ポルトガル&イタリア旅行記*3日目
2025/11/06
★9/27★ミラノからフィレンツェ、ザ・モールでアドレナリンを放出したのちレストラン・アジア人席で思考する
◾️ミラノからフィレンツェへの列車にて
今日は朝8時過ぎの列車でフィレンツェに向かう。
昨夜も20時過ぎに気を失ったので起床は早い。余裕の時間にホテルをチェックアウト。
ところで私たちが泊まったホテルは、なんというか、とてもファンキーだった。
格式ある、といった形容とは真逆の、キッチュなオブジェやら壁画やらがたくさんあった。
最後にどうしてもしたかったことをした。通るたびに、帰るまでには絶対、と思っていた記念撮影である。
Yは呆れ顔で、それでも何枚か撮ってくれた。
フロントで借りていたドライヤー(ああ、ドライヤー……絹女事件……)を返却し、目の前のミラノ中央駅に向かう。
今日も雨。
乾かしてきれいにしまった折り畳み傘を取り出して雨のなかスーツケースを転がした。
フィレンツェまで高速鉄道で2時間弱。ミラノ中央駅構内で、車内でとる朝食を調達することになっていた。
いくつものベーカリーがあって目が泳ぐ(Yが)。どこでもいいじゃん、なんて態度をとってはいけないことはわかっているので、私も真面目に物色する。
いくつか迷った結果、清潔感漂うお兄さんが目の前でサンドイッチを作っていたお店を選んだ。すごく手作り感があるのは、サランラップで包んであるところ。
さて、ホームへ向かおう。としたが目の前にそびえ立つのは、長い長い階段。
私はMサイズの、YはLサイズのスーツケースをもっていた。
だから私は言ったのだ。「エレベーターを探そうよ」。
それなのにYときたら「いや、いけるでしょ」となぜか階段を上り始める。私もつられて続くが、私のほうが軽いし小さいのでYを抜かして上りきり、えっちらおっちら一段ずつスーツケースを引きずるYを写真に撮った。冷酷だからではない。自分のスーツケースから離れたら盗まれる恐れがあるでしょう。
まんなかにいるころ、ひとりの殿方がYに声をかけた。「エレベーターがあっちにあるよ」。
あと10段ほど、というところで、別の殿方がYに声をかけた。「おもちしましょう」。
もった瞬間、殿方が「え、こんなに重いと知っていたら手伝わなかったのに」といった後悔の表情を浮かべたのが気の毒だった。
列車のチケットは事前にYがネットで予約済み。
壮大な雰囲気のミラノ中央駅、電光掲示板でホーム番号を探す。
駅に改札はなくてそのままホームへ。指定席の番号を探して乗りこみ、車掌さんが回ってきたら携帯のQRコードを見せればOK。便利な世の中になったものだわ。
旅慣れているのとオンラインに強いYは、ほんとうに手際よく、あらゆるチケットの予約やらお店の手配やらをする。
私が「すごーい、ありがとう、パチパチ」的なことを言うと「自分でしようとしないと、何もできなくなっちゃうよ」と耳の痛いことを言うので、たまにUberの手配くらいはしてみたりして「やる気」を見せるのを忘れないことが肝要だ。
無事に列車に乗りこんだ。
スーツケースなどの荷物を入れるスペースは座席と座席の間にあった。
背もたれと背もたれの間なので、スペースは三角柱の横バージョン。上がせまくなっている。Mサイズの私のは入ったけれどLサイズのYのは入らなかった。ふたりでぐいぐい押しこんだけれど、途中で上がつかえてしまう。
そんなとき、同じように荷物が入らなくて困っている乗客にスタッフの女性が「あの席、誰も予約してないから置いていいよ」と言っているのが聞こえた。
私たちもそれがいい。
というわけでスタッフの女性を追いかけ「荷物を置くところはありませんか」と尋ねたが、残念ながらもう空いている席はなかったようだ。
そしてスタッフの彼女は、私たちが入れられなかった三角柱の横バージョンの所にスーツケースを押しこみ始めた。
「あ、いま、それやったけど入らなかったんです」と言っても知らん顔でぐいぐいと押しこんでいる。最後は脚で押しこんでいる。ぐいぐいと。
そして信じがたいことに、スーツケースはそこに納まったのであった。
