●美術エッセイ『彼女だけの名画』2:ロンドン、「ベアタ・ベアトリクス」
2020/08/26
「ほんとうに好きなこと」は「仕事」にしないほうがいい。「仕事」になった段階でそれは「好きなこと」ではなくなるから。
進むべき道を模索していた二十五歳。悩める私に、相談相手の年上の女性はそう言った。
それから一年後、アートサロンを設立。
講演、執筆、そして絵画のコーディネートなど、絵に関する仕事を三年程続けた去年の夏、私はロンドンを訪れた。
ロンドンに向かう飛行機のなかで滞在中の予定を組み立てる。まずはテイト・ギャラリー、そしてナショナル・ギャラリー、ロンドン国立絵画館も見ておかなくちゃ……、と頭をぐるぐる回転させる私に、もうひとりの私が問う。
「そこは、本当に行きたいところなの? 仕事の関係上、行っておいたほうがいいから、行くんじゃないの?」