☆44本目『クリスマス・ストーリー』
2026/03/02
【あらすじ】
ヴュイヤール家のある年のクリスマス。両親のもとに各地から子どもたちとその家族が集合する。その年のクリスマスが通年と異なっていたのは、母親のジュノン(カトリーヌ・ドヌーヴ)が白血病と診断され、骨髄移植が必要だという問題があったこと。そのため、絶縁状態だった一家の問題児アンリ(マチュー・アマルリック)も参加したことから、家族間の愛憎や秘密が露呈し、波乱含みの時間を過ごすことになる。
☆今作は出演者が多い為、登場人物を紹介します。ジュノン (カトリーヌ・ドヌーヴ)
ジュノンの夫 アベル(ジャン=ポール・ルシヨン)
長男 ジョセフ 幼い頃に亡くなっている
長女 エリザベート(アンヌ・コンシニ)
エリザベートの夫 (イポリット・ジラルド)
エリザベートの息子 ポール(エミール・ベルリング)
次男 アンリ(マチュー・アマルリック)
アンリの恋人 フォニア(エマニュエル・ドゥヴォス)
三男 イヴァン(メルヴィル・プポー)
イヴァンの妻 シルヴィア(キアラ・マストロヤンニ)
ジュノンの兄の息子 シモン(ローラン・カペリュート)

♥M
初めて観た?
♣R
ずいぶん前に一度観たことがありました。
150分あるのに、全然長く感じない。
♥M
うん、全然。
私は公開当時に劇場で観たの。
♣R
覗き見みたいなカメラ演出はどういう意味ですかね。
♥M
私も分からなかった。
♣R
登場人物が多いと、話にまとまりがなくなることが多いですが、そういう風には感じない作品でした。
観客に語りかけるように、登場人物が話してくるのは面白かったですね。
好きな役者がたくさん出演していて嬉しい映画でした。
♥M
エマニュエル・ドゥヴォスにカトリーヌ・ドヌーヴ。
あとはシルヴィアの旦那さん役の人?
♣R
そうです。オゾン監督の『僕を葬る』に出演していたメルヴィル・プポー。
♥M
今回のメルヴィル・プポーは影が薄かったね。
びっくりしちゃった。
♣R
でも、その影の薄さがちょうどよかったかも。
♥M
やっぱり、キアラ・マストロヤンニが好き。
♣R
今回のキアラ、すごくよかったですよね。
■醜くも美しい
♣R
エマニュエル・ドゥヴォスの方が好きですけど(笑)。
♥M
実は今回、ドゥヴォスっていいな、と思って見てた。
♣R
ほらー、ドゥヴォスのよさにちょっと気づきましたか?
なんとも言えない魅力なんですよね。すごく美しいとも言えないし。
♥M
うん。ふとした瞬間に、すごくきれいに見える時がある。でもよく見るときれいではない。
ドロンとした目や、歪んだ口元…絶妙なバランス。
腐りかけたフルーツはとても香る、と言うけれど、それに近い。
♣R
うまい!
♥M
りきちゃんが魅力的だと言っているのが今回よく分かった。
♣R
ドゥヴォスはフランスで美しい存在とされているみたいですよね。
♥M
そうみたいね
♣R
「あなたのような美女がこんな男といるなんて」
「アンリの彼女セクシーだと思わない?」と驚かれていますよね。
♥M
この人は映画の中でマリリン・モンローみたいな使い方をされているんだ、私の目がおかしいんだ、私の目がおかしいんだ! と、ずっと思っていたけれど(笑)。
♣R
でも、日本の雑誌では「醜くも美しい」みたいに書かれていたこともあるので。
♥M
じゃあ、必ずしも私の目がおかしい訳ではないのね。
♣R
岩波ホールに一緒に観に行った『ヴィオレット ある作家の肖像』で、作家のヴィオレット・ルデュク役を演じていた時も、少し醜いという役柄でしたよね。
♥M
それにコンプレックスを持っているという人物だった。
♣R
だからフランスでも、「醜くも美しい」的な見方をされているのかもしれませんね。
■みんな不器用

♣R
とにかくみんな不器用でしたね。
ドゥヴォス演じるフォニアだけが…。
♥M
一番「普通」なのよね。
♣R
まとも、というのとは少し違う。
全てを知っているというか…。
♥M
フォニアもそうとう変わり者だけど、あの家族の中に入ると、一番ちゃんと世間を歩いている人に見える。家族はみんな依存し合っているけれど、フォニアだけはひとりで生きているような。
♣R
アンリと付き合ってはいるけれど?
