思います。

♥M
どちらも医療機関のようなところに行って、薬を飲んでいたね。
個人で薬を手に入れて尊厳死ができるといいと思うのだけれど。

♣R
それだと犯罪になってしまう。
個人的に手に入れるのも、手伝ったりするのも犯罪になってしまう。
自殺と尊厳死の境界線は難しいですよね。

♥M
ある程度の条件を満たせば尊厳死なのかな。

♣R
自殺も尊厳死の一部であり、尊厳死も自殺の一部ですよね。

♥M
私もそう思う。

♣R
尊厳死が広く認められないのは、自殺はしてはいけないという世論が主流だからですか?

♥M
宗教的な観点もあると思う。
これだけ色々なことが変化してきていて、世の中が変わってきているのに、尊厳死がなかなか認められないのは、やっぱりおかしいと思うの。

■尊重されるべき「あなたの選択」


♥M
思い出のない場所で死にたいという気持ち、とてもよくわかる。

♣R
思い出のある場所に身を置いていたら、色々なことを思い出したり、考えたりしてしまって、決断が鈍りそうですよね。

♥M
でも、鳥の声が聞こえたり、そよぐ風を感じられるような、あんなきれいな場所にいたら、もうちょっと生きていたいと逆に思ったりしないのかな?

♣R
そのきれいな場所に溶け込みたいくらいの気持ちなのかもしれないですね。
マーサ自身は死を望んでいるのに、周りが治療を勧めてくるみたいな会話がありましたよね。

♥M
病気と戦わないと負けだという話ね。

♣R
聞き辛いことなのですが…路子さんのお母様の時はどうだったんですか?

♥M
母の時は、私は治療を勧めず、私以外のみんなは治療を勧めていた。
母も自分で選択して、治療を受けた。母はお医者さんの言うことは正解だという理解だったから、これでよくなるかもしれないと言われて放射線治療を受けていたよ。

♣R
そうは言っても、みんなに同じような効果があるわけではないから、やってみないとわからないし、よくなるとは限らない。

♥M
うん、そうそう。
それでガクッと免疫が落ちたりするし…。

♣R
メンタルも下がりますよね。

♥M
でも、結局はマーサの娘が言ったように「あなたの選択」なのよ。
周りが何を言っても、自分がそうしたいと思えば、したいようにするしかないの。
それで、できれば、周囲の人たちもその選択を尊重してあげられたらいいね。



~今回の映画~
『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』
2024年 スペイン
監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ティルダ・スウィントン/ジュリアン・ムーア/ジョン・タトゥーロ/
アレッサンドロ・二ボラ

-ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間