ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間

☆29本目『暗くなるまでこの恋を』

2026/03/02

【あらすじ】
文通相手のジュリーと会う約束をしていたルイ(ジャン=ポール・ベルモンド)。しかし現れたのは、ジュリーと名乗ったが写真とは違う女性(カトリーヌ・ドヌーヴ)だった。ふたりは結婚し、幸せに暮らしていたはずだったが、ある日、ジュリーは口座のお金を引き出し、姿を消してしまう…。




♥M
トリュフォーとドヌーヴのコンビで作った作品は、これで何作目だった?

♣R
これは1作目ですね。
あとは『終電車』です。

♥M
トリュフォーとの作品はそれだけなのね!
途中、中だるみはあったけれど、見どころがいっぱいで面白かった。
目の保養のためだけだとしても観た方がいいし、女性はこの作品を観て、きれいになりたいと思える作品だと思った。
『シェルブールの雨傘』はドヌーヴの初々しさを見ることができるけれど、美しいドヌーヴを見たければ、この映画はベスト5には入る。
『終電車』はもっと内面の美しさを描いた作品だけれども、この作品は外側の美しさを徹底的に描いている。

♣R
オープニングの車のシーン、青い空がとてもきれいに見える映像でしたね。

♥M
ドヌーヴのスッポンポンシーンもあったね(笑)。

♣R
オープンカーで着替えているシーンですよね?
対向車線の車が、それに見惚れて事故っちゃう(笑)。

♥M
大サービスだったね。
マリオン(カトリーヌ・ドヌーヴ)の奔放さを象徴するには必要なシーンだと思ったから、ドヌーヴも納得してヌード撮影を許可したのね。

■ドヌーヴにベタ惚れだったトリュフォー


♥M
原題は?

♣R
『La Sirène du Mississipi』…『ミシシッピのセイレーン』ですかね?

♥M
セイレーンは船乗りたちを座礁させて男たちを破滅させる存在。

♣R
だからマリオンは船からやってくるんですね。

♥M
そうそう。センスのいいタイトルだわ。

♣R
邦題と全然違いますね(笑)。

♥M
本当よ。

♣R
ウイリアム・アイリッシュのミステリー小説『暗闇へのワルツ』が原作らしいです。

♥M
原作の「暗闇」という言葉から、タイトルの「暗くなるまで」をとったのかな。
FRENCH BLOOMという映画の記事で、「トリュフォー没後30周年特集 トリュフォー映画の女優たち」というのがあるのだけれど、その中にこう書いてある。

「トリュフォー映画の女優たちは、恐らく自分たちのキャリアの中で最高の演技をしたのではないだろうか。例えばカトリーヌ・ドヌーヴ。『シェルブールの雨傘』で彗星のごとく現れたこの女優が、本当にフランス映画を代表する女優の地位を掴むことができたのは紛れもなくトリュフォーの映画に出たからではないか。もちろん、『暗くなるまでこの恋を』は「ご愛嬌」としか言えない。」

♥M
ひどい!
まあ、『終電車』は本当に名作だからね。

♣R
でも、ドヌーヴは、『暗くなるまでこの恋を』に出演したことを後悔していないとありました。
当時のインタビュー記事に、こう書いてありましたね。

「フランソワは自分の作品に対して誰よりもきびしい批評家なので、あれは唾棄すべき失敗作だと自分から言っていますが、わたしはあの映画が大好きなんです。またフランソワとはいっしょに仕事をしたいと思っていますし、フランソワもわたしのために何か考えてくれているはずです。」

♥M
ふたりは3年くらいしか付き合っていなかったのよね?

♣R
たしか、そうですよね。

♥M
きっとドヌーヴから振ったのよね?

♣R
そうなんですか?