Yのスーツケースはソフトタイプ。柔軟なのね、きっと歪んでいるわね。安いのにしてよかったね。
「出せるかな」とYが不安そうにつぶやいた。「フィレンツェに着く前に早めにスーツケースを出さないと」と、唇をキツく結んで決意的雰囲気なのはなぜ。
鉄道の旅は、Yがよいシートを予約してくれていたので快適だった。
サンドイッチもとてもおいしかった。
Yは繰り返し言っていた。「おいしいおいしい、ほんとによく似てる」と。
私が以前、「Y専属のお弁当クラブ」に所属していたころ作っていたサンドイッチにそっくりだと言うのだった。
私が焼いたパン(ホームベーカリだが)とそこに挟むハム・チーズ、あるいはツナ、その味まで似ているのだと。
それを「おいしいおいしい」と言って食べている姿にじーんとしてしまった。あのころの努力がいま異国の地の列車のなかで、このような形で報われるとは。
「荷物があるからね、どちらかが起きていないとね」とYが言った。「眠るなら順番でね」と。
このセリフはふたり旅のときに、しばしば聞く。けれど順番に眠ったことはない。いつも私が起きている。
今回もYはたちまち爆睡。眠るにも若さという体力がいるのだ、と爆睡しているYを眺める。
私はぜんぜん眠くない。
窓外の、まったく変わらないのどかな風景を見ながら、過去に旅したフィレンツェのこと、そのとき好きだった人のことなどをつらつらと思い出していたら、あっという間に到着の時刻になった。
そろそろフィレンツェね、Yを起こさないと、と思った瞬間、まるでタイマーをかけていたかのようにYがパチっと目を覚まして、充血した目を見開いておもむろに立ち上がったと思ったら、スーツケースをすごい勢いで引っ張り出していた。
そのスピードときたら、手伝うよ、と声をかける隙もないほどだった。危機管理能力に長けているということか。たくましい。
◾️アドレナリン大放出の「007」
フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ駅に到着。
そこから歩いて5分くらいのところにあるホテル「INDIGO FLORENCE」にチェックインをしてスーツケースを預け、身軽になった私たちは今日の目的地に向かうべく、長距離バス乗り場に向かった。
フィレンツェのシンボル、ドームが美しいサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂が見えるというのに、そっち方面とは逆方面へ私たちは歩いた。
興味の対象はひとそれぞれ。私がYくらいのときはアート関連に夢中。そしていまYの興味はファッション関連に集中している。
かくして私たちはリムジンバスで1時間ほどのフィレンツェ郊外、そのすじの人たちには垂涎の的となっているという「ザ・モール The Mall LuXury Outlets」へと向かった。のどかでどこまでも広いトスカーナ地方、青い空のもと、世界最大規模の世界トップブランドのみのアウトレットモールが広々と存在していた。
お目当てのブランドのものたちが、予想以上に種類豊富にあり、予想以上の割引率でYを誘惑していた。
事前に言われていた。
私の役割は、Yが迷っていたら「買っちゃえ」と言うこと。「仕事仕事で、ショッピング、ずっと我慢していたんだ、ここで好きなものを買うんだからいまは我慢って」とYは言っていた。
まかせてちょうだい、と私は言った。
お目当ての店舗の入り口でナンバーが印刷された紙を渡される。「007」とある。
気に入ったものをこの番号を言うことでお取り置きできる。ほかの店舗を回って戻ってきて、レジカウンターで、これは買う、これは買わない、と選別できる。便利なシステムだと思う。
11時のバスで12時に到着。14時ころのバスに乗る予定だった。
けれど結果、乗ったのは17時のバスだったことがすべてを物語っていると思う。
Yはアドレナリン全開、体内だけではなく体外にも大放出、見ていて愉快だった。
私は「買っちゃえ」の役割をちゃんと果たした。
「旅行用ー通貨両替電卓」という名のアプリを開きっぱなしでYに協力した。
