◎82本目『小川のほとりで』
【あらすじ】
韓国のソウル、女子大学の演劇祭まであと10日間。
あるクラスの演劇指導にあたっていた演出家が三人の学生と関係をもっていたことが明らかになったため、稽古は頓挫する。
クラスの責任者である大学講師のジョニム(キム・ミニ)は有名な俳優・演出家である叔父シオン(クォン・ヘヒョ)に助けを求め、演劇祭に向けて寸劇作りがスタートするが、学生たちの恋愛トラブルはまだ尾を引いていて、揉めて、またジョニムの上司にあたる大学教授ウンニョル(チョ・ユニ)とシオンとの大人の恋も始まり、学生たちの様子も変化してゆき……

♥M
ホン・サンスの映画を観た後は、マッコリが飲みたくなるね。
♣R
そうですね。お酒を飲んだり、ご飯を食べるシーンが多いですからね。
♥M
カップラーメンでもいいと思った!
♣R
カップラーメン登場してましたねぇ。
今回のラインナップはラーメン、うなぎ、トッポッキでした。
美味しそうなんですよね。
♥M
ホン・サンス監督。ストーリがちゃんとある作品は珍しかった。
時間軸を月の満ち欠けで表現していたけれど、だいたい半月か1ヶ月弱くらいかな。
三日月から満月になっていってた。
♣R
稽古は10日間でしたが、さらに滞在していましたもんね。
原題の『수유천』はどういう意味ですかね…『水喩川(スユチョン)』。
作品内に登場する川の名前なんですね。
♥M
テキスタイルアーティストの主人公 ジョニム(キム・ミニ)の作品名でも使われていたね。
キム・ミニは、この作品では地味だけれど、気の強い役柄だった。
♣R
結構、声を荒げたりもしていましたよね。
いつもは低血圧気味のしゃべり方なので、新しい面を見た感じです。
キム・ミニは不思議な魅力がありますよね。
一般的な美人という訳ではないですし…。
♥M
そうそう。目を引くような美人ではないけれど、かわいいし、表情がとてもいい。
■お金があっても…

♥M
大学教授のウンニョルは「私ほどのファンはいない」と言ってしまうくらいのシオンの大ファンで、ひとりではしゃいでいたけれど、ああいうシーンが本当に上手い。
こちらが恥ずかしくなってしまうくらいだった。
♣R
そういう時、どうしよう、どうしよう、みたいになって、上手く言葉が出てこなくなってしまうんですよね。
♥M
そうそう、分かるよね。
その後に、みんなでうなぎ屋さんに行くけれど、教授がシオンに「上着を脱いだら上半身がすごいですね」と、言っているのにウケちゃった(笑)。
「あら、あなたおいしそう」みたいな感じでしょう?
♣R
狙ってます感がありますよね(笑)。
教授は、お金があっても学生におごるくらいしかなくて、服を買ったり、旅行に行ったりもしない。
♥M
自分の貯金額を話しているのには驚いた。10億ウォン以上あると言っていたね。
♣R
軽い感じで話していましたよね。
♥M
ふたりを全然警戒していないのだと思う。
♣R
たしかに、自慢するという感じではなかったです。
♥M
気付いたら貯まってしまっていたみたいに、ちょっと虚しく思っている感じだった。
♣R
旅行に行ったとしても寂しくなってしまうと話していたので、シオンと仲良くなるタイミングとしては、とてもいい時期だったような気がします。
旅行で寂しくなる気持ち、分かります…ふと我に返る瞬間があるんですよね。
ひとりで旅行していたのなら、なおさらそういう風に思いやすくなりそうです。
ジョニムは、シオンと教授が関係を深めていくのをずっとヤキモキしながら見ているんですよね。
♥M
実はシオンが離婚をしているのを知らないからね。
ジョニムは、一般的な人物の代表として描かれていたように思うな。正論を堂々と言う人ね。私たちの苦手な人種を代表しているような人物。
■神秘体験

