ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間

☆46本目『しあわせの雨傘』

2026/03/02

【あらすじ】
スザンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、雨傘工場を経営する夫 ロベール(ファブリス・ルキーニ)から、長い間、飾り壺(お飾りの妻)扱いをされているブルジョアの妻。
夫が心臓発作で倒れ、急遽工場の経営をすることになったスザンヌは、若い頃から付き合いのある市長のババン(ジェラール・ドパルデュー)や子供たちに協力をしてもらい、次第に経営者としての才能を発揮していく。




♥M
りきちゃんは初めて観た?

♣R
ディスクを持っているのですが、ずいぶん前に1度観ただけでした。
少し前に路子さんと話している時「水があふれて」という風に話しているのを聞いて、どういう意味だろうと思っていたのですが、花瓶から水があふれるように、感情があふれるという意味だったのだと、この作品を観て今更理解しました(笑)。

女性の自立もテーマのひとつだと思うのですが、家族との絆や、年齢を重ねても自由に恋愛を楽しむことも描かれていますね。
自分の気持ちに従って行動していくことに、終わりはないのだと思いました。

■飾り壺からあふれて


♥M
原題の『Potiche』が…。

♣R
花瓶、飾り壺という意味ですね。
(公式サイトによると、棚や暖炉の上に飾られる贅沢で豪華だが実用性のない花瓶を指し、それが転じて、夫に隠れてしまう美しい妻や自分のアイデンティティーを持たない女性に対して軽蔑的に用いられる言葉とのこと。)←かっこ部分は文字を小さくする

映画の中では「飾り壺からあふれて」をはじめ、「飾り壺」を使ったセリフがたくさんありましたが、ほとんどが皮肉を含んだ表現でした。

♥M
娘が当選中継のテレビを見ながら、(母親は)「“飾り壺”と思ってた」と、言うのに対して、夫は「飾り壺 だが空じゃない」と言うシーンもあったね。
邦題の「雨傘」は原題に関係ないのね。

♣R
雨傘工場を経営しているのと、かつてドヌーヴが『シェルブールの雨傘』に出演をしていたからという理由で、日本側がそういうタイトルにしたのかもしれないですね。

♥M
インタビューで「また雨傘ね、私はいつも雨傘に追いかけられてるのね。」なんて言ってる。

■自分を楽しむ術を持つ「家庭の主婦」


♣R
スザンヌは、結婚する前からいろんな男と寝るような奔放な性格だったんですよね?
元々はそういう性格なのに、何もしなくていいよと言われ続け…。

♥M
ずっと「家庭の主婦」だった。

♣R
軟禁とまではいかないけれど、閉じ込められた状態。
そんな生活をおくっていたのに、夫の病がきっかけで、動きのある世界へ飛び込んでいく。
それからはいきいきとしていますよね。

♥M
カーラーを巻きながらジャージでジョギングをする「家庭の主婦」時代を見たときから、スザンヌは、人生を楽しむ術を知っている人なんだと思ったの。
(ヘアバンドだと洗練されすぎてしまうから、カーラーを巻いたらどうか、と、ドヌーヴが提案をしたとのこと。)

リスに話しかけたり、詩とは言えないようなメモ書きをしたり、湖を見てきれいだと思ったり、不機嫌な主婦ではない。今の環境を自分なりにすごく楽しんでいる人。
もちろん認められていない部分はあるし、夫は横柄だからカチンとくることもあるけれど、そこで問題を大きくしないし、暗い諦めがないのよね。

♣R
娘に「見ないフリして パパはやりたい放題」と責められても、重く受け止めている感じではないですよね

♥M
夫に対しては、家族の情愛のみで、嫌悪感も恋愛感情もないと思う。
夫が秘書と浮気をしていることを知っていても、秘書に対する感謝もあったりして、男としての夫に執着をしているようにも見えない。

輝き始めて、魅力的に人生を生きているのを見ると、まるで別人に見える、という見方があるけれど、まさにそんな感じ。
自分の夫との息子ではないかもしれない子を産んでおいて、それをずっと隠しながらいても、あんなに人生を楽しめるスザンヌは、いろんなものから自由なんだと思った

♣R
そう思うと、変なことでグジグジ考えているのが、なんだか馬鹿らしくなってきますね。

■ブレのない人間性


♥M
スザンヌは、自分で会社を経営し始めると、従業員の気持ちをくみ上げて、夫よりも上手く経営をしていく。
上手くいったのは、やり手だった自分の父親の遺伝子を受け継いでいるからというのもあるとは思うけれど、前半で描かれているような、彼女の感受性や想像力の豊かさ、人生を楽しむような人間性も影響していてると思うの。
だから、こういう人が責任ある立場に立った時、こういう風になるよね、というのがとてもよく分かった

♣R
お金のことや直接の経営にも熱心ではあるけれど…。

♥M
人間性の方が強い。
息子がカンディンスキーの作品をモチーフにした雨傘を作った時も、「見事ね」と、褒めるけれど、彼女には固定概念というものがなく、美しいものに対する感受性の豊かさ、そしてそれを言葉としてそのまま口にするてらいのなさがある。
それが映画の中でずっと通底していてブレてない。
そういう人は、どんな環境においても、最高レベルでの楽しみ方ができる人なんだと思った。

娘のことはどう思った?
最終的に父親側につくけれど…。

♣R
父親側についたというよりは、自分の夫を助けるためなんですよね?

