ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間

☆42本目『永遠の語らい』

2026/03/02

【あらすじ】
パイロットの夫を訪ねるため、歴史学の教授であるローザ(レオノール・シルヴェイラ)は娘のマリア(フィリッパ・ド・アルメイダ)を連れ、地中海をめぐる船旅に出る。目的地はインドのボンベイ。寄港地で数々の歴史的建造物にふれ、また同じ船に乗り合わせた様々な国の人々との出会いのなかで、歴史や文化について考えをめぐらせる。はるか昔からの西洋文明を振り返りながら人類の未来を想わせる物語。




(ラストに関するネタバレがあります)

♣R
路子さんは、この作品についてのブログ(「永遠の語らい」)を書いていますよね。

♥M
うん。詳しくは書かなかったけれど、とてもいい映画だと思った。
今回は2度目。ラストを知っていてもドキドキしてしまった。

♣R
明確に区切られている訳ではないですが、第1部、第2部、第3部みたいな作りなんですね。

♥M
そうそう。こういう映画の作り方は、珍しいね。

♣R
急に話ががらっと変わりますよね。

♥M
好きなように作ってるなって思う。

♣R
やっぱりオリヴェイラ監督の作品は、演劇的ですね。

♥M
うん。しかし重たかった…同じ監督でも、『メフィストの誘い』は笑えたけれど、この作品は笑えない。

♣R
微笑ましいとは思いましたが、笑うようなシーンはないですね。
最初に話の結末を予言するかのような『大災害の前では人間なんて無力なの』、というセリフがありましたよね。

♥M
ポンペイに行く時のセリフね。
でもそれは自然災害のことよね。

♣R
まあ、たしかに。

♥M
戦争のことも話している。
だから全てのセリフや展開に含みがあるの。

■オリヴェイラ監督の「言葉遊び」


♣R
第1部は親子での観光。

♥M
出発地がポルトガル。ポルトガルのエンリケ航海王子やヴァスコ・ダ・ガマがインド航路を発見したわけだけれど、乗っている船も同じ新航路発見の道を辿っている。
親子が向かっているのはインドのボンベイで、その道中で過去に栄華を極めた遺跡を巡るわけだけれど、その中にはヨーロッパ文明があり、イスラム世界がある。
世界史のお勉強になっていいね。

♣R
全部教えてくれますもんね。
しかも、子ども相手に話していることだから…。

♥M
分かりやすいの。

♣R
第2部は談話。

♥M
全員が違う言語で話すのよね。

♣R
聖書の中に出てくる「バベルの塔」みたいでした。

※バベルの塔とは
旧約聖書の「創世記」に登場する、人類が天まで届く高さを目指して建設しようとした巨大な塔のことで、傲慢な人間の振る舞いに怒った神が言語をバラバラにし、意思疎通ができなくなった人々が各地に散らばったことで建設は中断されたという物語で、人間の傲慢さや言葉の混乱の寓話として知られている。

♥M
テーブルを囲む3人の女性は、実際にそれぞれの国を代表する人なんでしょう?

♣R
そうなんですか?

♥M
有名な俳優がすごくゴージャスな使われ方をしているというのを、映画の説明で読んだことがあるの。

♣R
その3人がひとりずつ小話みたいなものをしていくシーンがありましたが、その時に、それぞれ名言のようなものを言っているんですよね。

大企業の女社長 デルフィーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は
「どんな魅力的な男でも 女を泣かせるものよ」

イタリア人のモデル フランチェスカ(ステファニア・サンドレッリ)は
「愛こそが暴君なの」
それに対して、デルフィーヌが「情熱が女性を囚人にするのよ」と答える。

女優で歌手のヘレナ(イレーネ・パパス)は
「満ち足りた人生を送る者は 幸せになれる機会が多いと思うけれど 深い悲しみも味わうし 裏切られる苦しみもあるわ。

♥M
たしかに私も記憶にある言葉だったけれど、書きとめはしなかった。
オリヴェイラ監督のセリフは、あまり刺さらない。なぜ…。
これがトリュフォーの映画なら、そうは思わないのかな。

♣R
「バンっ」と、目の前に叩きつけられている感じですか?

♥M
自分より人生経験の多い人に、「そういうものよ」と、言われている感じがするの。

♣R
じいさんの教訓みたいなものですか?

♥M
じいさんの教訓というか…(笑)。
「そんなの分かってるよ。分かってるけれど、ジタバタしちゃうんじゃない!」、という感じ? 反抗的に思っちゃうみたいな。

♣R
お母さんに言われるお小言みたいなものですかね。

♥M
近いかも。
でも、言葉遊び的なものも感じる。

♣R
これどう? ねぇ、これはどう? みたいに、勧められているような感じはありますよね。

♥M
そうそう。事前に用意されていて、気の利いたことを言ってやろうという感覚に近い。

♣R
おしつけがましいというか…。

♥M
あとは自慢。
いいこと言ってるでしょう? みたいな...テーブルで話している女性3人が、何か気の利いたことを言ってやろう、という風に見えて。

♣R
やらしぃー(笑)。
まあ、このシーンは、順番に語りましょうのコーナーでしたもんね。

♥M
スピーチだからね。

♣R
そうそう。だからそういう風に感じたのかもしれませんね。

♥M
『メフィストの誘い』を観た時もそうだったけれど、こういう映画を観ると、虚しさを感じるな。

♣R
明日何が起こるかわからないじゃないですか。
そう思うと、細かいことでグジグジしているのが馬鹿らしくなってきますね

♥M
今日だけを生きよう、という気になるね。

■さまざまな言語が飛び交う会話


♥M
ギリシャ語、イタリア語、フランス語、英語で話をしていたけれど、全員が全部話せるということではなく、そのあたりはうやむやになっていたのよね?

