●美術エッセイ『彼女だけの名画』18:ブリュージュ、美の刻印
2020/08/26
「死んだ、死んでしまった……死の都ブリュージュ」。
詩人ローデンバックの小説「死都ブリュージュ」のフィナーレ。
美しい妻を亡くした男が、永遠の喪に服するために移り住んだブリュージュで、亡き妻に生き写しの女と出逢う。彼は女に妻を重ね合わせるが、しかし、彼女は実は妻とは似ても似つかない俗悪な女だった。彼は彼女と亡き妻との間の「類似」と「差異」とに翻弄され、ついには彼女を殺してしまう。
まさに世紀末文学。全編「死」に貫かれた、霧のなかに浮かび上がるガス灯の仄かなゆらめきのような世界に私は魅了された。
そして、「見捨てられた街」。
クノップフはローデンバックのこの小説の扉絵を制作しているから、この絵と小説とは濃厚な関係にある。
私がこの絵をはじめて観たのは6年前、渋谷の美術館で「クノップフ展」が開催されたときのことだ。
美術展に足を踏み入れたときの感覚をどう表現したらよいのだろう。