♥M
うん。ひとりで立っているような感じがしたの。
♣R
ちょっとしたことを気にするような性格ではないですよね。
一緒にお買い物へ行ったジュノンが、いつの間にかひとりで先に帰ってしまった時も、そんなに気にしている様子ではなかった。
♥M
へーえ、帰っちゃったんだ…ぐらいのもの。
♣R
他の登場人物よりも器が大きい感じ。
♥M
だからこそ、アンリのような性格の人物を受け入れられるのだと思う。
♣R
アンリのひねくれた性格も楽しめるぐらいの器を持っているのかもしれませんね。
アンリがエリザベートの旦那に殴られているシーンが好きでした。
食事をしながらアンリが殴られているのを笑って見ているフォニア。
それを笑って見ていられる彼女の心の広さ。喧嘩すら楽しんでる。
■母親らしからぬ母親
♥M
ドヌーヴのみどころはどこでしょうね。
周りが強烈だから、ドヌーヴがそんなに際立っているわけではないのに、この作品でドヌーヴはカンヌ国際映画祭特別賞を受賞してるみたい。
♣R
母親らしからぬ母親でしたね(笑)。
♥M
母親だということを忘れてしまう。
♣R
自分の子どもに対して、あれ好き、これ嫌い、というのがハッキリしていますよね。
♥M
ハッキリしているどころか、直接言ってしまう。
「彼(アンリ)はベッドで どう?」と、フォニアに息子のセックス事情を聞いたり。
♣R
セックスに関しては、今も夫婦間で続いてる感じでしたよね。
「孫が来るとセックスレスね」、というセリフもあるぐらいですし(笑)。
♥M
そんなにしてるんかい! という感じ(笑)。
ジュノンの旦那アベルのことはどう思った?
印象薄かった?
♣R
笑いながらも言うことはちゃんと言う人物でしたね。
ヘラヘラしているように見えるけど、ちゃんと家族ひとりひとりを見ている。
♥M
そうね。なにかを諦めて生きているようにも見えるし、あんまり人を支配をするような人物でもない。まあ、強烈な奥様がいるので、自分は影の存在になるということなのかな。
ジュノンがフォニアに「シルヴィアが嫌い?」と聞いたとき、「嫌いよ、息子をとったから」と言うのに、フォニアのことは「好きよ 嫌いな息子だから」と答えているのに大ウケしてしまった。
ああいうのを平気で言えるのはすごいことだ。
♣R
そういうのが許される環境だからこそ、関係が上手くいっている感じはありますよね。
♥M
本当に嫌いで、陰湿な嫌悪感だったら、言えない言葉だものね。
アンリは出来が悪いし、生意気だし、とんでもないからやだー、だいっきらい、みたいな軽い感じで言っているから、根底には愛があるんだと思う。
あの一家の中で、一番ジメッとしている人物は、エリザベートね。アンヌ・コンシニ、ジメっとしたかんじをよく出してた。
みんなエゴイストだけれども、エリザベート以外の家族は、自分のことをエゴイストだと、どこかで自覚している。でも彼女は、自分のことをエゴイストだと思っていない。
正論を振りかざして、息子を含め、周囲をコントロールしようとする人物。
■「あなたを愛したかもしれぬ 私の人生を奪った」

♣R
人物的には、あの人が一番いいと思いました。
♥M
シルヴィアをイヴァンに譲った人?
♣R
そうそう! さすがわかっていらっしゃる!
いとこのシモン。一番好きでした。
シルヴィアがシモンと寝るのは、最初からイヴァンと決めていたことなんですかね。
シモンと寝た後、ベッドの中のシルヴィアと、部屋の外にいる夫のイヴァンが頷きあってるシーンがありましたが…。
♥M
決めてはいないと思うけれど…。
♣R
ドゥルルルルとさかのぼって頂いて、電車のシーンで、シルヴィアがイヴァンと何かを決めたと話しているシーンなかったでしたっけ?
♥M
あれっ?
そんなシーンあったかな?
♣R
もう一度確認をしてみようとは思いますが、もしかして、最初から決めていたことなのかと思っていました。だから…。
♥M
ベッドインしているのをイヴァンに見られても平気だったということ?
あのシーンは、ありえない状況だったね。
違う男と寝ている母親を、子どもたちが起こしにくるなんて(笑)。
♣R
実家で(笑)。
♥M
しかも朝食を自分の子どもたちが運んでくるという。
そしてその様子を夫が穏やかに見ている。そこのシーンは要確認ね!