♥M
大体そうなんでしょう?(笑)。
ふたりと知性の人だから、男女関係がなくなった後も、関係を維持できていたような気がする。

♣R
トリュフォーの関連本を読むと、トリュフォーは本当にドヌーヴにベタ惚れだったみたいですね。

♥M
本当に惚れて惚れて惚れて…だったんでしょう?
だってドヌーヴきれいだったもの。
なぜこの作品は、トリュフォーの中でダメな作品とされているのかが納得できない。

♣R
トリュフォー自身、「あまり時間をかけられなかった」とは言っていますね。

♥M
映画としては陳腐ということなのかな?

♣R
よくある感じということですかね?
ゴダールには、「ジャン=ポール・ベルモンドとカトリーヌ・ドヌーヴという二大スターを起用して、カラー・シネマスコープで、ハリウッドめいたブルジョワ映画をつくるとは何事か」と、罵られたそうですよ。

♥M
たしかにゴダールは何かを言うだろうなという感じはする。
人生の中で、なかなか出会えない運命の人との奇跡的な出会いを描いた単純なストーリーではあるけれど、そういうものの中にも真実があったりするでしょう?
真実の原石みたいなものがいっぱいあったような気がする。
ふたりが語り合うシーンが何回か出てきたけれど、全部好きだったもの。

■愛は苦しい


♥M
ルイは弱い男だったと思う?

♣R
全然弱くないですよね。
弱かったら、すぐに逃げたりしますもんね。

♥M
そうそう。すごく強い人だと思う。
愚かなほどに。

♣R
「愛は苦しい」というセリフがよかったです。

♥M
あんな風に愛されるのは、女のロマンですよ(笑)。

♣R
何が何でも…ぐらいの勢いがありましたね。

♥M
殺されてもいいぐらい彼女のことを愛してる、ということでしょう?
完全にファム・ファタル。ドヌーヴは、悪女役が似合うわ。はまり役よ。

♣R
コロコロコロコロ態度が変わりますもんね。
でも、『哀しみのトリスターナ』のトリスターナとはまた違う悪女性でしたね。

♥M
うん、全然違う。
トリスターナはどちらかというと、おとぎ話の中の人物という感じがするけれど、マリオンはもっと現実的。私はマリオンの方が共鳴しやすいな。
マリオンは誘惑の心得をちゃんと分かっているの。
ルイが帰ってきたのが分かると慌てて着替えて…。

♣R
寝たふりをして待ってみたり。

♥M
そうそう。笑っちゃうくらい面白かった。

♣R
恋愛には、やっぱりそういう駆け引きが必要なんですかね?

♥M
ファム・ファタルですもの。それが生きるということなのよ。
ひじょうに勉強になる作品だわ。

♣R
なれますかね(笑)。

♥M
なりましょうよ!
私も今から頑張っちゃう!

♣R
マリオンの顔を風景画に例えていくシーンもよかったですよね

♥M
うん、すごくよかった。
相手役がルイという名前だから、ラブラブシーンで、マリオンが「ルイ、ルイ」と、言っているのか、「Oui oui(ウィー、ウィー)」と、言ってるのか、分からなかったけど(笑)

♣R
たしかに(笑)

♥M
ルイの愛し方が全女性の好みかは分からないけれど、こんな風に愛されたら…

♣R
全てを受け入れ、全てを許してくれる

♥M
本当に美しい女性だったからというのはあるけれど、何度も「君は美しい」というセリフが出てきていた。こんなに「君は美しい」というセリフが出てくる映画は珍しいし、最後までそう言い続けている。
だからこの映画は、ドヌーヴの美しさで成り立っている作品。
美しくなければ、ファム・ファタルとしても成り立たない。

■どれも「真実」


♥M
レコードに自分の声を録音するシーンは、彼女の純粋な部分が描かれている部分だった。

♣R
作った後に、すぐに割れちゃうやつですよね(笑)。

♥M
そうそう。信じてもらえない女みたいなものを象徴しているシーンだと思った。

♣R
愛していると言いつつ、お金のことでもめたり、多面性はあるけれど、彼女にとっては、どれも真実なんですよね。少女性を持ち合わせているから、コロコロと変わることがあっても、嘘ではない。

