☆34本目『終電車』
2026/03/02
【あらすじ】
ナチス占領下のパリ、劇場の地下に身をひそめて生活するユダヤ人の夫ルカ(ジャン・ポワレ)にかわり、マリオン(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、劇場の支配人をしながら看板女優として舞台に立っていた。ルカは地下で毎晩マリオンと過ごす時間を心待ちに日々を送っていたが、新作公演でマリオンの相手役に起用された新人俳優ベルナール(ジェラール・ドパルデュー)にマリオンは惹かれてゆく…。

♣R
オープニングで流れるリュシエンヌ・ドリールのシャンソン「サン・ジャンの私の恋人」が好きなんです。
♥M
私も!
知ってる名前が出てきて嬉しかった。「ピアフ」を聴きに行ったという少女が出てきたり。
♣R
お針子として働いていたマリオンを「シャネル」がクビにしたから女優として成功した、と言っているシーンもありましたね。
■『終電車』の意味
♣R
ソフィア・ローレンの『ひまわり』的な感じで、電車のシーンが出てきて、さよなら!さよなら!みたいな映画で、もっと戦争の話や悲恋が中心にくるのかと思ってましたが、結構コメディ要素もありましたね。
戦時中の話ではありますが、メインはそこではないから、より近いものに感じられるような作品でした。
♥M
占領されている中でも、ユダヤ人やレジスタンスの人以外の人たちは、不自由ながらも普通に生活している。
ブログ(終電車「映画音楽と物語」より)にも書いたことがあるけれど、その当時、夜間外出禁止令があって、帰らなければいけない時間が決まっていたから、終電車を目指して人々が走るというところからタイトルがきていて、電車というキーワードは、これを説明したシーンぐらいしか出てこないけれど、あえてこれをタイトルにした理由は、どんな過酷な状況であっても、そんな時だからこそ、人間には楽しみが必要なんだ、というメッセージが含まれている。
観る側の人たちにも、プロデュースする側の人たちにも、芝居が好きだという熱意があふれていて、それがちゃんと表現されている。
トリュフォーやドヌーヴが、映画にかける情熱に通ずるものがあって、改めていい映画だと思った。
♣R
最近、舞台を観に行くことが多いので、親近感のようなものがありました。
♥M
恋愛もテーマのひとつではあるけれど、芝居に情熱をかける演劇人たちや芝居を愛する人々の姿に胸が熱くなる。
戦争中だからこそ、芸術や人生の楽しみを愛する人間の情熱が際立つ。
♣R
その時代は戦争中でありながらも、芸術が栄えている時代だったようですね。
暗い生活だったからこそ、そういったものを求める人も多かったし、それに答えて作る人も多かった。
♥M
『終電車』は夫の代わりに劇場の支配人になり活躍する女性はウケがいいだろう、というのもあり、それだったらドヌーヴもすごく支持されるのでは、という計算もトリュフォーの中にはあったみたい。
♣R
昔の資料に基づいて作られた役だった、というのもトリュフォーの本に書いてありましたよね。
当時は劇場経営などをするユダヤ人が多かったけれど、みんないなくなってしまい、女の人がやらざるを得ない状況だったみたいです。
そういう背景で考えると、社会的地位のある女性にするには、ただの女優ではなく、座長にした方がいいと思ったみたいですよ。
♥M
責任感を持ちながら強く生きる女性ね。
ドヌーヴ本人も「マリオンは自分自身に近い」と、言ってる。
周りをしっかりと仕切って、ふたりの男の間にいても、それがどうした、という姿勢を持ってる。
■「愛は苦しい」と言った時の苦しみとは

♥M
トリュフォーの本を読んで知ったのだけれど、『暗くなるまでこの恋を』で失敗したから、リベンジとして『終電車』を作ったんでしょう?
♣R
自分も読みました。
♥M
映画の中の劇中劇で、同じセリフを使っているのよね。
♥M ♣R
「愛は苦しいもの」
♥M
ごめんね、あの時は…という意味を込めて同じセリフを使っているのかな(笑)。
♣R
セックスの時に「Oui oui(ウィー、ウィー)」と、言っているのも同じでしたね。
♥M
そうそう!
♣R
トリュフォーは、ドヌーヴとパートナーだった時、「愛は苦しい」と思っていたということですか?
♥M
きっと、そうでしょうね。
♣R
『終電車』や『暗くなるまでこの恋を』のそのセリフは、ミヒャエル・ハネケ監督の『愛、アムール』で感じたことと似ていました。
愛は美しいだけではなく、苦しいものでもあるということ。
苦しいけれど、離れられない。離れれば楽になるのに、離れたくない、そういう経験を少ししたことがあるので、その時のことを少し思い出してしまいました。
♥M
「愛は苦しい」と、言った時の「苦しみ」というのは、一体何の苦しみなのかを考えた。
あなたのことが好き、大切に思っています、極端に言えば命だって惜しくありません、というものを持っていたとするでしょう?
でもそこで何が苦しくなるんだろう、と思った時、愛情の温度や質量などのバランスがとれないときに苦しいと思うのかな、って。
自分が苦しい思いをした時のことを思い出してみると、自分が思うように、相手が自分を愛してくれない時にそう思っていたことが多かった。
私たちが恋愛の時によく考えているパターンよね。
自分と同じように愛してくれない、愛が足りないと思ってしまう。
自分がいることで、相手に重さを感じさせてしまったり、束縛感を与えてしまっているのではないか、という風に考えてしまうのも苦しみのひとつだと思うの。
同じような感じでふたりに気持ちがある時は、そんなに苦しくはないのよね。
♣R
そうですね…同じ温度で恋愛をしている時は、気持ちが合致しているし。
♥M
だから、合致していない時はとても苦しい。
子どもに対しての「愛は苦しい」という場合もある。
子どもは自分よりも大切な存在だから、何をしていても心配になるし、この子に何かあったらどうしようと思ったり、自分以外の人の命を常に心配しなくてはいけない、といったようなことは苦しみに近い。
あとは、子どもがいるから、死にたいと思っても、勝手に死ねない苦しみ。
好きな男に対してとは、また違った苦しみね。
相手に対して、自分の気持ちがそれほどなくなってしまっているという逆のパターンもある。
自分のなかでは段々と気持ちが冷めてきているけれど、相手はそんなに冷めていない。
情愛は残っているし、相手を苦しめたくはないけれど、自分のテンションを、相手と同じぐらいに持っていけない時の苦しみ。
♣R
『ミューズ 女神』を書いた時は、どんな感じでしたか?
『終電車』では、主人公のマリオンは、ふたりの男性の間で揺れ動いていますよね
♥M
『ミューズ 女神』もふたりの男の間にいる女性の話だものね。
その時も苦しかった。
結局は気持ちが移っていくけれど、情愛は残っているし、好きだった人を傷つけたくない、という気持ちが強かった
♣R
ジェーン・バーキンの『ラ・ピラート』では、愛の苦しみをどこに出せばいいのかわからない状態が描かれていましたよね
♥M
誰かを傷つけてしまうとか、誰かによって苦しめられる、というのを、対象に向けるのではなく、自分に向けた時は、自傷行為になってしまう。
■ドヌーヴとトリュフォー