♣R
何語は喋れなくて云々みたいなやり取りがありましたよね?

♥M
ポルトガル語かな?
親子が話すポルトガル語は、3人の女性のテーブルに合流してからは出てこなかったね。
合流前の女性たちの会話の中で「違う国に生まれた4人(3人の女性と船長)がそれぞれ自国語を話しているのに、会話が成立するなんて」みたいなことを言ってた。
その後に「知的な女性たちの間には 障害となるものなどないの」というセリフが出てくる。
きっと、話せはしないけれど、なんとなくの雰囲気で聞き取れる程度ということなのかな。

「単語の40パーセントのルーツはギリシャ語なの」というセリフにもあるように、ひとつの言語から派生しているから、そこでの共通言語のようなものを表現しているのかな。

♣R
そこに異色である英語が入ってきた、というのを「アメリカ人の船長」という形で表現しているんですね。

♥M
そうなの。
そしてアメリカ人の船長さんが女の子にプレゼントしたお人形さんが原因で、親子は助からない。きっとそこにも何か意味があるのだと思う。

■突然の暴力と人間の醜さ


♥M
時限爆弾を仕掛けたテロリストは、逃げる時間を与えているってこと?
普通ならもうちょっと早く爆破すると思うんだけど。

♣R
その場でとか。

♥M
出航して10分後とかね。
そのあたり、監督はどう考えてこのように作ったのかな。
全員が逃げられる可能性があるくらい、時間のある爆弾だったということに、何か意味があるのかな…。

♣R
どうなんですかね…。
でも、ああいう非常事態の時の人間の欲というか、逃げる時の必死さというか、言葉が難しいですが、すごいですよね。

♥M
我先にと掻き分け掻き分けだからね。

♣R
人間の醜さが見え隠れしますよね。
実際にそういう状況になったら、いくら死にたいと思っている自分でも同じことをするんですかね。

♥M
多分、同じように搔き分けていくと思う。
船といえば、あの有名な作品は観たことある?

♣R
『タイタニック』ですか?

♥M
そう。あれも同じ。

でも、沈むまで楽団の人たちが演奏をしていた、というのは本当の話なんでしょう?

♣R
そうみたいですね。

♥M
人間にはそういう面もあるのよね。
でも、テロとかは、そんな風に考える時間を与えないものね。本当に突然の暴力だわ。

■世の摂理


♥M
映画だし…という目で見てしまえば、色々な矛盾点があっても、表現したいことがあったらしょうがないとは思うけれど…時限爆弾の時間が残りわずかなのに、最後までヘレナに歌わせるなんて、ずいぶんとのんびりしてる。
一刻を争う時でしょう

♣R
たしかに

♥M
後からそんなことを思ってしまった。
乗客の名簿とかを確認してボートに乗せないのかな、とも。

♣R
確認する時間もないくらいだったということですかね。

♥M
そうねえ…。
ラストシーンは船長のストップモーションで終わるけれど、あの時の顔は、9.11の時のアメリカ人全員の顔を代表しているような気がする。
それに、映画を観ている人ほぼ全員が、一番生き残って欲しいと思う人が、死んでしまうし、そういう意味では、すごい終わり方だと思った。

♣R
世の中の摂理というか…。

♥M
そう。現実に起こっていることだから、それをもう一回映画にしなくてもいいとは思うけど、それでもオリヴェイラ監督はどうしても作りたいと思ったのね。

♣R
9.11以降、インスピレーションを受けて、それを形に残したいと思った人がたくさんいましたよね。

♥M
うん。それに関するものがたくさん作られた。

♣R
でも複雑ですよね…そういうことでインスピレーションが湧いてしまうのは。

♥M
オードリー・ヘップバーンは、若い頃に『アンネの日記』のアンネ役をオファーされたことがあってね。アンネは自分と同じ年の生まれで、同じところにいた人。
一方は死んで、一方はギリギリ生き残った。
そんな風にして死んだ人の人生を演じることで、自分が利益を得るというのは私にはできない、とずっと断り続けてきた。
でも晩年、ユニセフに出会った時、『アンネの日記』の朗読という形でアフリカの飢餓を救うために役立てたのよね。

9.11にインスピレーションを得て作る人たちがたくさんいるのは分かる、自分がどう感じたかを残したいという作り手の気持ちはすごく分かるけどね…。

でも絶対にこういうことはなくならないと思う。
争いとかは人間の性だから、平和な時代が続けば、軍事産業も停滞する。
そうすれば裏社会が動いて、テロが起こったりもする。
そういうものが動き続ける限り、どんなに平和、平和と叫び続けてもなくならない。
今回映画を観て、改めてそう思った。



~今回の映画~
『永遠の語らい』
2003年 ポルトガル・フランス・イタリア
監督:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:レオノール・シルヴェイラ/フィリッパ・ド・アルメイダ/ジョン・マルコヴィッチ/
カトリーヌ・ドヌーヴ/ステファニア・サンドレッリ/イレーネ・パパス

-ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間