ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間

☆48本目『愛しすぎた男 37年の疑惑(ニースの疑惑 カジノ令嬢失踪事件)』

2026/03/03

【あらすじ】
76年、南仏ニースでカジノを経営するルネ(カトリーヌ・ドヌーヴ)。経営が傾いているカジノをイタリアのマフィアに狙われているが、顧問弁護士モーリス(ギヨーム・カネ)の助けによって、なんとかもちこたえようとしている。そんなとき娘アニエス(アデル・エネル)が、離婚して実家に戻ってくる。母ルネに強い反発心を抱くアニエスは、モーリスと恋に落ちて母親と対立し……。実際に起きた事件をもとにしたサスペンスドラマ。




♥M
面白かったね。

♣R
面白かったです。
ギヨーム・カネのお尻がきれいでしたね。

♥M
あの身体にしては、ずいぶん肉付きがよかったね。

♣R
やわらかそう。
前半のカジノのシーンは、衣装と背景があまりにも煌びやかで、目がチカチカしちゃいました。

■老けメイクで存在感を


♥M
時代設定の古い物語だと知らずに見始めたの。

♣R
37年前の話でしたね。
30年以上前の話と、ラストに描かれる現代のシーン、見事な違いでした。

♥M
歳相応ではあるけれど、ドヌーヴの老けメイクはすごくよくて、おばあちゃん役で存在感を出していたジャンヌ・モローの晩年を思い出した。そういう女優になっていくのかな。

♣R
女優の晩年は、ジャンヌ・モロー系の存在感タイプと、シャーロット・ランプリングのようないい意味で干からびたおばあさん系に分けられますよね。
ドヌーヴはジャンヌ・モロー系。

♥M
枯れているか、ゴージャス系か。
老けのドヌーヴは本当によかった。

♣R
そういう風にしていても、どこかしらに気品が感じられますよね。

♥M
そうそう、あるある。
この年代のドヌーヴとしては、最近観たドヌーヴの中で一番きれいだった。

♣R
監督がアンドレ・テシネだからこそ、老けメイクをオッケーにしたのかもしれないですね。
相当信頼をしている感じですもんね。

♥M
そうなの。テシネの名前は、インタビューでも本当によく出てくる。

♣R
ギヨーム・カネも老けメイクをしていましたが、喋り方までは老けていなかったですね。
正直、同じ年数、歳を重ねたとは思えなかったです。
ドヌーヴは声も変えてましたもんね。

♥M
そうそうそう。私もそう思った。
歳を重ねると、声も変わるもの。

♣R
一本の映画の中で、幅の広い演技をしていました。

♥M
やっぱりドヌーヴはすごい女優。

■いい男性が多い


♥M
モーリスの愛人、魅力的だったね。

♣R
ルネの運転手の若い男の子も結構好きでした。
とてもいい子だった。

♥M
ルネと一緒に車の中で「スタンド・バイ・ミー」を唄うシーン、よかったね。

♣R
その時の映像もすごくきれいでしたよね。

♥M
うん。海がずっと見えていて。
彼が「どうにかなる」って言うと、本当にどうにかなるような気がしちゃう。

♣R
ずっと重い話が続くので、いいアクセントでした。

♥M
フリーメイソンのマフィアのドンも、いい人だったよね。

♣R
色々くれたり…。

♥M
助言をしてくれたりね。

♣R
いわゆるドン、という感じではなかったですよね。
唄ったりして、気さくなイタリア男の雰囲気がありました。
でも何かあるとすればこの男、という感じは最初から感じられました。
気持ちが悪いくらいに笑顔が怪しかったですからね。

■子どもっぽいアニエス

♥M
顧問弁護士のモーリスと離婚して家に戻ったアニエスの恋愛もよくあるパターン。
私たちの何かに引っかかってくるパターンね。
それをやってはいけないのに…。

♣R
でもやっちゃう、というパターン(笑)。

♥M
アニエスのことはどう思ったのかな。
結構若いよね…30歳くらいの年齢設定?

♣R
そんなに上でしたか?

♥M
もっと若い?

♣R
一度結婚をしていると言っていましたね。

♥M
若くして結婚してそう。
まあ逆算してみると…まだ20代かな。

♣R
ハリのある顔してますもん。

♥M
彼女は結構いっちゃってる女性だった。
『ベティ・ブルー』は観たことある?

♣R
ベアトリス・ダルのですよね?

