●美術エッセイ『彼女だけの名画』6:ロートレックのパリ、「化粧する女」
2020/08/26
夜のパリを歩くと、ロートレックを思い出す。
19世紀末、繁栄の絶頂にあったパリ。その裏側に生きた人々を慈しみをもって描いた画家、ロートレック。
彼のイメージはなぜか「夜」。「普通の人々」が活動する昼間は彼には似合わない。私はそう思う。
ロートレックが毎晩訪れた場所、「ムーランルージュ」。
その名の通り「赤い風車」が店先を飾る。当時はダンスホール、ミュージックホール、そしてキャバレーを組み合わせたような娯楽施設だった。
鉛筆と酒を手に、彼は目にした光景を片っ端から素早くデッサンした。そこで働く踊り子や娼婦たちに魅せられ、彼女たちと一緒に生活を共にした。
パリに行ったなら、絶対、ムーランルージュへ。ロートレックの絵に心打たれたときからずっと私はそう願い続けてきた。