ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間

☆38本目『ポーラX』

2026/03/02

【あらすじ】
アラジンという名で小説を発表し、話題となっているピエール(ギョーム・ドパルデュー)は母のマリー(カトリーヌ・ドヌーヴ)と共に、これといって不満のない日々を送っていた。婚約者のリュシー(デルフィーヌ・シェイヨー)との結婚が決まった頃、姉を名乗るイザベル(カテリーナ・ベルゴワ)という女性が現れて…。




♣R
この映画に関しては、ギョーム・ドパルデューを楽しむ映画だと言いたいです。

♥M
ドヌーヴは最初しか出てこないものね。

♣R
そうなんです。ほとんど出てこない。
主演の女性も、魅力があるわけでも、美しいわけでもない。

♥M
主演女優というのは、自分のことをピエールのお姉さんだと言っているジプシーの女性よね?

♣R
そうです。

♥M
彼女は有名な方?

♣R
どうでしょう…若くして亡くなっているみたいです。

♥M
『ポーラX』というタイトルはどういう意味なの?

♣R
原作の『Pierre ou les ambiguïtés』の頭文字「Pola」に、映画に使われた10番目の草稿を示すローマ字の「X」を加えたものなんですって。

♥M
そういうことなの…いつポーラが出てくるのかと思ってた(笑)。
「ambiguïtés」はどういう意味?

♣R
(調べる…)曖昧? 「曖昧なピエール」?
タイトルをまるっと翻訳サイトにかけると、「ピエールまたは曖昧さ」と出てきました。
どっちつかずみたいな感じですかね?

♥M
優柔不断とか、どうしようもないみたいな?

♣R
まあ、たしかにどうしようもない人でしたよね。

■レオス・カラックスの描き方


♥M
りきちゃん的にはどうだった?
ギョーム・ドパルデューを楽しむ映画なだけだった?

♣R
陰鬱な雰囲気は好きでした。

♥M
ピエールが落ちぶれていくあたりが好き?
最初は陽光爽やかな雰囲気だったけれど…。

♣R
どちらも好きです(笑)。

♥M
イザベルが現れる前のトーンが全然違う。
始めは白いシャツに光がさんさんと降り注いでいて、何も不自由なく暮らしていた人たちが生活しているシーンだし、豊かな金髪の後ろ姿で登場するマリー(カトリーヌ・ドヌーヴ)も輝いているから、素敵だと思って観ていたけど。
でもどんどんカラックスの世界になっていって…(笑)。

♣R
実はカラックスの映画を観るのは初めてでした。

♥M
カラックスの作品は、日常的な物語として見てはいけないの。
カラックスはエキセントリックな人で、自分の趣味が作品に出過ぎて、ついていくのが大変な作品が多い。
どこかで深層心理のような見方をしなくては、ついていけないのよ。
変な交響楽団みたいなレジスタンスだって、訳がわからないでしょう?

♣R
たしかに(笑)。
カラックスの他の作品映画にはそういうのありましたか?

♥M
私が観た作品は破滅的で悲しい恋愛ものだったから、そういうのは出てこなかったけれど…妙に変な後味が残る作品ではあったな。

■近親相姦的な親子


♣R
ドヌーヴの出演シーンは本当に少なかったですね。

♥M
ある程度の年齢を重ねると、ゲスト出演的なオファーが増えるみたい。
その時に「この役は私じゃなくても成立するかどうか」を彼女は考えると言ってる。
なぜかと言うと、「ケーキのトッピングにはなりたくないから」。
だから、この映画はドヌーヴ以外だったら成り立つかどうかを考えてみたの。

♣R
作品内での存在感はありますよね。

♥M
ねっ! それと妖しさと。
ピエールとはどういう関係なんだろうとか。

♣R
ふたりでベッドの上でタバコを吸うシーンは…。

♥M
近親相姦的だったね。
ピエールは息子でしょう?

♣R
そうです。
母親のことを「お姉さん」や「マリー」と呼んだりしているから、私も、近親相姦をにおわせているのかな、と思いました。

♥M
そういう意味では、やっぱりドヌーヴは適役だったね。
そういえば、ドヌーヴのヌードシーンがあったね。

♣R
お風呂のシーンですよね。
この時、ドヌーヴは何歳ぐらいでしたっけ?

♥M
50代半ば。その年齢でヌードを見せている。
彼女はヌードになることについて否定しているし、積極的にヌードになる人と、自分は違うと言ってる。だからあのヌードシーンはびっくりしたの。
息子にああいう姿を見せてしまえる関係性を表現するためには、必要だと感じたのかもしれないね。

■姉イザベルに何かを感じるピエール


♣R
ピエールが夢に見ていた乱れた黒髪の女性というのは、イザベルのことなんですよね?

♥M
そうだと思う。

♣R
だからイザベルが木の陰から見ているのに気づいた時、追いかけるんですよね?
でも、真っ暗な森で見つけた、あんな髪ボサボサの怪しい感じの人について行くものなんですかね? ずっとボソボソ話していますし、怖くないですか?

♥M
そこにピエールの何かがある。
会ってもいないのに、夢で見続けている人だから、少しオカルトチックなところがあると思う。

ピエールはイザベルに対して、レスキュー願望を感じているし、ひとりの女性としても魅力を感じているのよね。

♣R
そのあたりの描かれ方が、少し曖昧でしたね。
恋人のような感じでもないですが…。

♥M
でも、欲望はあるからセックスはする。

♣R
そうそう。

♥M
お互いにズルズル引っ張りあって、破滅へと向かうの。

♣R
それを象徴しているのが、血の川でふたりが絡み合っているシーンですよね。

♥M
うん、多分そう。
イザベルは、「私を信じて」と最後まで言っているけれど、真実を伝えることに対する色々なことを感じたのね。

♣R
でも、真実を伝えることが、必ずしもいいとは限らないですよね。

♥M
そうよね…。
イザベルは、自分の求めているものが分かっていない。
ただピエールと一緒にいたい、というだけでしょう?
それは弟だから?

