●美術エッセイ『彼女だけの名画』1:「モナ・リザ」とモノクロのパリ
2020/08/26
モノクロの映画が好きだ。
強引な押しつけや喧騒のない、静かなる世界が好きだ。観るときの心の状態で変化する色彩、観る者によってまったく違って映るであろう色彩の可能性が好きだ。
たとえば、モノクロであるはずなのに、鮮やかな色を見ることがある。その瞬間の映像、セリフが、そのときの私に強く響いたとき、そんなふうになる。
冬のパリで、私はそれに似た感動を経験した。
数年前、ふたりの男性の間で揺れていて、生活すべてが振り子のような状態で仕事もうわの空、もうどうしようもなくなって、一週間後の飛行機のチケットをとった。ちょうど冬の休暇があったのだ。