日々のこと

ユーロスペースと「よいこの映画時間」

 昨年の11月から「ユーロスペース」に通っているみたいになっている。

 なじみのあるミニシアターのひとつで、渋谷のホテル街にあって、いつもどきどきしながら路地に足を踏み入れる。このところ通ったようになっているのはレオス・カラックス監督の作品がリバイバル上映されていることと、ホン・サンス監督の新作がたてつづけに上映されているため。

 11月8日に『旅人の必需品』、12月20日に『小川のほとりで』、1月17日に『ポンヌフの恋人』、そして昨20日『水の中で』を観てきた。ぜんぶ、りきマルソーと一緒。ふたつの作品はすでに記事にしてアップしてくれている。

 映画、いまは配信で観られるのが多くなっているから、それですませてしまうこともあるけれど、やっぱり映画は映画館で観たいよね、とあらためて感じている今日この頃。

 ユーロスペースに集う人たちは、その種の、つまり単館上映されるような作品が好きだから(たぶん)、なにかちょっと特有の色彩をもっているように思う。だからどんな人がどんな人と、あるいは一人で、来ているのか観察する楽しみもある。

 『ポンヌフの恋人』公開は1991年、私は映画館で観たのかレンタルして家で観たのか忘れてしまった。そして4Kレストア・ポンヌフは、圧倒的だった。色彩、音、「生」のエネルギーがあふれて、後ろの席の私にふりかかるみたいだった。

 エンドロールがひどく長くて、途中、音楽も終わって、無音のなか、ひたすらクレジットが流れ続けていた。けれどほぼ満席の会場、若い人たちが多いな、と感じた会場、誰一人として席を立たなかった。シネコンではありえない現象だ。私は瞬時に会場すべての人を愛した。会場ごとだきしめたくなった。あれは愛しいひとときだった。

 そして昨夜の『水の中で』。9時ちょっと前からの上映という遅い時間だったけれど、上映時間が1時間だったから、そのあとちょっと話せるね(録音できるね)、ということで出かけた。

 ホン・サンス監督、全編ピンボケという実験的な作品で、予告編でそのことを知っていた私は、りきちゃんに「私はこの作品はパス」とか言っていたのに気が変わったわけだ。それを観ることで自分が何を感じるのか知りたい、と気持ちが動いた。

 内容はりきちゃんが、すこししたらまとめてアップしてくれるでしょう。

 ただ、私は日々の生活のなかで、周囲の人たち、事柄をいったいどのくらい「見て」いるのだろう、見てるつもりでもぜんぜん見ていないのでは? ピンボケなんてものじゃないかも、とは思った。

 映画を観たあとの至福の会話時間。りきちゃんが探してくれていた夜中もやっているカフェが満席だったので近くのプロントに入った。入るなり店員さん…さわやかなかんじのお兄さんが「フードのラストオーダーまで3分、ドリンクのラストオーダーまで15分(だったかな、そのくらい)、閉店が11時ですけれどいいですか?」と尋ねた。1時間弱あったから「いいでーす」と言って私たちは席についた。早く片付けたいだろうから迷惑なんだろうな、とちらりと思いつつ。

 私たちが会話に熱中している間にお客さんがどんどん帰っていって、私たちだけになった。お店のスタッフの人たちが片付けを始めている。ちょっと心苦しくなって、さっきのお兄さんに「すみません、ぎりぎりに入ってねばっちゃって」と言った。そうしたらお兄さんは「とんでもないです、閉店までごゆっくりしてください」と、それはほがらかに、陽のエネルギー満載で言ったのだった。

 私はとてもきもちがよかった。いまも、ありがとう、と言いたいくらいに、きもちのよさを受け取った。きっとあのお兄さんの心の状態は、あのとき陽に満ちていたのだろうな、なんて想像して、同じ言葉を言うでも、言い方って大事だな、私もできるだけ、あんなかんじで周囲の人たちに接したいな、なんて無理っぽいことをいま思っている。

 昨夜は風が強くて冷たかった。お店を出て、さむいさむいと駅に向かう途中、この連載を始めたのは学芸大学、五本木の私の仕事場だったね、毎週水曜日を映画の日、って決めて、仕事場のソファで、ふたりでたくさん映画を観たね、なつかしいね、もう80本ですからねー、なんだかしみじみねー、なんて話した。

 最初は2017年2月8日。もうすぐ9年が経つ。そしていま、このサイトのリニューアルに合わせて、彼は「よいこの映画時間」連載すべてに手を入れてくれている。

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