日本でオフィスを守っているK君からのリクエストを叶えるべく、すごくその道のプロっぽいおじさまにいろいろ探してきてもらっているYを応援することもした。ソファに座りながら、がんばれー、って。
そして私は何も買うつもりはなかったのに、あるモノと出会って、散財した。
もちろん迷いはあった。けれど決め手となったのはYからの言葉。「次の本の景気づけだと思えば!」と「いつまで生きるかわからないんだから!」。
ふだん私の経済面での計画性のなさに「そこまでだと尊敬の念をおぼえる」と言っているのに、アドレナリンはアドバイスまで操るのね。
バスは行きも帰りも、さまざまなブランドのロゴをわかりやすく身につけた各国からの人々でいっぱいだった。
私の知らない世界がまだまだあるんだなあ、勉強になるなあ。でも早くフィレンツェのあの街並みを歩きたいなあ。なにしろ35年ぶりだもの。
そんなことを思いながら、のどかな風景のなかをぶんぶん走るバスに揺られていた。
◾️観光地レストランでの屈辱
戦利品をホテルの部屋に置いて、ちょっとひと休みしてから、街に繰り出した。
Yが評判のよいお店をチェックしていたので、そこで美味しい食事をすることにしたのだ。
とても雰囲気のよい外観のレストランだった。
テラス席も賑わっていて、ようすが美しく、私は日本では屋内を好むけれど、排気ガスもないし気候も景色もよいからテラス席にしようね、と言いながら入り口に置いてあるメニューをのぞいていたら、お店の人が、どうぞどうぞ、と、ひどくウエルカムなかんじで声をかけてくれた。
そして、私たちをレストランのなかに案内した。
そこは閑散としていて、テラス席とは雰囲気がまるで違った。
なので「テラス席でお願いします」と伝えた。そうしたら「空いていないんです」と言われた。空いてたけど。
私たちの席の後方と前方はアジア人たち(言葉がよく聞こえなくて国はわからず)。やがて案内されて左隣に座ったのもアジア人(韓国の人と思われる)。
「アジア人差別だね」とYが言った。「あからさまね」と私は言った。思えばテラス席には非アジア人だけだった。
来る時の飛行機で思った「人は見た目がすべて」の人種バージョン。いや、アジア人でも、見た目が気に入られればテラス席になるのだろうか。
私とYは共通の知り合いの名を出しながら、あの人ならOKかなどうかな、なんてことを話した。
ミラノのショップや「ザ・モール」ではこのような扱いを受けなかったように思う。
「人は見た目がすべて」。飛行機では子どもか大人かで判断され、ミラノのハイブランドのお店や行ってきたばかりの「ザ・モール」では身につけているもので判断され、観光地のレストランでは肌の色と顔の彫りの深さ浅さで判断されるということか。
でも思えば、私も日々の生活で、しているのだろう。年齢で、ファッションで、言葉遣いで、知識で、いろんなことで人を判断している。
ただ、なんというか、わかりやすくそれを出しちゃうのは違うよね、と思った。いくら相手が観光客で深いつきあいにはいたらないとしても。
しかたがない。アジア人席でも食事が美味しいならよしとするか、と気を取り直そうとした。
なのに、私たちは前菜とサラダとパスタをオーダーしたのだが、すべてが一度に出てきた。それらは小さなテーブルから落ちそうで、前菜を食べている間にパスタは冷えてのびた。
私はYがするような「それでも楽しい時間だとしたい」努力がそもそも苦手なので、あからさまにテンションがガタ落ちモードに。
Yには申し訳ないと思うけど、このお店大っ嫌い、という感情がうずまいて、そして前菜もサラダも、そして冷えてのびたパスタはもちろん、きもちのせいなのか、実際そうだったのか、もはやわからないが、ぜんぜん美味しくなかった。
早々と食事を済ませてレストランを出ると、ぱらぱらと雨が落ちてきた。
駅の地下を通ったりして雨をよけながらホテルに向かう途中、旅の必需品のエナジードリンク「モンスター」を購入。アジア人差別になんて負けないわよ。謎にファイティングモードになるのはモンスターエナジーによるものだろうか。翌朝用に手にもっているだけなのに。
そしてその夜も私たちは早い時間に気を失うようにベッドにすいこまれたのだった。



