ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間

☆13本目 『ルージュの手紙』 フランス映画祭2017公開作品

2026/02/18

【あらすじ】
助産婦として働くクレール(カトリーヌ・フロ)のもとに、30年間姿を消していた血のつながらない母・ベアトリスから「重要な急用があるから会いたい」と連絡が。ベアトリスに捨てられたことで、父親が自殺をしてしまったという過去から、クレールはベアトリスを許せていない。生真面目なクレールと自由奔放な、真逆の性格の二人がやがて距離を縮め、ベアトリスの過去も明らかになることで…。




♥M
やっぱり大女優ふたりの共演は、緊張感があるね。
存在感が半端じゃない。

♣R
そして個性と個性が上手く混ざりあってましたよね。

♥M
原題の『The Midwife』が「助産婦」という意味なのね。

♣R
それなのに邦題は『ルージュの手紙』

♥M
ラストのキスマークのついた手紙のことを言っているのよね?
あれはドヌーヴが演じるベアトリスの魅力が出ている最後の重要なキスマークだけれど、タイトルにしてしまうと、ちょっと違和感が…。

♣R
ベアトリスのキスは幸せを表すみたいな意味合いであって、ルージュを指している訳ではないですもんね。

♥M
そうそう。
カトリーヌ・フロが演じるクレールのパパも、ベアトリスのキスはすごくハッピーになると言っていたね。すごくハッピーになるキスっていいね。

■「出産」が持つエネルギー


♥M
出産のシーンがいっぱい出てきたけれど、どうだった?

♣R
生と死を強く感じましたね。
ドヌーヴはこの映画について語るときに「死について」と言っていますが、出産シーンが入ることで死が際立ちますよね。路子さんはどうでした?

♥M
生まれた直後のわが子を胸に抱くという経験をしているからね、その時のことを思い出す。

♣R
あのシーンで泣いている人も多かったですよね。

♥M
うん、経験していなくても涙が出ちゃうシーンだと思う。
やっぱり出産というのは、自分が生まれてきたというのをイメージしてグッとくるものがあるし、自分が産んだことでもグッとくる。

♣R
それ自体がエネルギーを持っているし、それに圧倒されますよね。

♥M
映画の出産シーンで出てくる赤ちゃんは、だいたいきれいな状態の子どもが多いけれど、本当に胎盤とか体液にまみれた状態の赤ちゃんを映すというのは、非常に衝撃的で、それがよかった。

■クレールの想い


♥M
ベアトリスはクレールの父親の愛人ということよね?
それで、クレールが幼いときに、ベアトリスはクレールを可愛がっていたのよね。クレールはベアトリスのことを「自分を裏切った人」と言っていたから、ベアトリスに対して愛情を持っていた過去があるのよね?

♣R
実母と自分は合わないと言ってましたよね。
だからベアトリスに対しては好意を持っていたのだと思います。

♥M
クレールは助産婦として社会的にも意味のある仕事をして、健康にも気を遣って、平凡な日常を過ごしていたけれど、菜園のトラック運転手とベアトリスとの出会いが重なることで、自分の生活がすごくエネルギッシュになっていく。
はちゃめちゃやり始めるけれど、潤いや艶が生まれてくる。

♣R
最近もそんな映画を観たような気がします。
カトリーヌ・フロは『女はみんな生きている』でもそういう役を演じていましたよね。

■ベアトリスの今後


♣R
クレールは、ベアトリスと出会わなかったら、菜園の彼との関係は始まらなかったし、今まで通り、助産婦の生活だけでじみじみ暮らし続ける感じがします。
やっぱりベアトリスのエネルギッシュさと自由さに影響されていますね。

♥M
女という部分をね。

♣R
いい意味で巻き込まれていましたね。

♥M
結局、最後ベアトリスは去っていくけど、あれは死のうと思って去っていくんだと思う?

♣R
どうだろう…。
去っていく部分とラストの紐が外れて船が遠くへ行く部分は気になりました。

♥M
ボートでしょ?

♣R
その前にベアトリスがボートを見るシーンが出てきましたが、あれは留まっているんじゃなく、旅立つという比喩だと思います。

♥M
ああ、なるほど…繋がれていたボートの繋ぎが外れて浮遊していくっていうね。
だからあそこで死んでるとかそういう訳ではないのね。
ベアトリスは、クレールと菜園の彼と3人でトラックに乗って、わあーって騒いだ後に去っていくのを決めるけれど、ベアトリスはトラックの中でどんな想いがあったんだと思う?