♥M
そう。あの狂気に似ている。

♣R
見るからにしてそういう雰囲気が醸し出されていましたね。

♥M
アフリカダンスを踊るシーンや、ベッドのスプリングで跳ねるシーンがちょっと異様だったけれど、激情に駆られていくようすはよくわかった。

♣R
しばらく別の環境にいた人物でもありますし、カジノも嫌いだし、育ってきた場所も嫌だからこそ、離れていたのかもしれませんね。

♥M
自分に合わないところに生まれてきてしまったという感覚ね。

ところで、セックスシーンの撮り方はあまり好きではなかった。

♣R
ソファーでのシーンですね。

♥M
そうそう、全部脱いでしまって。全裸は好きじゃない。
裸で出迎えるあたりから、この女はやめておきなさい感が出てた。
子どもなのよ。

♣R
考え方がですか?

♥M
全てが。

♣R
ベッドで跳ねたりとか?

♥M
うん。セックスはそれの延長線上。
寝ると決まったら、全部脱いで、そのままセックスをする。なんだか幼稚な感じ。
すぐに水に飛び込むし。

♣R
常に服の下にちゃんといつも水着を着ているのもおかしいですよね。
フランス映画だから、裸で泳いだりしそうですけどね。オゾンだったら絶対に…。

♥M ♣R
裸で泳がす。

■どこの誰よりも自由を愛する人


♣R
モーリスは、付き合う前にちゃんと「言っておくが僕は要注意だ」と、予防線のようなものを張っているんですよね。

♥M
そうそう。恋愛において、彼はなにも悪くないのよ。

♣R
モーリスの愛人も、彼の恋愛観について助言してくれていましたよね。
「恋多き男だけど どこの誰よりも自由を愛する人」だって。

♥M
だからアニエスのことをだまくらかしたりはしてないの。
気持ちのバランスが取れなくなってきた時も、「君ほどは愛してない」と、はっきり言っている。単なる計算だけで近づいたのではなく、少しは愛情があったのよね?

♣R
お金だけで近づいた訳ではないとは思いますが…。

♥M
もちろんお金は彼女の魅力のひとつかもしれないけれど。

♣R
恋愛で盛り上がっている期間が過ぎた時と、お金の話が出た時のタイミングが、割と同じだった可能性はありますよね。

♥M
自殺未遂されたら引いちゃうと思う。
大体、アニエスがモーリスの子どもの学校に行ってしまった時点でアウト。
あのあたりから、モーリスもこれはまずい、今後もやっかいな存在になっていくと思ったはず。だから殺しちゃったのかな?

♣R
あからさまにキスを避ける感じがしましたよね。

♥M
分かるよね。もう気持ちがないんだもの。
引き止めようと思っていても、もう無理なのに、でもやっちゃう。なぜ(笑)。

♣R
ほんとうにそうなんですよね(笑)。

■私たちがよくやるパターン


♥M
でもすぐに復活してたから、本気の自殺じゃなかったのかもしれないね。

♣R
弱い睡眠薬だとお医者さんが言っていましたね。
『ハッピーエンド』の時にも話しましたが、自分を見てほしいがための自殺ということですか?

♥M
うん。構って欲しいという気持ちの表れ。
周りが何も見えなくなってる状態だと、それが相手の気持ちをさらに離れさせてしまう行為であっても、とにかくやってしまうという。

♣R
アニエスの中には、こうすればモーリスが戻ってくるというストーリーがあるんですよね。
でも絶対にその通りにはいかない。

♥M
彼に「自由に生きてほしい」とは言っているけれど…。

♣R
不安定な精神状態の時、そんなこと思います?

♥M
「あなたを自由にしなきゃって私は思っているのよ」というのを訴えているのよ。

♣R
そうそうそう、分かるなぁ(笑)。
だから本気で自由にさせたいと思っているとは思えないですね。

♥M
本当にそう思っているのであれば、あんな電話はかけないもの。

♣R
あんな手紙も書かないですよね。
厳しいことを言うとすれば、生きていたとしても、同じことを繰り返しそうですよね。

♥M
それか殺傷沙汰になって、逆に彼を殺そうとしたりしてね。
どちらにせよ、ドロドロは免れない。「そういう男には手を出しちゃダメ」っていう男が相手だからね。

♣R
でも出しちゃいますよね。
どうしてですかね。何がいいのだろう。
自分にないものを持っている感じがいいということですか?

♥M
好きだと言ってくれるし、自分を受け入れてくれるみたいだし、って信じちゃうの。でもそこで信じちゃダメなの!