♥M
そうそう。子供がよく言う、「あれが食べたい、これが食べたい」と同じで、計算していることではないの。それがやっぱりファム・ファタル。
この女のためだったら、命を捨ててもいいし、殺されてもいいと思わせるのがファム・ファタルの条件。男はそれに翻弄される。
まさにトリュフォーは、ドヌーヴに対する自分の想いをこの作品に込めているんだな、というのがすごく伝わってきた。

♣R
「自分の撮る映画は私生活が影響している」と、トリュフォーはインタビューで話してますから、きっとそうに違いないですよね。

♥M
足のシーンがよく出てくるのも、やっぱりトリュフォーの足フェチからきているのかな。

♣R
足…というかハイヒールに関しては、戦争とお母さんの思い出が関係しているみたいですよ。

■それでも許すルイの心


♥M
ブログにも書いたことがあるけれど、トリュフォーの作品だと『家庭』という作品が面白かった。特典で、トリュフォーがテレビ出演をした時の映像があったのだけれど、顔にいっぱい汗をかきながら話す不器用な姿にとても感動したの。

♣R
手紙を書くのが好きで、手紙を書く方が、自分の心が伝わると思っていたみたいですね。
テレビ出演の姿や、手紙の話を知ると、彼自身の人間のあたたかみのようなものを感じますね。

♥M
芸術家のとんがったものがあまりないね。

♣R
トリュフォーきてますねぇ。

♥M
世の中ではなく、私たちの中でね(笑)。
オススメ映画ね。ドヌーヴの美しさ、ファム・ファタルを学べる。あとは男の愛し方。
ひとつひとつ顔を絵画に例えてくれたり、出会ったことを一度も後悔しないし、殺人まで犯してる。最後なんて毒まで盛られているのに…。

♣R
それでも全てを許しちゃう。

♥M
でも、それでも許す彼の心があったからこそ、マリオンの心は決壊したのね。
初めて人を愛した瞬間だと思う。
「あいしてるわ ルイ とっても あなたが信じなくても本当よ」と、言ったのに対して、ルイが「僕は君がいい 君しかいない 今のままの君が好きだ」と、返すシーン、本当に胸に沁みた。

♣R
マリオンが泣きながら「つらいわ これが愛? 愛はつらいもの?」と尋ねるんですよね。
本当に名シーンでしたね。

♥M
ラストで山小屋を出て、雪が降りしきる中を歩いていくけれど、あの後ふたりは凍死してしまうのかしらね?
あんなに雪がすごいのに、軽装で出掛けてしまって。心配。

♣R
(笑)。
イヴ・サンローランの薄いコートで。

♥M
そうそう。あの後ふたりはどうなると思う?

♣R
同じことを繰り返すような気がします。
一度は愛を知ったけれど、マリオンの態度は同じようなことを繰り返していくと思います。

♥M
少女性を持っているから、「これが欲しいのになんでお金持ってないのよー!」みたいな感じで諍いになったり?

♣R
そうですね。そういうことを繰り返しそうですよね。

♥M
こういう世界、やっぱりいいな。
求めているものがある。

♣R
集結していましたか?

♥M
そう。悪女性や人を騙眩かすことは除いて、女性の美しさやあり方、生き方が描かれている。
愛されるためには、それなりのものを自分は作っておかなくてはいけない。
例えば、ふたりの生活が始まった時、マリオンが疲れた主婦みたいな存在だったら、ああいう風にはならなかったと思う。誘惑したりして、常に完璧な姿でいるようにしている。
だから愛されるためにはそういうものが必要なんだと思ったし、やっぱり、ああいう愛が欲しいのだと思った。



~今回の映画~
『暗くなるまでこの恋を』
1969年 フランス
監督:フランソワ・トリュフォー
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/ジャン=ポール・ベルモンド/ミシェル・ブーケ/
ネリー・ボルゴー

-ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間