ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間

☆43本目『輝ける女たち』

2026/03/02

【あらすじ】
南仏ニースにあるキャバレー「青いオウム」のオーナー(クロード・ブラッスール)の死をきっかけに、疎遠になっていた家族が集まる。母と娘、血の繋がりのない家族、過去と現在、秘密や悩みが懐かしいヒット曲とともに描かれるドラマ。




♣R
前に観たことがあったし、自分でDVDも持っているのに、全然内容を覚えていませんでした。
ただ、ニッキーとアリス(カトリーヌ・ドヌーヴ)のゲイの息子・ニノ(ミカエル・コーエン)が全裸になるシーンだけは覚えてました(笑)。
そこしか覚えていなかったです。

♥M
んふっ(笑)。
しょうがないわねぇ。

♣R
以前観た時は、きっとこの映画のよさが分からなかったんだと思います。
歌の使われ方がよかったですね。

♥M
うんうん!

♣R
『8人の女たち』の時も話した、日本の歌だったら失敗するパターンでしたが、登場人物の心情も表現しているし、映像にも合っている。
しかも映画の舞台がフランスのキャバレーなので、違和感がなかったですね。

♥M
パリでいう「ムーランルージュ」のような場所ね。

♣R
ですね!
だから歌が入っていても、とても自然でした。

■家族のヒーロー


♣R
演者が割と有名人ばかりでしたが、個性の出し過ぎ感は全然なくて…。

♥M
誰かにフォーカスしている感じもなかったね。

♣R
そうですね。まばら過ぎてもテーマの薄さを感じてしまいますが、絶妙なバランスで、適度な人物の描かれ方でした。

♥M
そうなの!
複雑な人間関係だから、最初は登場人物の関係性について少し混乱するけれど…途中から、りきちゃんが裸しか覚えていなかったニノの人生が輝きだすのよね。

♣R
ニノだけでなく、ニッキーとシモーヌの子どもマリアンヌ(ジェラルディーヌ・ペラス)の人生も輝き出しますよね。

♥M
そういう雰囲気ではなかったのにね。

♣R
亡くなったキャバレーのオーナーであるガブリエルは、今まで、血の繋がりもないダメ男のニッキー、ニッキーのかつてのパートナーであったアリスやシモーヌの人生を支えてきた。
だから今度は、家族とうまくいっていないその子どもたち、ニノとマリアンヌに劇場を与えることで、今度はそのふたりの人生を支えているように思えました。

♥M
じゃあガブリエルは、割とその人たちの人生全てを支えた、ということになるね。

♣R
そうですね。
そういえば、原題がそんな感じでした。『Le Heros De La Famille』…『家族のヒーロー』という意味ですかね。

♥M
まさに原題通りの人物ね。
名前が特徴的なシモーヌ役のミュウ=ミュウは、どんな作品に出演している人?
何かの作品で見たような気はする。

♣R
『アガサ・クリスティー 華麗なるアリバイ』 『タイピスト』 『オーケストラ』などに出演しています。

♥M
結構観ているかも。

♣R
あとは『読書する女』ですね。

♥M
それだ! その作品で覚えてる!
シモーヌはアリスに対して、憧れを持っているのよね。

♣R
アルジェリアから出てきたから、教養があり、美しく神秘的なフランス女であるアリスに憧れていた、と言っていましたね。

♥M
ニッキーの生き方とかはどう思った?

♣R
とても自由だけれども、シモーヌのことが何十年も自分の中で引っかかっていているような、不器用さもある人ですよね。

♥M
テレビに出たりして人気者だった時は、すごくモテて、いろいろな女性をものにしてきて。でも関係した女のことを覚えていないという…あれは結構笑ってしまった。

♣R
かつてニッキーの助手の代役をして、車の中でセックスをしたのは自分だった、とレア(エマニュエル・べアール)が告白するシーンで、ニッキーが離れた時にするベッドの中でのレアの表情、すごくよかったですね。

♥M
うん。私、あの表情すごく分かる。あれは自分でしている時がよくあるの。
相手に対して何かを言うわけでもないし、相手も気付いてない。
そこで諍いが起こるわけでもない。すごく冷える瞬間。

■愛を独占しない女性


♥M
ドヌーヴは、やっぱりああいう役柄なのね。

♣R
『昼顔』に出演していたというのもあると思いますし。

♥M
「私の武器はセックス」というセリフもあるくらいだし、愛を独占しない感じが、ドヌーヴのはまり役ね。

アリスがガブリエルからもらった青いオウムのペンダントをニッキーにプレゼントをするけれど、それをレアが付けているのを見て、レアとニッキーの関係を察する。
その時、寂しさは感じただろうけれど、それよりもニッキーが今、愛している人、という目でレアを見ている。それはなかなかできることではないよね。

