ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間

☆27本目『反撥』

2026/03/02

【あらすじ】
姉・ヘレン(イヴォンヌ・フルノー)と同居をしているキャロル(カトリーヌ・ドヌーヴ)。ヘレンは恋人である妻子持ちの男・マイケル(イアン・ヘンドリー)を毎日寝泊まりさせ、毎晩のようにセックスをする。夜な夜な聞こえてくるその音に、嫌悪感と好奇心を抱くキャロルは、現実と妄想が渦巻く中、次第に追い詰められ、精神状態が不安定になっていく…。




♥M
監督のロマン・ポランスキーは、『シェルブールの雨傘』を観た時に、『反撥』の主人公はドヌーヴ以外に考えられないと思って、彼女にオファーをしたの。
ドヌーヴは今までに何本かの映画に出演をしていたけれど、そのオファーに対してはすごく乗り気で、初めて積極的に出演したいと決めた作品だったみたい。

女優としては『シェルブールの雨傘』で有名になったけれど、『反撥』は「カトリーヌ・ドヌーヴがショッキングな役柄を演じた最初の作品」と言われてる。
ポランスキーの世界観や趣味、ドヌーヴをこう表現したいとか、監督自身が好きなものを自由に撮っているという感じがした。

『ロシュフォールの恋人たち』で共演した実の姉のフランソワーズ・ドルレアックとドヌーヴの間には複雑な関係があって…、この映画でも姉との確執のようなものが描かれているけれど…。

♣R
その関係性が実生活での姉妹の関係性に似ているとかですか?

♥M
そうそう。だからそういったことも出演の決め手だったのかもしれない。

■発狂していくキャロル


♣R
最初はスローな映像が多くて、写真作品を観ているかのようなイメージがありました。

♥M
オープニングで流れる目のアップも印象的だった。
主人公のキャロルは、あまり喋るような人物ではないから、全体的にセリフは少なめだったね。

♣R
どこか上の空で、ずっとポーっとしてますよね。
仕事でも役に立たない感じだったし。

♥M
そうそう。彼女が唯一笑ったシーンは、チャップリンの『黄金狂時代』を観た友達が、彼の真似をした時くらいだけど、すぐに真顔になっていた。

キャロルは、ヘレンの喘ぎ声が気になって、毎日ちゃんと眠れずにいる。
そういったことも要因となって、どんどん追い詰められ、幻覚を見ながら発狂していくけれど、彼女には、神経質な部分や潔癖さ、エキセントリックな面という素質が元々あったよね

♣R
そうですね…幼い頃の家族写真でも、ひとりだけそっぽを向いて、何を考えているか分からないような顔をしていますよね。幼い頃から何かしらの不安要素があったような気がします。
実は数日前に、ポランスキーの『告白小説、その結末』という作品を観たのですが、それも女性がどんどん追い詰められていく話でした

♥M
監督は人の狂気を描くのが好きなのかな。
私はポランスキー作品といえば『赤い航路』を思い浮かべる

♣R
監督の奥さんであるエマニュエル・セニエが出演しているんですね

♥M
そうなの。その映画は「過剰な愛」がテーマで、とてもクレイジーだった。

今は精神状態にも病名が付けられている時代だけれども、『反撥』の公開当時は、病気という扱いではなかったと思う。
でも、どんどん発狂していくドヌーヴの演技はさすがだった

♣R
まなざしが変化していきますよね

♥M
顔つきや表情も変わっていく。
鼻をいじったり、爪を噛む癖がとても効果的だった

♣R
そういった部分で潔癖さを表現しているんですね。

■平穏を保つために


♥M
キャロルはセックスに対しての欲望がとてもある人物だから、妄想や幻覚を見ているのかもしれないね。

♣R
レイプされるようなものや、壁から出てくるたくさんの手に胸を掴まれたりするような幻覚。
姉の喘ぎ声のこととかを考えると、興味と嫌悪感の狭間にいる感じですね。

♥M
嫌悪感の部分でいうと、恋人からキスをされた時、すぐに歯を磨くシーンがあったね。

最終的には、自分の彼も、家賃をタダにすると言って襲ってきた家主も殺してしまうけれど、彼女にとっては殺したいという感覚ではなく、自分に嫌なことをするものを排除する、という感覚の方が近いかもしれない。

♣R
自分の平穏を保つために。

♥M
キャロルはきれいな人という役どころだし、幼い頃からずっと男たちの視線を浴び続けてきた人。

♣R
街中で声を掛けられているシーンがありましたね。

♥M
そうそう。
だからそういったフラストレーションのようなものが積み重なって爆発したのかもしれない。
何歳ぐらいの設定なのかな。

♣R
つまみ食いの仕草や、靴をぽんっと投げたりと、幼さが見える部分がいくつもあったので、結構若いような気がしました。

■モノクロの贅沢さ


♥M
じゃがいもの芽が成長していったり、うさぎの肉が腐っていく様子で、時間の経過を上手く表現していたけれど…モノクロでありがとう! という感じの少し気持ちの悪い映像だった。
ドラムロールの音とか、壁や道路に亀裂が入ったりと、効果的な場面が多かったね。

♣R
亀裂はキャロルの精神崩壊を表現しているんですかね?

♥M
うん、きっと。

♣R
この映画は全編モノクロでしたが、自分はモノクロに対して贅沢さを感じるんです。
今の時代はカラーが一般的ですが、カラーが当たり前の世界で考えると、全てを白と黒の2色だけで表現するということは、色の表現に制約がある中で、どれだけのものを表現して、どれだけのものを省いているのだろうと、感心してしまいます。

♥M
『反撥』の1年前に公開された『シェルブールの雨傘』はとても色彩にあふれているから、そのギャップがすごい。

♣R
際立ちますよね

♥M
リアルタイムで『シェルブールの雨傘』を観て、ドヌーヴのファンになった人は、『反撥』を観て、どう思ったのかな…きっと表現力のすごい女優だとは思ったよね。
『シェルブールの雨傘』とは全然違うから、嫌だと思った人もいるかもしれない。
『反撥』の2年後に『ロシュフォールの恋人たち』『昼顔』が公開されているけれど、どの作品もカラーの違う人物を演じている。

♣R
そう考えると、ドヌーヴの演技は幅広いですね。
そういうのを知ると、今現在、ドヌーヴが色々な役を演じているのも納得できます。
最近挑戦し始めたのではなく、昔からずっとそうしていたのですね。

♥M
ゴリラと寝たり(笑)。(*『神様メール』)

♣R
ビョークと一緒に工場で働いたり(*『ダンサー・イン・ザ・ダーク』)、本当に色々。
自分はドヌーヴを知ったのがフランソワ・オゾン監督の『8人の女たち』だったので、そういうきれいな役しかやらない人なのだと思っていました。
シミとかシワは増えているけれど、今と同じ顔をしていますよね。

♥M
そうね。クールビューティー的な感じは変わらない。

♣R
自分にとって『反撥』は、新たなドヌーヴ像を発見させてくれた映画でした。




~今回の映画~
『反撥』
1965年 イギリス
監督:ロマン・ポランスキー
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/イヴォンヌ・フルノー/ジョン・フレイザー/
イアン・ヘンドリー

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