☆52本目『バッド・シード』
2026/03/03
【あらすじ】
義母のモニーク(カトリーヌ・ドヌーヴ)と共に、詐欺をしながら生活をするワエル(ケイロン)はつらい過去をかかえている。
ある日計画した詐欺行動がきっかけで、ワエルは問題児を教える立場になり、少しずつ変化が…。Netflixオリジナル作品。

♥M
この作品の一番の見どころは、モニークとワエルが着飾って登場するシーンね!
♣R
サンバの衣装みたいでしたね(笑)。
♥M
ドヌーヴよくやったな、という感じ。
今までにない魅力が詰まってる。
♣R
この作品、割と好きです。
♥M
私も。
♣R
コメディ要素だけではなく、ワエルという人物を通して国が抱える問題や戦争についても語られていましたね。
モニークがなぜ彼と一緒に生活をしているか、というのが次第に分かっていくのが面白かったです。
♥M
その描き方が秀逸だった。
現実の中の回想シーンとして、短いシーンが入れられているだけなのに、全部分かるし、短いシーンだからこそ、重たくなり過ぎない。
厳しい過去を過ごしてきたワエルを、モニークがシスターを辞めて引き取って育て始めた。
ふたりで詐欺師として生活しているあたりがとてもおかしかった。
血の繋がりはないのに、とても仲良く暮らしているふたりの関係も、とてもよかったね。
♣R
モニークがワエルの小さい頃に言った「あなたを絶対、ずっと愛するから」という約束をずっと守っているんですもんね。
♥M
そう…詐欺をやりながらではあるけれどね(笑)。
ラストは爽快だったね。
思いっきり騙されてしまった(笑)。
■人情味あふれるおっかさん
♣R
学校に来ている問題児とされている子どもたちも、いい子ばかりでしたね。
お金を貰いつつ、仲間同士がこういう問題を抱えている、ということをワエルに話してる。
だからこそワエルは裏工作をして、悪人を捕まえることが出来た。
彼らも問題児と言われながらも、人間味あふれる部分がたくさん描かれていましたね。
♥M
もちろん、過去のシーンでは悪い人いっぱいでてきたけれど、現代のシーンでは本当に悪い人はひとりしか出てこなかった。
♣R
あの悪者刑事ですよね。
♥M
そうそう。あとはみんな善き人だった。
♣R
モニークも、面接に来た人を脅して追い返したりしているけれど、ワエルが働ける場所を与えたかっただけですからね。
♥M
あのドヌーヴの演じ方、とても好きだった。
♣R
可愛らしいですよね。
いつも見るような可愛らしさではなく、心がほっこりする感じ。
♥M
そうなの。本当に人情味あふれるおっかさん、という感じ。
しかも無理をして演じている、という感じではなかった。
♣R
おっかさん(笑)。
♥M
シワを伸ばすためにテープを貼ったり、歳のことを話したり…。
♣R
冗談みたいに話していますよね。
しかもそれを本気で嫌がっているという感じではなく、笑いで全ておさまってる。
♥M
こういう役を引き受けるということは、きっと彼女の中で何かが抜けた感があるからなのだと思う。
だって昔は、ああいうシーンを嫌がっていたと思う。
♣R
実生活で今までに散々言われたかのようなセリフでしたよね。
♥M
「老女だろ」とかね。
年齢や外見と「まだまだいけるもん! 」という精神のギャップ。それを笑えるようになってきている、というのが出ていて、面白く観られた。
ああいう風な役の方が、今後は魅力的だと思う。
♣R
そうですね。
♥M
体型のこともあるし…。
♣R
たしかに。
もちろんきれいな役柄もありだとは思いますけどね。
『ルージュの手紙』や『ミス・ブルターニュの恋』も、この作品に近い人物じゃないですか?
♥M
そのふたつの作品では、まだ他の人とは違う女性というものを維持しているような気がする…女であり続けることや、歳を取っても魅力的というようなことをね。
でもこの作品にはそういうものがない。
■監督はコメディアン出身
♥M
この役をドヌーヴにやらせた監督は、本当にすごい。
他にも何か撮っている監督なのかな?
♣R
監督は、ワエルを演じているケイロンという方なんですって。
♥M
そうなの??