♣R
この作品を観た人はみんな、3日間、血の涙を流したいと思ったと思いますよ。
♥M
神秘体験の話ね。
♣R
きっと、キリスト教由来の話ですよね。
教授の家にもマリア像が飾ってあったし、元々、韓国はクリスチャンが多いですもんね。
♥M
本当の話かどうかは別として、自分がそう感じたなら、それは神秘体験になるから。
ジョニムは、血の涙の奇跡が起こってからは、全てがうまくいくようになったと思っていて、恋人はいないけれど、今は本当に幸せだと心底思っている。それはうらやましいとも思うけど、でも、彼女のような人、小さなことの中で幸せを感じているような人は、誰かを批判したりすることが多いような気がする。
血の涙を流してた理由はストレスかな。
血の涙が止まって青空が見えた時、すぐに工科大学を辞めたって言っていたね。工科大学で自分がしていたことは、したいことではなくて、だから血の涙が流れて、それで血の涙が止まった時、辞めようと決心した、ということよね。
そこから彼女はテキスタイルをやるようになった。
♣R
思いったってやり始めたのか、元々、テキスタイルをやっていて、一度は諦めたけれど、また始めたのか…。
♥M
どちらにしても、自分はこの道を行こうと思ったってことよね。
この話は、ジョニムが学生の頃の話だから、20年以上前の話でしょう?
と、いうことは、20年間もの間、ずっと順調だったということなのかな…学生時代や就職の時期なんて、みんなすったもんだすると思うんだけど。
♣R
男関係の話でキィーってなっていたのは、その20年の間で何かあったからなんですかね。
それとも元々のものだと思いますか?
♥M
あまり色恋に対して興味があるような感じではなかったよね。
私たちのようなタイプではないけれど、そのくせ「彼女と寝たの?」みたいなことをズバズバと聞いたりしていたよね(笑)。
♣R
なかなか自分のおじさんにそんなこと聞けないですよね(笑)。
ラストは、ジョニムの笑顔のシーンでしたね。
あの笑顔は、自分の作品で扱っている川と、いつも行くうなぎ屋さんの横を流れる川がつながっているということが判明して、作品のインスピレーションを感じられたからですか?
♥M
彼女は、ライフワークとして、下流から上流に向かっていくような作品を作っているけれど、分かりやすい柄やグラデーションではなく、一見、何か分からないようなものを織っている。
自分だけの世界観を強烈にもっている人だと思うの。
たまたま、川がつながっていることを知って、自己正当化ではないけれど…自分のしていることが間違えていない、みたいに思えたのかもしれない。
思いがけずに行ったところにそういう場所があって、そこから作品のインスピレーションを得たというよりは、全ての物事はつながっていて、今日この場所に来たことにも全部意味がある、みたいな。
血の涙の神秘体験をもつ人だったら、容易にそういう感覚になるんじゃないかな。
■好きだということに偽りはない

♣R
元々、寸劇を演出していた男性ジュヌォンが、メンバーのなかの3人と付き合っていたのが発覚して、チームがバラバラになってしまった話がありましたが…ジュヌォンの言い分からすれば、3人にそれぞれ愛を注いだということですよね。
♥M
そうそう。ドン・ファン的な感じ。
それぞれを好きだという気持ちに嘘はないのだから何が悪い、と言っているのはすごく分かる。
♣R
でも、相思相愛になったことは間違ったことではないと言いつつも、それを理由に仕事を中断させられたことは恥ずかしいと思っている。
結局、仕事上でそういうことがあったという事実が世間にバレてしまったら今後困ると思って、バレないようにするために戻ってきた感じはありましたよね。
♥M
悪いことをしたとは思っていないけれど、このままだと世間的に非難されてそれは困るということでしょう?
まだ気持ちが揺れている感じがする…もっと突き抜けて欲しかった。
世間代表のジョニムには、ジュヌォンのそんな言葉は全く響いていなかったけれどね(笑)。
結局、その関係がバレて、みんなを傷つけてしまっているわけだから、ジョニムは許せないのだと思う。
ジュヌォン、3人のうちのひとりにいきなりプロポーズするじゃない?
それで彼女はそのプロポーズに誠実さを感じたと言っていたけれど、みんなからは「誠実な人が3股かける?」と、つっこまれていたね。
♣R
3人の中でも特に君が一番だったからプロポーズ、みたいな感じですよね。
♥M
うん。誠実さを感じたというのも、なんとなくわかるなあ。3人のうち、自分は3番目につきあい始めたわけだから、他のふたりとはダメだったけれど、君と出会って…みたいなことを言われたらね。それに彼、ジュヌォンにしてみれば好きだという気持ちに偽りはないわけだから…。
♣R
妙な真実味がありますよね。
♥M
プロポーズされた彼女はどうすると思う?
♣R
若さ故に…みたいなのがありそうですよね。
♥M
うんうん。みんなの反対を押し切ってね。
■即興の詩