♥M
そうね…でも描かれ方としては、母親を認めていないでしょう?

♣R
ブルジョア生活で育ったおバカちゃんぐらいに思っていますよね。

♥M
息子は違うよね?

♣R
息子はお母さん大好き! みたいな感じで、母親とも信頼関係がある。
でも、スザンヌは息子と同様に、娘への愛情を持っていますよね。
娘からバカにされているのに、それでも愛情を持っていて、一緒に仕事をしましょうと、提案までする。

♥M
あんなにバカにされているのに確執もない。
自分に自信があるとそうなるのかな?

♣R
感情がない訳でもないんですよね。
「水がこぼれるのよ 飾り壺からあふれて」と、言っているぐらいですから。
でもきっと、あふれたら、あふれたなりにどうするかを、回転の早い頭で考えられる人なんですよね。

■人生は美しい


♥M
湖に置き去りにされた時にヒッチハイクをして、トラックに乗せてもらうシーン、よかったな。
マッチョな運転手との間に、何か特別な話をするでもないのに、あそこに流れているふたりの空気感…人生に対する価値観みたいなものが共鳴しているような空気が流れていて、とてもよかった。

♣R
乗せてもらって申し訳ない、という感じもないんですよね。

♥M
うん、全然。きっと、わーいラッキーぐらいに思ってる。
りきちゃんはどのシーンが好き?

♣R
自分はスザンヌとババンがナイトクラブ・バダブン で踊るシーンが好きです。


♣R
変な踊りのシーンがあると、オゾンの映画だという安心感があります(笑)。

♥M
オゾンは俳優をよく踊らせるからね。

それにしてもラストシーンでスザンヌが歌うシーンはすばらしかった。
「人生は美しい」という曲で、フランスの偉大なるミュージシャン、ジャン・フェラが、深刻な交通事故を生き延びたシャンソン歌手イザベル・オーブルのために書いた曲みたい。
歌詞もよかった。


♣R
オゾン監督は、歌の選択がものすごくうまいですよね。

♥M
歌が好きだよね!
家事をしながら聞いているラジオの音楽(Michéle TorrのEmmène-Moi Danser Ce Soirという曲)のチョイスも好きだし、それに合わせて口ずさんでいるのも好き。

♣R
最近の作品だと、『彼は秘密の女ともだち』のドラァグクイーンのショーで流れたニコル・クロワジールの「Une femme avec toi」もとても好きです。
映像との組み合わせが本当にいつもぴったりなんですよね。
歌はセリフよりも引き付けるような力があるので、観客がその映像の世界に入り込みやすくなるような気がするのですが、特にオゾンの作品に関しては、主人公の心境と歌詞がとてもマッチしているので、なおさらそう思います。
ドヌーヴもヴェネチア映画祭の記者会見で、「歌は演技では感じられない喜びをもたらしてくれる」と言っていましたね。

♥M
歌の後のラストのセリフは「人生は美しい」。

♣R
『ミス・ブルターニュの恋』の終わり方に似ていましたね。

♥M
そうなの…『ミス・ブルターニュの恋』のラストのセリフは「人生は続く」だった。
『ミス・ブルターニュの恋』のベティとはシチュエーションが違うけれど、芯の強さが似てるね。
ふたりとも何かになろうという野心を持っているわけではないけれど、何かの拍子に栓みたいなものが抜けて、人生が劇的に変化する。
だから『ミス・ブルターニュの恋』で受け取った印象と観た後の感覚がすごく似ているの。

「人生は美しい」を歌い終わった後に、「そうよ、人生は美しい」というセリフで終わでしょ。はじめて観たときには、ただ胸うたれて涙が溢れたけど、2回目に観た時には、ジョギングのシーンを思い浮かべたの。
スザンヌは、自然や日々の生活の中で楽しみを見つけることに「人生は美しい」と感じることのできる人間性を持っている。
だから必ずしも社会的な成功を収めなくても、ずっと思っていた言葉なのだと思う。

人生捨てたもんじゃないな、ってやわらかく思える、そんな映画だね。オゾン監督の場合、感じるものが感じればいいという作り方をするから、受け取ったものはやわらかくて、おしつけがましくない。だから好き。



~今回の映画~
『しあわせの雨傘』
2010年 フランス
監督:フランソワ・オゾン
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/ジェラール・ドパルデュー/ファブリス・ルキーニ/
カリン・ヴィアール/ジュディット・ゴドレーシュ/ジェレミー・レニエ

-ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間