解釈しだいの一日と欲望のタンゴシーン

目が、とても、疲れている。
当たり前だ、連続して5本も映画を観れば。
タンゴの翌日は、いつもぐったりしてしまって、机に座って文章を紡ぎ出すということができない。ということがここ半年くらい続いているので、もうそういうカラダになってしまったのだということにして、タンゴの翌日は悪あがきをしないようになった。たいてい映画を観て過ごすのは本すらも読めない状態だから。情けないけれど。
U-NEXT、Netflix、Hulu、Amazonプライムビデオ、ディズニー+を利用しているけれど、観たい映画がそれでもない場合はツタヤディスカスでDVDをレンタルしている。配信に慣れるとDVDを借りて返すことすら面倒になる。以前は郵送でDVDがレンタルできるなんて素晴らしい時代になったものだ、と喜んでいたのに。
観たいものをリストにほおりこんでおいて、まとめて借りているのだけれど、今回は13枚も借りてしまった。原稿で使うために内容を再確認したいものもふくめてはいるけれど。
それで「今日中に残りを全部観てしまおう、無駄な一日とは言わせまい」と力を入れて決意して、残っていた5本を観たから目が疲れた、ということ。
『ヴィーナス・ビューティー』は40歳という設定のナタリー・バイが主演。恋愛に溺れるとひどい状態になる自分を知ってしまった経験から、特定の人と関係をもつのを避けている。溺れないように、男をひっかけては一晩だけの関係で終わらせる、ってかんじでいて、それなのにとても素敵な男性が現れて、どんなに拒否しても離れなくて最後はハッピーエンド。よかったね、と思いながらもどこかでしらけてしまう自分がかなしい。オドレイ・トトゥのデビュー作なんだけど、さすがの存在感。
『ブルックリンでオペラを』は大好きな監督レベッカ・ミラーの最新作。「自分が間違っていると思ったことがない人」がひとりいて、メインではないんだけど一番残った。大嫌いな人として。
『笑う故郷』はアルゼンチンのとある田舎町を舞台にした映画。ノーベル文学賞を受賞した小説家が40年ぶり(だっけな)に帰郷してそこで繰り広げられる話。映画そのものの感想は、「ああ、なんて不条理なの、この世界ときたら……」。
「オンリー・ハーツ」(お友だちの会社)の配給でびっくり。知らずに見て「あ、またオンリー・ハーツだ」って思うことが多い今日この頃。
新作発表時の会見での記者たちとのやりとりがおもしろかった。
ーー今作の主人公はあなた本人です。あまりに自分本位なのでは?
ーー作家は皆、自分本位なものだ。ナルシストで虚栄心が強い。どれも書くために欠かせないものだ。ペンと紙と虚栄心がなければ何も書けない。
ーー全作品のうちフィクションと現実の割合は?
ーーそんなに気になるか? 現実など存在しない。あるのは解釈だけだ。いわゆる真実というものは有力な解釈の1つにすぎない。
あるのは解釈だけ。
ぼんやりしながらも、はっとして書きとめた。
『マドモワゼルー24時間の恋人』、このところ、あらためてその美しさに驚いているサンドリーヌ・ボネール主演。『灯台守の恋』の前のお話。惹かれ合うふたり、欲望をいだきあうふたり、言葉、目線、ふれあい……すごく響くときもあるはずだけれど、いまは無理。映画としてはとても好き。でもいまは無理。
そしてぐーたらな一日のラストを飾ったのは『みんなで一緒に暮らしたら』。
「老人」と呼ばれる5人が人生の最後をひとつの家で暮らすことを選択してゆくお話。二組の夫婦+妻に先立たれた夫の計5人。みんな若いころからのお友だち。何歳くらいの設定だったのだろう。75歳くらいかな。
舞台はフランス。全員自己主張が強い。日本人だとこうにはならないのだろうな、という場面が多いので移住しないかぎりは参考にならず。ただ、どんなコミュニティでもお世話をたくさんする人、お世話をたくさんされる人、という2種類の人間がいるのだ、ということは再確認できた。また、老人の性も、もういいから、というくらい描かれていてお腹いっぱい。
それで、驚いたのが、タンゴシーンがとつぜん出現したこと。
5人のひとりにドンファン的人生を送ってきた男性がいて、老いてもなお元気で、心臓の疾患があるのにバイアグラを使ってまで楽しみたいという人で、その人が若い女性を相手に、ミロンガでタンゴを踊る。老いた男性と若い女性、永遠のタンゴの組み合わせのひとつ。そしてふたりのタンゴ、いいかんじ。
タンゴシーン、性愛シーン、タンゴシーン、性愛シーンといったかんじで進む。だからこのシーンでのタンゴは欲望に直結してるタンゴ。
曲はAgustin Bardiの「Gallo Ciego」。私はプグリエーセ楽団のをよく聴いていてときおり踊る。
先日書いた『3つの鍵』のタンゴシーンとはまるで違う描かれ方で、これもまたタンゴのひとつの姿。
え? そうなの? それが現実のタンゴ? それが真実のタンゴ?
『笑う故郷』の小説家ならこう言うでしょう。あるのは解釈だけだよ。