♣R
子どもっぽさもあるけれど、ひとつ上をいっている感じがしますよね。

♥M
息子と娘よりも、ニッキーが一番幼い。

♣R
でも、そこが彼のいいところでもありますよね。

♥M
ゲンズブールみたいな感じの魅力なのかな。
アリスみたいな人を見ていると、周りをエネルギッシュにするような生き方もいいと思えるな。

♣R
最初は嫌われていたのに、結局みんな、彼女に勇気付けられていますよね。
頼れる姉御的な存在。

♥M
これ見よがしな優しさではないよね。

♣R
言う時はしっかりと言う人でしたね。

♥M
自分も好きなようにしているんだから、あんたたちも好きにすれば? という感じ。
多分、好きなようにしてる人を見て、ああ、あれでもいいんだ、と思うような勇気づけ方だね。

♣R
子どもたちが「青いオウム」の中で売春窟を発見し、アリスがかつて「翡翠のハート」という名の娼婦だったことを知った時、ニノはすごい怒りますよね。

♥M
そんなに怒らなくてもいいのに、というくらい。
それに対して、アリスは「私の人生は私のもの」と、言って開き直るのよね。
彼女はそういう人生を生きて何が悪いの? という感覚でしょう?
そんなにあっけらかんとされると、逆によくなってしまうのかな。

♣R
彼女はきっと、最初からずっと変わらずそういう生き方なんですよね。

♥M
多数派、マジョリティの人生を歩んでいる人がすごく怒るのは分かるのだけれど…母親に対してはそういうのは関係ないのかもしれないね。

♣R
怒った後から、お店の経営を決めるまでのふたりの関係性には、少し物足りなさを感じました。
でも、マリアンヌがお店で「The Rose」を歌っている時、このふたりが目線を送り合っているシーンがあるんですよね。そのアイコンタクトに全てが表現されているような気もするので、それでよかったのかな、とも思います。

■普遍的なものに対するアプローチの描き方


♣R
アリスが魔女みたいに登場するシーンは、笑っちゃいました(笑)。

♥M
雷と共にね(笑)。
そのあとちゃんとそれに対して言及するのよね。「あの芝居がかった登場は?」って。
物理的に無理よ、映画なのよ? と、思ったけれど、その辺りのユーモアがよかった。

♣R
バーテンダーの男の人をマリアンヌに取られてしまった時に、ソファーにうずもれながら「アバズレ」と、悪態をついているニノのシーンも好きです。

♥M
マリアンヌに取られそうだというのを、10歳ぐらい歳の離れている恋人に電話で愚痴っているのもおかしかった。自由すぎる!
でもこのカップル、すごくよかったよね。

♣R
年下で自由奔放な若い彼氏。
誰かに取られてしまう心配をしているけれど、そういった自由さを含めて彼氏のことを好きなのだと思います。

♥M
若い彼がニノを訪ねてきた時、お店のバーテンダーに目をつけるでしょう?
その時にニノのする一種の寂しさや悲壮感を感じる視線がとてもよかった。
恋愛や人間関係の「こういうのあるある」というのが、結構、映画の中に散りばめられていたね。

♣R
嘘くささがないんですよね。

♥M
そうなの。それを嘘くささがない、と言っている私たちの生活って…(笑)。

♣R
同じ普遍的なものを描いていても、共感や面白いと思うものと、そんなの知ってるよと、面白く感じないものの差はなんですかね。
この作品内で起きることは、まあよくあることっちゃあ、よくあることじゃないですか。

♥M
そうね…小説も同じようなテーマを繰り返しみんなが描いてる。
でもその中で好き嫌いがあるとすれば、普遍的なものに対するアプローチの仕方や描き方の違いによるものなのかもしれない。
この映画は、そんなにおしつけがましくないし、いろんな選択肢がある中で、余韻みたいなものがあるから、きっといいのだと思う。

■優しいウソより真実がいい


♣R
ガブリエルと母親のシモーヌが愛人関係だったことを初めて知った時に、マリアンヌが言う「優しいウソより真実がいい」と、いう言葉はどう思いましたか?

♥M
今だったら、優しい嘘がいい。

♣R
選ぶのはなかなか難しいですよね。

♥M
この言葉に近い言葉は、色々な人が言っている。
ジェーン・バーキンは「真実によって傷つけられるより、慰めになる嘘のほうがいいわ」と、言っているし、ドヌーヴは「優しい嘘も小さい嘘もない。嘘は嘘」という意見。
シチュエーションなどにもよるけれど、真実を言えばいいという訳ではないし、嘘をつくのであれば、最後までつき通し、嘘がバレないようにするのが礼儀だと思う。
りきちゃんはどっち?