♣R
お金狙いな感じでもなかったですし、どうなんでしょう…。

■破滅していくピエール


♥M
この映画は何が描きたかったのかな。

♣R
彼は小説家として有名で、あんな城みたいな所に住んでいて、生活も裕福。
でも、イザベルが姉だと名乗り出てきたことで、自分の中にある闇の部分みたいなものに触れた…みたいな感じですかね。

♥M
彼には破滅願望があったと思う?

♣R
破滅願望…あぁたしかに…。

♥M
ピエールがバイクを走らせるシーンも、事故に遭いそうな雰囲気を感じた。

♣R
危うい雰囲気でしたよね。

♥M
編集者の女性に「この世の陰鬱な真実を暴きたがってるけど感覚が古すぎるわ」「成熟した小説を書こうとしてるけど あなたの魅力は未熟さにある」と、批判されるでしょう?
自分ではとてもよく書けたと思っているから、他の出版社にも作品を送るけれど、けちょんけちょんに言われ、箸にも棒にもかからないようなことを言われる。
でも彼は、姉の出現により生活が激変したことで、傑作を書いているような気になっている。
ピエールには自分に対する過大評価があるのよ。
「誰かを助けられる」「人間の闇に迫るような作品を書ける」などと思ってはいるけれど、両方実現しない。
単純な言い方をすれば、何の苦労もなく育ってきた人が、闇の部分に触れて、それが本物っぽいと思い、そちら側で何かを成し遂げられるだろう、と今までの経験値で測ってしまうけれど、実際にはそんな能力がないから破滅していく、という感じかな。

♣R
誰も助からないですよね。

♥M
救いがない。

♣R
姉を助けることもできないし、結局、マリーも死んでしまう。

♥M
ジプシーの子も、ピエールが「臭い」という言葉を教えなければ、死ぬことはなかったのにね。

■マスカラを落としながら


♥M
一番不気味だと思った存在は、ピエールの婚約者であるリュシー。

♣R
何かを起こすような雰囲気がありましたよね。

♥M
ピエールの夢に対して、彼女が心配をしているのが伏線としてあった。
それからフラれたショックで病気になってしまうけれど、後々、彼を心配して訪ねて来るのが、まるで預言者みたいで。…彼女は生き残るよね?

♣R
そうですね。

♥M
ピエールも死んではいないのかぁ。

♣R
捕まっただけですね。

♥M
結局この話は、外交官である亡くなったお父さんが、マリーを裏切り、他に子どもを作っていた、という話なのよね。

♣R
マリー(カトリーヌ・ドヌーヴ)が泣きながらバイクに乗るかっこいいシーンがありましたね。

♥M
マスカラを落としながらね。
あのシーンは最高だった。

♣R
ミュージックビデオみたいでしたよね。
あのシーンでマリーが泣いているのは、夫が裏切り、他に子どもを作っていたからですか?
それとも、ピエールがいなくなったからですか?

♥M
夫のことを引きずっている感じはしなかったから、息子が自分から離れてしまったからではないかな。
単に心配だったからという意味だけではなく、近親相姦的な関係があったことも大きいと思う。

■ギョーム・ドパルデューの危うさ


♥M
ギョーム・ドパルデューの出演作はたくさん観ているの?

♣R
実はほとんど観ていないです。
亡くなる直前ぐらいに出演していた『ベルサイユの子』、という作品ぐらいです。

♥M
りきちゃんからそのタイトルを聞いたことがある。

♣R
『ランジェ公爵夫人』という作品が有名ですね。
代表作はこれ、という作品はあまりないですが、いつも危うい雰囲気を感じます。
危うい感じでバイクを運転するシーンが『ポーラX』の中にもありましたが、本当に彼にぴったりなシーン。あとは小汚い感じもぴったり。

♥M
彼は実生活でバイク事故に遭っているのね。

♣R
たしか、その影響で彼は片足を切断しています。

♥M
本当だ...ネットに2003年に右足を切断したと書いてある。
その後も義足の存在を感じさせない演技を続けた、って。

♣R
足を引きずりながら歩くシーンがありましたが、多分こういうのが関わっているんだと思います。

♥M
お父さんのジェラール・ドパルデューは全然危うい感じがしないのに、なぜ息子はこんなに危うい感じなのかな。

♣R
父親への反発からですかね。
妹のジュリー・ドパルデューも全然違うんですよ。

♥M
妹の出演作は観たことある?

♣R
『ロング・エンゲージメント』や『正しい恋愛小説の作り方』とか、彼女の出演作の方が観ているかもしれないです。

♥M
ギョーム・ドパリュデューは37歳で亡くなっているのね。

♣R
たしか映画の撮影中にですよね。

♥M
うん、そう書いてある。

♣R
で、父親のジェラエール・ドパルデューがお葬式の時に、『星の王子さま』の一節を読み上げたことは有名ですね。

♥M
そうなんだ…。
そんなことを知ると、この役は妙に合っているね。

♣R
そうなんですよ。危うさも含めて、彼にはぴったりな役でした。



~今回の映画~
『ポーラX』
1999年 フランス・ドイツ・スイス
監督:レオス・カラックス
出演:ギョーム・ドパルデュー/カトリーヌ・ドヌーヴ/カテリーナ・ゴルベワ/
デルフィーヌ・シェイヨー

-ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間