♣R
そのシーンは私にとって謎の部分でした。
♥M
私は、夫婦間でシモンと寝ていいという約束はしていなかったと思う。
していない方が、いかにもという感じがする。
(確認をしたところ、夫とは何も約束をしていませんでした…。)
シモンがシルヴィアを諦めて、イヴァンに譲ったという事実を知ったシルヴィアが、シモンを問い詰める時に言った「あなたを愛したかもしれぬ 私の人生を奪った」という言葉は、とんでもないセリフだと思った。
今の生活に不満はないし、セックスもしているから、夫婦間は割と上手くいっている。
でも一方で、シモンのことも好きだった。だから本当は自分で道を選びたかった。
このあたりには、愛の複雑さを感じたな。
シルヴィアが怒っている理由は、シモンを選ぶ人生もあったかもしれないのに、それがあらかじめ奪われてしまったからかな。
イヴァンにシルヴィアを譲ったことで、シモンは性格も変わってしまったのよね。
♣R
シルヴィアをあきらめたことで暗くなってしまった、と、言っているシーンがありましたね。
♥M
究極の純愛といえば、ドヌーヴも出演している『イースト/ウエスト』を思い出すけれど、シモンが抱いているものも、一種の純愛だと思ったの。
彼を見ていて思い出したのは、中山可穂の小説『悲歌 エレジー』の「たとえば愛を後ろ手に隠して、それと気づかせぬまま、愛を貫く方法はないか」という言葉。
♣R
全くその言葉の通り。
過去の話というよりは、今も続いてる様子でしたね。
♥M
寝てしまった後は、どうなるのかな。
私は、頻繁に会い始めると思う。
♣R
あの家族なら、それすらも受け入れそうですよね。
♥M
まあね。批判するような雰囲気ではないね。
♣R
エリザベートとアンリの仲の悪さはあるけれど、そういうのは許されちゃう家族というか。
■それなりに愛している

♣R
エリザベートの息子のポールはちょっとかわいそうだと思いました。
♥M
精神を病んでいる子ね。
♣R
ジュノンと骨髄が適合した人物ではあるけれど、それを抜くって、身体に負担がかかることですよね。他にも適合した大人がいるのであれば、息子に辛い思いをさせたくない、できれば他の大人にやってもらいたい、と思いそうなのに、率先してうちの息子にやらせよう、みたいになりますよね。
♥M
兄弟間のもめ事に巻き込まれてしまっているし、精神的にも彼は負担だったろうな。
♣R
最初はイヴァンがポールを助けるという話だったのに、なぜポールはアンリに助けを求めたと思いますか?
♥M
病んでいる感じの根本が近いと感じたからだと思う。同志の人間のような感じ。
イヴァンが手を差し伸べてくれた時は、きっと同じ種族だとは思えなかったのだと思う。
ポールの精神病について、アンリはかわいそうだとは思っていないよね。
♣R
むしろ、悪口を言っていますね。
♥M
それは、精神病をポールの性格のひとつとして扱ってくれているということで、みんなそうだろ? どいつもこいつもクレイジーなんだ、という素振り。
それがきっと心地よく、彼の救いになったのだと思う。
どうしようもない男だけれど、そういう部分に、ポールは惹かれたのかもしれないね。
♣R
元々は、長男の急性白血病を治療するために骨髄移植が必要だから、アンリを産んだんですよね?
♥M
でも適合しなくて、アンリは役立たず扱いをされてきた。
こういう話は、映画や小説でよくある設定ね。
♣R
その時は命を救うために必死だったから、そういう風にしか考えられなかったのかもしれないけれど…。
♥M
でも、結局、長男を助けるために産んだ子によって、ジュノンは救われる。
そのあたりの皮肉さは好きだったな。
とても幸せそうだったから、ようやく役に立てたと思ったのかな。
♣R
アンリは術後に目覚めた後、すぐにジュノンの様子を見に行ってましたね。
♥M
泣ける場面ね。
一瞬だけれども、そのシーンでジュノンとの感情の交換が描かれていて、すごくよかった。
♣R
アンリとジュノンのシーンは、ずっとそんな感じでしたね。
ふたりでタバコを吸っているシーンも。
♥M
あんた、バカね…みたいな軽い気持ち。
♣R
そうそう、悪い感じはしない。
♥M
同じ言葉をエリザベートに言ったら、きっと打ちひしがれちゃう。
だからちゃんとキャラを見て言っているし、それなりにアンリを愛してはいるのよ。


