☆37本目『メフィストの誘い』
2026/03/02
【あらすじ】
シェイクスピアの研究のため、古い修道院へ調査にやってきた教授のマイケル(ジョン・マルコヴィッチ)と妻のヘレン(カトリーヌ・ドヌーヴ)。
管理人のバルタール(ルイス・ミゲル・シントラ)に迎え入れられ、修道院内を案内されるが、かなりあやしい雰囲気で…。

♥M
ドヌーヴはそんなに出てこない作品だったね。
♣R
教授とピエダーテ(レオノール・シルヴェイラ)とバルタールがメインでしたね。
♥M
ジョン・マルコヴィッチはどんな映画で有名な俳優?
♣R
『マルコヴィッチの穴』は有名ですよね。
♥M
知らない…。
♣R
少女漫画みたいなきれいな目をしていますよね。
♥M
つぶらな?
♣R
そうですね。
ドヌーヴとはちょこちょこ共演をしているみたいですね。
♥M
思い出した…私は『クリムト』で観たことがあった。
ピエダーテ役の若い女優は、オリヴェイラ監督が好きな女優で、監督の作品を観ていくと、結構出演しているの。
『永遠の語らい』では学者役の人だった。すごく美しいから好き。
♣R
ああ、そうなんですか?
気付かなかったです。
ドヌーヴも出演している『永遠の語らい』の監督なんですね。
♥M
そうそう、オリヴェイラ監督。もう亡くなっているけれど、100歳を過ぎても監督業を続けていたって、すごいよね。
■題材の『ファウスト』
♣R
題材とされているゲーテの『ファウスト』を読んだことがないので、何となくこういうことなのかしら? ぐらいの感覚で観ていました。
私にはちょっとレベルが高すぎたかもしれない!(笑)。
♥M
難しくて、観る人を選ぶ作品だったね。
題材としているもの自体がすごく深い。だから分からなくて当然だと思う。
オリヴェイラ監督の作品だから絶対に難しいなと思って、私は観る前にちょっと予習を……。
『ファウスト』はゲーテが生涯かけて書いた大作。
ゲーテは『若きウェルテルの悩み』も有名だけれども、そういう作品とも違う。
仕事の合間などを使いながら何十年もかけて書いたものだから、小説というものを超えて、ライフワーク的な、ゲーテの思想が全て詰まった作品なの。
メフィストフェレスという悪魔がファウストを誘惑するのだけれど、その誘惑に対して、どういう風に抗うかという話だったのを思い出したら、ゲーテはやっぱりすごいという気持ちが大きくなってしまって、色々とゲーテをリサーチし始めちゃって。
映画を観るのが翌日になってしまったくらいに、ゲーテモードになっちゃった。。
♣R
『ファウスト』が題材になっているという情報はあったので、私も少しネットで調べてから観ました。だから、この人はこの役割なんだな、というのは分かりました。
『ファウスト』というと、ドイツの劇作家 フランク・ヴェーデキント原作の劇団四季のミュージカル『春のめざめ』を思い出します。
登場人物の中に、『ファウスト』を読んでいる少年たちが出てきて、母親に「やっぱり『ファウスト』を読むなんてまだ早いんじゃないかしら」と、たしなめられるシーンがあるんです。
当時としてはセンセーショナルな内容で、禁書とまではいかないけれど、ちょっと危うい感じの本として扱われていたのかな、と思って。
学生のような若い子が読むものではないと…。
♥M
人生を斜めから見てしまうとか、そういう意味もあると思う。
そんなの読んでるから、そうなるのよ、みたいな感じの本ね。
■キーワードは「誘惑」

♥M
原題は『修道院』。
この映画は何を描きたかったんだろう…と、思ってはいけない作品だと思う。
ただ、メフィストが出てくるから、「誘惑」はひとつのキーワードになっている。
一体誰が誰を誘惑しているんだろう、というところが面白いポイントね。
役割を『ファウスト』にあてはめると、誘惑者は、黒魔術とかをやっている修道院の管理人バルタール、修道院にやってくる教授マイケルが誘惑される人、悪魔の使いとして誘惑させる役割をするのが、図書館にいる若い女の子ピエダーテ。
ドヌーヴ演じるヘレンは…。
♣R
悪魔を誘惑する人。
♥M
そんな役を存在感で出来る人は…。
♣R
並大抵の女優では出来ないですよね。
♥M
この役はドヌーヴ以外、無理だったと思う。
ファニー・アルダンやジャンヌ・モローあたりもいけるかな…でも、ジャンヌ・モローは見た目の美しさというもので売っている人ではないから、そう思うとやっぱりドヌーヴしかいなかったと思う。
最初からバルタールを圧倒している感じだったもの。
ピエダーテもバルタールを誘惑するよね?
♣R
ラストにしていましたね。
ヘレンがバルタールに「ピエダーテが夫を誘惑しないように森の中で迷わせて」と、お願いするんですよね。
でも実はピエダーテは、ヘレンの夫よりもバルタールに惹かれていたという…。
♥M
うん。バルタールはピエダーテの無邪気で奔放な姿に誘惑されている。
誘惑とはなんだろうと少し考えてしまった。
■バタン・バタン!
♣R
ヘレンは、結構寂しい思いをしている女性だと思いました。
♥M
夫が研究ばかりだからね。
♣R
夜、夫を誘ってみても、無視されてしまう。
♥M
ドアの…。
♣R
バタン!
♥M
そうそう。その音は本当に耳障りな音だけど、夫婦喧嘩をやるのと同じくらいの効果があって印象的だった。
そういう表現のひとつとして、ドアの隙間の明かりが消えたり付いたりするのが見えるのも面白かった。
♣R
扉のバタンバタンシーンは笑ってしまいましたよ!
♥M
笑っちゃうよ。
♣R
そういうものを表現しているというのは分かるのですが、現実であれをしていたら笑います。
しかも1回ではなく、何回もバタンバタンしているから…。
♥M
あと、「わっはっはっはー」と、笑うシーンは、舞台みたいに大きな声を出す感じだったね。
♣R
そうですね。この作品は映画よりも、舞台の方が合っているような気がしませんか?
♥M
わざと大げさな感じに作っているのかもしれないね。
■書き留めたくなるセリフ