♣R
ベアトリスがボートを見るシーンの後にその場面になりますよね。

♥M
そう、すぐのシーン。

♣R
ベアトリスがトラックを運転する場面が出てきますが、その時に何となくクレールと菜園の彼を温かく見守っている感じがするんですよね。自分がいたらふたりの邪魔になってしまうと感じている部分があるのかな。

♥M
あとはトラックの運転というのと、放浪者という繋がり。
一か所に落ち着くのは自分には向いていないというのを感じているのかもしれないね。

♣R
色々なところを渡り歩いていたみたいなことを言っていましたね。

♥M
自由に好きなように生きてきたから、悪い人生ではなかったと言ってた。
ベアトリスはあの後、どこでなにをするのかな…。

♣R
生活自体は変わらないような気がします。
世渡りが上手そうだから、誰かのところに転がり込んで「ちょっと困ってる」とか言っていたり、お金が足りなくなったらまた博打で稼いだり。
ずっと病院でいじいじしている感じはしないですよね。
頻繁にめまいを感じることで生きることに危機を感じているけれど、それが逆に原動力になっているのかもしれませんね。

♥M
まだ死にたくない、生きたいって言ってたものね。

■本当にやりたいと思うことを…


♥M
『ドリーマーズ』でも感じたけれど、この作品でも、もう少し自分の人生をかき混ぜてもいいのかなと思った。

♣R
そう思わせるだけの力がありますよね。
それがドヌーヴだから、なおさら説得力がありますね。

♥M
そうそう。ドヌーヴの女優としての実人生とも重なって見えるから、やりたいこととかを世間の批判というものに照らし合わせて止めたところで、じゃあ何が得られるの? って。
それが映画の中の食べ物…ポテトフライとかにも象徴されていたと思う。

♣R
お酒とか煙草とか。

♥M
そう。そういうことなのよ。
もう十分そうだって思われるかもしれないけれど、もうちょっとワガママに生きていきたい(笑)。

♣R
もっと人生を謳歌するんですね?

♥M
そうそう。逃避になってしまうかもしれないけれど、今も私、追い詰められてやらなきゃいけないことは、本当に今しなきゃいけないことなのかな? と、思う時がある。
もうちょっとやりたいことを優先して考えた先には、もしかしたらもっとクリエイティブなものが広がっているかもしれないと、ちょっと思った…うん…すごくそう思った。
ベアトリスは脳腫瘍で先は短いけど、死に対してはみんな一緒。いつ死ぬか分からない。
そうすると失う物なんてそんなにないのよね。

私たち、この映画の話をする前に恋愛の話をしていたけれど、こうしたら重たいと思われるとか、こんな風にしないと長く続かないとか、それこそ彼・彼女に嫌われちゃうとか、そんな風にして色々なことをコソコソと考えたりするけれど、今日映画を観ていて、いやいや手に入れてないんだから、失うものなんてそんなにないはずだと思った。

例えば結婚して旦那さんがいたり、一緒にずっと生きていこうと誓い合った人がいたとしても、それは自分の手の中に入っているという錯覚だけであって、予め失われているものなのだから、何かを守ろうとして必死になっているのはベアトリスから見たらちゃんちゃらおかしい話なのよ。私の人生を彼女が見たら、ハハハハで終わってしまうと思う。

♣R
「行動こそ全て」みたいな部分がありますもんね。
そうでなければクレールの息子の唇にキスなんてしないと思います

♥M
相手が自分が好きだった人の孫だから、したのよね?
かつて愛した人、クレールのお父さんにとても似ていたから、ついキスしてしまったのよね?

♣R
クレールの父親のスライドを見ていた時だったから、あまりにも重なり過ぎて感傷的になっていたこともあるかもしれません。

♥M
でも普通の人はそこでキスしたりしないけれど、それをするってところね。
これからはそういうシチュエーションがあったらしてしまいましょう!

♣R
しましょう、しましょう(笑)。

♥M
それを今日の映画の教訓にしましょう。
それで手放してしまったり、相手がどこかに行ってしまったら、それまでの相手だったということ。
あるいは、手に入れているなんてものはないんだから、失うものだってない、くらいの勢いでいいのよね。

♣R
そうですね。きっとそうです。



~今回の映画~
『ルージュの手紙』
2017年 フランス
監督:マルタン・プロヴォ
出演:カトリーヌ・フロ/カトリーヌ・ドヌーヴ/オリヴィエ・グルメ

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