♥M
シオンは俳優兼演出家だけれども、何か過去に問題があって、業界から干されてしまった人物。
話の流れからすると、政治的なものが絡んでいたのかな?
♣R
作・演出した寸劇が「政治的だと誤解されたかも」と話していたり、自分の姉から「あんたはアカか?」と言われたりしたというシーンがありましたね。
アカって…。
♥M
共産主義ね。韓国だと反体制派ね。
♣R
作った寸劇でブーイングが起きてしまったのも、それを批判するような生徒がいたり、過去の問題で干された時のことを知っている人がいたからなのかもしれないし、学校の総長もそういうことがあった人ということで、よく思っていなかったのかもしれないですね。
♥M
打ち上げで、シオンが生徒たちに「自分がどんな人になりたいか」を詩で表現させていたね。
みんな詩を詠みながら泣いていたね。私も混ざりたかった。
♣R
いいシーンでしたよね。どれもいい詩でした。
たった10日の間に、シオンと生徒たちはずいぶんと打ち解けていましたよね。
会った当初はよそよそしかったのに、ひとつの演劇を一緒に作ったことで、信頼感が生まれたんですかね。
打ち上げで涙まで流していましたもんね。
♥M
全員泣いてた…みんな何かしら抱えているものがあるんだな、と思った。
何かのきっかけで真剣にそういうものに向き合う場があったとき、抱えているものが一気に噴出することってあるよね。
3人の女生徒たちの詩で、どれがいいと思った?
♣R
自分は3人目の詩ですね。
♥M
「私はバカです」の詩だね。
自分に自信がなくて、自分は魅力がないと思っていて、それで周りからどんなにひどい扱いを受けても、私も人間、というプライドを守りながら片隅で生きていこうという。相当な体験をしてきたってことよね。
♣R
寸劇に参加したことでそう思ったのか、実はずっと思っていたことだったのか。
どちらですかね…彼女にとって、寸劇参加はターニングポイント的なことだったと思います。
♥M
きっかけにはなったよね。
でも、こういうやりとりでこんなことを気づきました、みたいなシーンはなかったよね。
♣R
練習のシーンもほとんどなかったですよね。
♥M
詩を作って話した後に、みんなが「そんなことないよ」みたいなことを言わないのがよかった。
♣R
どの詩に対しても、「ははは」みたいに冗談として笑ったり、馬鹿にしたりするものはなかったですね。
♥M
1人目の詩は、「自分ではない人になりたい」と語る詩だった。
彼女は、相手に受け入れてもらえる人になりたい、正直に生きたいと言っていた。
シオンが一番共鳴していたのは、2人目の詩だったね。
♣R
「愛について」の詩ですね。
♥M
そうそう。1日だけでいいから完璧な愛を感じたいという。でも完璧なものを追い求めていると、その1日…今その瞬間、という時が来たとしても、分からないような気がする。
実はあの時だった、みたいになってしまいそう。
♣R
「毎日」ではなく「1日」という言葉にこだわっていましたよね。
♥M
そうね。1日だけだと、余計、その完璧な1日を追い求めてしまいそう。
♣R
最後はそれぞれ詩で締めくくりましょうかね。
では、私から…。
たとえ、誰かに優先順位をつけられたとしても
その順位が低いものだったとしても
それに対して心が動くことがあっても
自分を曲げす、しっかり軸を持っていれば
いつかまだ穏やかに過ごせるだろう
♥M
私は、詩ではないけれど、マーク・トウェインの言葉で締めくくろうと思う。
微笑みをもたらした事柄については、決して後悔するな