♥M
いくつか書き留めた言葉があるの。
ひとつはピエダーテが朗読するシーンの言葉。
「闇は傲慢な光を生んだが
今や光は 生みの母の夜と戦ってる」
♥M
どうして、ここを朗読したのかな。
長い文章の、ここをあえてピックアップして朗読させたということは、ここに何かあると思った。
あとはバルタールが、教授との会話を森の中でピエダーテに話すシーン。
「無意味への挑戦だ 40秒で世界一周する矢を放つのだ」
「矢の行方は?」
「花に刺さったミルクのように白い花が真っ赤に染まる。
若い女性はその花を思想(パンセ)と呼ぶ」
「ポルトガル人の思想は?」
「思想は怒涛の大海を渡り切れないと」
♥M
それに対し、バルタールはピエダーテにこう言うの。
「思想は無力だ。言葉遊びに過ぎない」
♥M
その後のシーンでは、ピエダーテは教授にこう言われたと話すの。
「心のない才能は無だ」と。
すべてのセリフに立ち止まって考えちゃう。
♣R
ピエダーテがバルタールに言う「あなたに惹かれるけど、同時にあなたが憎い」という言葉はどう思いましたか?
♥M
「それが愛だよ」というところね。
覚えてはいるのだけれど、本当にそうかなー? と、思ってスルーしちゃった(笑)。
映画の中でも、バルタールが「思想は無力だ。言葉遊びに過ぎない」と、言っているけれど、監督は全部そういうのを承知の上でやっているのかなと思った。
愛と憎しみについては、色々な人が扱っているテーマだけれども、それを敢えてここでセリフとして使っているのが、「狙い通りなこと」としてやっているような気がした。
だから、この映画を観た後は虚しくなる。
もちろん、愛と憎しみについてのセリフは覚えているぐらいだから、引っかかった部分ではあるのだけれど、私がそこを書き留めなかったのは、そういうことについて考えたりすることが、バカバカしくなるような感じだったから。
なんなのかな、この感覚…。
♣R
例えば、フランソワ・トリュフォーの映画のセリフ「愛は苦しい」では、私たちすごく盛り上がったじゃないですか?
♥M
そうよ、そうなのよ!
♣R
その違いは何ですか?
♥M
トリュフォーの場合、生身の人間の苦しみがあるからかな。
トリュフォー本人の体験がそこにあるように思うから素通りできない。
♣R
『メフィストの誘い』に関しては、物語過ぎて、遠い世界…おとぎ話的な感じがし過ぎているから、共感できないということですか
♥M
でも、おとぎ話でも、共感したり、響くセリフがあったりするでしょう?
私も『ファウスト』が土台になっているからそういう風に思ってしまうのかな、とは思ったのだけれど…。
「言葉遊びに過ぎない」という言葉も、神や天上人のようなものの目線を感じるの。
しょせん人間がジタバタしても、どうしようもない
♣R
神にしてみれば小さなこと、ということですか?
♥M
そうそう。
■おとぎ話のような
♥M
本当におとぎ話みたいなつくりだった。
♣R
最後もチャンチャン的な終わり方でしたね。
♥M
「その日漁師は次のように語った…」みたいなね。
♣R
ラストにドヌーヴが海から登場するシーンもかっこよかったですよね(笑)。
♥M
そうそう!
海から生まれたヴィーナス、アフロディーテみたいだった。
♣R
結構キラキラした映像でしたからね。
♥M
まさにおとぎ話みたいなシーン。
ヌードではなかったね。
やっぱり、この映画はすごい映画なんだと思う。
でも多分、私、内容を半分も理解していないと思う…。
♣R
自分なんか、3分の1も理解してないと思いますよ(笑)。
♥M
やっぱりあの音楽で笑ってしまった時点で、絶望を禁じ得なかったし、寝不足もあったけれど、途中で寝てしまって、巻き戻してもう一回観たのを告白しておくわ。