♣R
あっはははは!
心当たりがあります(笑)。

♥M
あるかな(笑)。
モーリスみたいに複数の恋人がいて普通、という人にとっては、アニエスは、絶対に手を出してはいけないタイプだったんじゃないかな。私ならアフリカダンスをするアニエスを見た時点で関係を終わりにする。この人、あぶない、ってわかるもの。

♣R
ダンスを見て、魅力を感じちゃったんですもんね。

♥M
そうね。狂気を感じさせる女優を使いたかったという意味では。

♣R
ぴったりな配役でしたね。

♥M
目も恐ろしかったし、演技も上手だったと思う。
モーリスの子どもの学校に行った時、泣いているのに心から笑えと残酷なことを言われ、笑顔を見せたでしょう? あれはすごかった。
自分が愛される側に立ってみれば一番ノーサンキューな人物。でも逆だとやっちゃうのよ。

♣R
やります。私たちは、ああなるパターンですからね(笑)。

♥M
本当にそう。気をつけましょう(笑)。
私たち、この間、戒めみたいな映画を観たばかりなのに。

♣R
トリュフォーの『隣の女』ですね。

♥M
しかし、私、今までよく殺されなかったなぁ。

■事件の真相


♥M
モーリスは、アニエスを殺したと思う?

♣R
私は殺しているような気がします。

♥M
でも、そういうシーンは全く出てこなかった。

♣R
バイクで走り去るシーンは、少し怪しい感じがしました。

♥M
そのシーンが唯一、暗示しているシーンなのかな。

♣R
「私の道は ここで終わり あとはモーリスに任せる」と締めくくった遺書的な手紙が彼女の部屋の机に置いてあったのは、妙じゃないですか?

♥M
あれは自殺未遂の時に書いたものでしょう?

♣R
そうです。だからその手紙があの時に置いてあるのはおかしいな、と思って。

♥M
と、いうことは…わざとモーリスが机に手紙を置いたということ?

♣R
そういう風にも考えられますよね。

♥M
ルネが扉の下に手紙を置いていたでしょう?
あれは、心配していることや、愛情のことを書いた手紙だったのかな?

♣R
そうだと思います。

♥M
そうかあ…あの時点で失踪となると、やっぱり殺されているかな。

♣R
最後が引っかかるんですよね。
モーリスの息子の訴えにより有罪、懲役20年に至るというところ。

♥M
そうそう。息子は無罪判決を信じていたはずだけれど。

♣R
その後に、何かしらの真実を知ったということですか?

♥M
そうかもしれない。
父親と話している中で、おかしいと思うことがあり、確信したのかもしれないね。

♣R
もしくは、裁判の時も実は真相を知っていたとか。

♥M
そんな様子ではなかったような気がする。もっと複雑な感じだった。
裁判の後、モーリスの息子はモーリスに、「パナマにいれば送還されないのに」と、言っているけれど、「皆 そう思ってる(疑っている)」とも言っている。
父親のことを信じたい、という気持ちはあったと思う。

■母親の執念


♥M
この作品でテシネが描きたかったことは、私たちがいつも話しているような、どうにもならないような恋愛のこと。もうひとつは母親の執念かな。30年だからね。

♣R
モーリスが「30年つきまとわれた俺は彼女の“運命の男”だ」と、言っていましたね。

♥M
そこで「運命の男」と、言っているあたり、お前が犯人だろうという感じ。
でも、そういう彼の性格を最初から見破っていたルネはすごいね。
最初は顧問弁護士として可愛がっていたけれど、モーリスが経営を手伝いたいと言ってきた時、即答しなかったでしょう?

♣R
モーリスの野心的なものを怪しいと感じ取っていたんですよね。

♥M
結局は彼に負けてしまうことになってしまう。
カジノも取られてしまって。

♣R
娘も取られてしまった。

♥M
娘が泣きながら電話しているところのテープを裁判中に聞いている時のルネの心情を想像するとやりきれないけれど、静かなたたずまいだったね。

♣R
裁判所では泣かずに、自分の家で肩を震わせながら泣くんですよね。

♥M
人前で醜態を晒さないという、彼女の貴族的な気品のようなものが出ていた。
本当にドヌーヴは適役だったと思う。



~今回の映画~
『愛しすぎた男 37年の疑惑』
2014年 フランス
監督:アンドレ・テシネ
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/ギヨーム・カネ/アデル・エネル

-ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間