♣R
私は真実が知りたいですね。モヤモヤしているよりは、はっきりとしたい。
もし捨てられるとしても、早く真実が知りたい。
あとで嘘だと知った時に受けるダメージの方が大きそうですからね。
まあ、知る前から勝手に自分でモヤモヤして、傷ついていますが(笑)。

■「The Rose」で繋がる縁


♥M
「泳ぎをやめたらサメは死ぬ」と、いうセリフがあったね。

♣R
3回くらい出てきましたね。

♥M
この言葉は残しておきたいと思ってた。
現代舞踏家のピナ・バウシュのドキュメンタリー映画の中で「踊り続けなさい。自分を見失わないために」という言葉があったのだけど、その言葉に感動して、自分は「書き続けなさい」という風に当てはめてたわけ。
あとはピアソラのドキュメンタリー映画を観た時に「サメ釣り」を好んでいたことを知って、スペイン語でサメは「エスクアロ」って言うんだけど、「エスクアロ」という曲も作っているくらいだから、おそらくピアソラの人生にとって、サメはすごく重要なものなんだな、って強く印象に残っていて。関係ないかもしれないけど、そんなのがぐわって浮かんできてね。

♣R
「生き続けるためには何かをし続けなさい」という教訓なんですよね。
自分が生きるためにすべきことというか。


♥M
マリアンヌはそれまで色気と無縁なところで、化粧っ気もなかったのに、「The Rose」を唄うところでいきなり舞台女優みたいに…。

♣R
化けるんですよね。

♥M
うん。やっぱり女優はすごいと思った。
美しく、歌詞もいいし、なによりメロディがきれいで、唄っている時の姿もとてもよかったから、名シーンだと思う。

♣R
そのシーンで終わってもいい感じがしました。

♥M
私も、あのまま終わるのかと思ってた。

♣R
売れなくなってきたニッキーが、子どもに歌わせれば人気が戻ると考え、レコーディングをした曲なんですよね?
だからこそ、懐かしさを感じ、家族みんなの心に響いたのかもしれないですね。
英語の歌詞とは少し違いますよね。たしか英語の歌詞はもっと比喩っぽかったような気がします。

♥M
そうなの? どれどれ…。
(英詞の翻訳と映画の翻訳を見比べる)ああ、映画の歌詞の方がすごく直接的。
ずいぶん変えてるね。

♣R
英語のほうが詩的ですよね。

♥M
うん。イメージ的には、フランスの歌詞の方が詩的なイメージなのにね。

♣R
日本語の歌詞のものですが、自分はこの曲を小学校ぐらいの時から聞いていました。
というのも、この曲は、私の好きなジブリの映画『おもひでぽろぽろ』のエンディングテーマなんです。ちなみに都はるみが歌っています。
日本語の歌詞は、割と英語の歌詞に近いです。

♥M
この曲を検索した時に都はるみが歌っていると出てきたから、私も知ってた。
でもジブリで都はるみという組み合わせだったから、歌詞を変えられてしまっているだろうと思っていたけれど…。
都はるみバージョンの日本語の歌詞には、バラが出てこないね。

♣R
たしかに。
でも英語の歌詞も最後に1回バラという言葉が出てくるくらいなんですよね。
だから結構近い。
手嶌葵という歌手も「The Rose」をカバーで唄っていて、たまに聴いたりしてます。
毬谷友子も何回かライブで唄っていますが、毬谷さんのは本当にすごくよかったです。
情景が浮かびます。

♥M
毬谷さんの歌は本当にいいもの。
ちょうどハーパースバザーの特集で『薔薇物語 「清らかな矛盾ーー私が惹かれる理由」』を書く時に、ベット・ミドラー主演でジャニス・ジョプリンがモデルになっている映画『ローズ』のことなんかを調べていたときだったから。

♣R
今の路子さんにとって、結構引っかかる映画だったんですね。

♥M
そうそう!
いろいろな言葉にもポンポンポンポン引っかかっていたしね。

♣R
「希望とは苦しみのこと」とか「歳をとるが本質は変わらない」とか、結構短い言葉がたくさん出てきましたよね。

♥M
格言めいた言葉が多くて、名言の宝庫だったね。



~今回の映画~
『輝ける女たち』
2006年 フランス
監督:ティエリー・クリファ
出演:ジェラール・ランヴァン/カトリーヌ・ドヌーヴ/エマニュエル・べアール/
ミュウ=ミュウ/ジェラルディーヌ・ペラス/ミカエル・コーエン/クロード・ブラッスール

-ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間