ブログ「言葉美術館」

■ひとり出版社と娘、たいせつな記念日に

2021/02/10

 

 

 今日、2020年12月7日は、娘の夢子が設立した、ひとり出版社ブルーモーメント初の本の出版記念日。

 娘にとって、今日が特別な日だというのは、数日前からその様子で伝わってきていた。

 もちろん予約本の発送はしているのだけれど、全国の書店に並ぶ日、自らが夏に設定した12月7日発売、という目標を達成した日なのだから当然だろう。

 お昼前、ようやく私がベッドからのろのろと抜け出したとき、彼女はコートを着てバッグを肩にかけて、出かけるところだった。

 自分が営業した都内の書店をまわるのだという。

 特別な日、の空気が彼女をとりまいていた。

 私は彼女を送り出して、家の雑事をし、すこし仕事をしてから、書店で自分が創った本が並んでいる様子を見ている彼女を想像していた。

 なにか、胸にせまる想いがこみあげてきた。

 娘を産んでからのさまざまな出来事、よろこびやかなしみ、笑いや涙が、うかんできてとまらない。

 いまさら言うまでもなく、私はけっして良い母親などではなかった。
 子育てが幸せ、と思えない母親だった。
 いわゆる「子育て」と呼ばれる時期は、自分の創作活動への想いとの葛藤でどれほどのたうちまわったことか。

 彼女の中学校の進学とともに軽井沢から東京に戻ったときに決意した夫婦の別居がどれほど彼女を傷つけたことか。

 あげればきりがない。

 いまの娘を見ていてつくづく思うのは、坂口安吾の言葉は正しい、ということだ。娘を産んでからずっと心の支えにしてきた言葉。「親がいても子は育つ」。

 どんなだめ親でも子どもは育つよ、という安吾の言葉はほんとうに私のすくいだった。

 自分のことで精一杯で、母部門は一番の苦手科目で、ぜったいに模範にならない人間であっても、それでも唯一、これだけは嘘なく言える、ということがあって、それは彼女への愛だ。それだけは揺らいだことがないし、できるかぎり伝えてきたつもり。それに産まれたときから、私は彼女のことがずっとだいすき。へんな言い方だけど。

 そして、いままでは、私の本は、てれくさいから、といっさい読まなかったのに、どうしたことか、その時期が来たのか、ふと読んだ「生き方シリーズ」に何かを感じとってくれて、こんなにいい本がうもれていくのはおかしい、とひとり出版社を立ち上げて、怒涛の3ヶ月ののち、こうして、再生した「生き方シリーズ」を送り出してくれた。

 本作りの途中、いちばん、ぐっときたのは、奥付を見たとき。

 

 近くで見ていて泣けるほどの苦難の連続だった。

 いちおう、私の方が長く生きていて、それなりの経験もあるから、「ここは私が少し手伝った方がいいかな」ということも、あるにはあった。大学生というだけで「かんぜんになめられているなあ」という対応をされていることもあり、でしゃばりたい欲望と戦ったこともあるけれど、私は「著者」としてだけ関わった。

 ただ、いつでもセーフティネットでありたいとは願っていた。サーカスなんかでね、万が一落下したときの、あの網のイメージ。これは、今回の出版だけではなく、いつからか私が決めた娘に対する私の役割。自由に好きなように生きて欲しい。願わくば、可能なかぎり、あなたのでセーフティネットでありたい。ってかんじ。

 なんて言いながら、こころもとない。いろんなところに不具合が生じている今日この頃、それも難しくなってきているかもしれないな、なんて思う。

 今回のことで、私にはできないな、と思った一番のことは、どんなときにもユーモアを忘れない姿だった。ひとりで泣いていたこともあったかもしれない。けれど、嫌な出来事を話すときにも、私を笑わせた。自分を客観視できる力。

 いろんな媒体で紹介されて、「史上初となる大学生が始めた出版社」「史上最年少」「業界未経験」「編集、企画、経理、営業等をひとりで行う」「最初の本の著者は母」「元フォロワー12万のインフルエンサー」などの言葉が踊る。

 もっともっと自分を売り出せばいい、と周囲のひとたちにも言われるという。けれど彼女自身は「表に出る、自分を売り出すのは苦手、裏でちまちま企画しているのが好き」。

(……ここまで書いて、もっとスマートに文章を削ろうかと、時間を置いた。娘のことを自慢しているような箇所は削ったほうがクールじゃない? でもそのままにした。自分のために書いているブログだということから離れてはいけない、って思ったから。)

 

 夕刻、娘が帰ってきたときに間に合うように、花を買いに出かけた。おまけに「ヨハン」のチーズケーキも買った。

 途中、中目黒のTSUTAYA書店に立ち寄った。

 まるで私のコーナーみたいな風景が広がっていて感動して写真を撮ってしまった。

 

 

 帰り道、歩道橋から見上げた空は、美しいブルーモーメント。わあ、できすきだよね、ってひとりでこころでつぶやいて、しばし見惚れていた。

 家に帰り、自分の本なのに、おかしいかもしれないけれど、「出版おめでとう」と「ありがとう」のカードを添えて娘の部屋に置いた。娘が好きなガーベラの花を。

 2020年12月7日。今日はたいせつな記念日。ありがとう。

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