♥M
ドヌーヴは『終電車』で女優としてやりきった感があったみたいで、そのあと、一時期引退を考えていたみたい。色々な賞も受賞したし、きっと極めた感じがあったのね。
これ以上のものはなく、あとは没落していくだけ、それなら転身しよう、と思っていたみたい。
特に『終電車』からの数年間は恵まれた作品にも出会えず、結構きつかった、と言ってる。
♣R
この作品で、セザール賞十冠受賞、ドヌーヴも初めて個人の賞をもらったんですよね。
♥M
それまでは受賞していないの?
『シェルブールの雨傘』とかでも?
♣R
そうみたいです。
同年にセザール賞にノミネートされていたのは、ゴダールの『勝手にしやがれ』です。
ちなみに、女優賞は、イザベル・ユペール、ナタリー・バイ、ニコール・ガルシアがノミネートされていました。
♥M
ニコール・ガルシアは、ドヌーヴとも組んでいる監督よね?
♣R
女優業もやっている方なんですね。
♥M
そうそう。『ヴァンドーム広場』の監督。
その撮影時、すっぴんでの演技を指示されたドヌーヴがOKを出したのは、監督自身が女優である、というのが大きな理由だったみたい。
それがどういうことか分かって、必要だと思って指示をしているのがわかったから、納得して受け入れたみたい。
♣R
ドヌーヴはただ嫌で断るのではなく、納得する理由さえあれば、なんでもやる女優ですよね。
♥M
納得さえすれば(笑)。
♣R
トリュフォーは、授賞式の時、既にファニー・アルダンとパートナーだったんですかね。
授賞式の映像の時、隣同士で座っていて、ドヌーヴは全く違う場所に座ってました。
♥M
ドヌーヴのパートナーは、トリュフォーの次にマストロヤンニ。
たしかトリュフォーとは長く付き合ってはいないから、『終電車』の時は、既によき友人になっていたのだと思う。
ドヌーヴは、今でもトリュフォーの言葉を引用したり、色々教わったと話しているから、いい関係を築いていたのね。
トリュフォーはファニー・アルダンとの間に子どもが生まれた後、しばらくして亡くなってる。
そう考えると、フランソワ・オゾン監督が『8人の女たち』でドヌーヴとファニーのふたりにラブシーンを演じさせたのは、絶対に狙ってやったことだと思うの。
♣R
トリュフォーが大好きな足をアップにして。
♥M
そうそう(笑)。
■共演数の多いジェラール・ドパルデュー

♣R
ドパルデューはどうでしたか?
当時、ドヌーヴは彼のことを高く評価していて、一度は組んでみたいと思っていたみたいです。
♥M
とても若かったね。
♣R
彼も売れっ子になっていた時期らしいです。
♥M
ドパルデューも、ドヌーヴと同じくらい映画の出演数が多いのよね。
♣R
共演も多いですよね。
♥M
うん。最近だと、『しあわせの雨傘』や『ホテル・ファデットへようこそ』でも共演しているね。
♣R
今では、どかーん!という丸太体型ですよね。
♥M
顔も変わってしまった…。
ドヌーヴと『ポーラX』で共演している、息子のギョーム・ドパルデューもかっこいいよね。
♣R
でしょう?
ほらーそうなんですよ。かっこいいんですよ。
■ラストで見せるマリオンの表情
♥M
ラストで見せる満足そうなマリオンの表情。
♣R
あのラストシーンは本当によかったですよね。
端にいたマリオンが…。
♥M
自ら真ん中に来て、夫とベルナールの手を握る。
♣R
マリオンはこれからもふたりの男たちと共にいるのだろうな、ということが分かるし、役者と演出家という立場も象徴しているシーンですよね。
♥M
ふたりの男も、そういった関係であることを理解している雰囲気が漂ってる。
でも、その時のマリオンの表情は、会心の微笑みではなく、すごく満足しているという訳でもなく、当然でしょ?的な余裕のある笑顔。
最高のラストシーンだった。


