★絶筆美術館6:シーレ『家族』
世紀末ウィーンにあらわれた天才エゴン・シーレ。
天才。
これはシーレ自身が自らを語った言葉だ。
なにしろ自分が生まれたときの様子を描いた絵のタイトルが『天才の誕生』。生涯自分の天才を疑うことがなかったのかどうか。あまりにも早く死んでしまったから、疑わないまま逝ったかもしれない。
二十八歳だった。
シーレは短期間で百点以上の自画像を数多く描いた「自画像の画家」として有名だ。全作品中に占める自画像率はゴッホやレンブラントよりも高く、そしてそのいずれも観る者に戦慄を強要する。
気持ちのよい絵ではない。いつも胸に不協和音が鳴り響く。
性への興味が強かった時期でもあったのだろう。自慰をする自画像など、性欲に翻弄される姿をも描いている。ただし、そこに快楽はない。あるのは痛みのみ。
女性のヌード、それも鑑賞用ではなく生身の女のエロスを追求した作品も多く描き、「良識ある人々」からは危険人物扱いされていた。
とにかくシーレといえば、反社会的で反抗的でエロティックな作品を描く画家。
いまでこそ「シーレが好き」と告白することは、ちょっとクールくらいのイメージがあるけれど、当時「シーレが好き」と言うのはよほどの勇気を必要とした、そんな画家なのだ。
その画家の絶筆が、『家族』だった。
■遺影のような懐かしさ
家族。
意外だ、という意味でまず惹かれた。そして、絵のもつ熱量、こちらにうったえかける熱量が半端ではなかったから、ぐっとのめりこんだ。その絵と真剣に対峙することを避けられなかった。