彼が監督で主演なのね。
♣R
コメディアンが本業らしいです。
♥M
独特な風貌の持ち主。
※ケイロン
1982年フランス生まれ
幼い頃から文章を書くのが好きだったケイロンは12歳の時にラップや詩を書き始め、やがて、スタンダップ・コメディの道に進むようになった。
♣R
前作は『スリー・オブ・アス』という作品で、東京国際映画祭で上映されたみたいです。
♥M
若いね。ドヌーヴは若い監督と組むのが好きだから。
このふたり、よっぽどウマが合っていると思わない?
♣R
合っていますよね。「監督だけの人よりも、俳優もやっている人の方が説得性がある」と、ドヌーヴは言ってましたよね?
♥M
『ヴァンドーム広場』の二コール・ガルシアの話をしている時に言ってたね。
演じる側の立場を分かっている人の言葉は、割と素直に聞けるみたい。
■雑草などない
♥M
冒頭に、ヴィクトル・ユゴーの「雑草などない。無能なのは農夫」ってエピグラフがあったね。
♣R
育て方次第ということですか?
♥M
環境が悪いと、悪いものが育つ、ということかな。
昔、軽井沢に住んでいた頃、お庭にいっぱい草が出ていたのを見た隣のおばあちゃんに「雑草を抜いておいた方がいいわよ」と、言われてね。
庭を見渡してみたんだけど、どれもきれいな緑だったから、どれが雑草だか分からなかった。
例えば、育てたい花があったとして、それを邪魔するものがあるとしたら、それはその人にとっての「雑草」だけれども、私みたいにお花も緑もきれいだと思っている人にとっては「雑草」ではない。
その時に「雑草」というものの定義をすごく考えたことを思い出した。
私は「雑草などない」を、私は「雑草の定義」みたいな感覚でとらえたんだけど、ユゴーはちょっと違って「農夫が悪いだけ」って言っているわけだから、さっき話したように「環境がいかにたいせつか」ってことね。
ややこしいんだけど、ユゴーのなかに雑草はあるにはあるわけじゃない?
私は「雑草っていったいなんのこと?」という考えだから、そういう意味で違うってことね。映画の本筋とは違うけれど、ああいう風に映画の最初に出てくるような一文、エピグラフって、作品のイメージを決定づけるものなのね。
本にしても、エピグラフを書く人と書かない人がいるけれど、私は書くのが好きで、でも今回の映画で、最初から違うイメージをいだいてしまう私のようなのがいるわけだから、これからは、かなり吟味してからエピグラフを入れるようにする。
■キュートなドヌーヴが見られる作品

♥M
ふたりでキッチンに座って野菜を切るシーンがあったでしょう?
私、あのシーンが好き。
ドヌーヴもノルマンディに別荘を持っていて、そこで自然を感じながらガーデニングを楽しんだり、料理をしたりしているみたいなのだけれど、こういう感じなのかなと思いながら見てた。
♣R
「子供たちによく料理を作っている」と、インタビューで話していますよね。
♥M
手つきを見ていたら、やっぱりちゃんと料理をする人なのだと思った。
あのあたりも人情味あふれていたよね。
♣R
人間らしさをすごく感じますよね。
♥M
そうなの。温もりを感じる。
♣R
今まではドヌーヴを女優という生き物として見ていましたけど、本当は人間なんだと思えました。
♥M
それこそ「氷のような」というものが感じられないよね
♣R
『大草原の小さな家』とか観ちゃってますからね。
♥M
ふたりで泣きながらね。
あのシーンも大好き。かわいい。
本当にキュートなドヌーヴが見られる作品だったね。
今までで一番かわいらしく、微笑ましい。
そんな映画、他にないものね。
♣R
フランスのコメディはやっぱり面白いですね。
日本ではあまり公開されないですし、話題にもなりませんが、フランス映画祭とかで観たりすると、毒っぽさがあっていい。
もっと日本でも広まればいいのにと、いつも思います。
♥M
シニカルで、わかりやすくはないから、日本では難しいのかな。
♣R
この作品は、フランス映画にしてはハッピーエンドだし、わかりやすいと思いました。
♥M
コメディというより、人間ドラマだったのね。
♣R
ケイロンがコメディ出身の人だから、コメディ要素を混ぜるのが上手かった、ということなんですね。でも描きたいことはちゃんと描かれている。
こういう色々な要素が混じった映画は、どこかしらに偏り過ぎてしまうと失敗しがちですが、そういった意味でも、とてもバランスのとれた作品だったと思います。



