◆私のアナイス ブログ「言葉美術館」

◆私を愛してください!

2017/02/08

R大好きなアナイス・ニンの本が発売された。

水声社から、杉崎和子先生の訳で。『リノット』というタイトル、アナイス少女時代の日記だ。

リノット(Linotteとはフランス語、英語では Linnet)というのは、「少女アナイスが自分につけたアダナ」で、ベニヒワという小鳥のことだが、「転じて粗忽者の意味もある」のだという。おっちょこちょい、へんてこ、かわりもの……そんなふうな感じかな。「自分は一度にあれこれ考えすぎて、他人には頭がおかしいんじゃないかと思われそうなことを言ったり、したりする粗忽者だと、アナイスは自分をわらっているらしい」。

さて、少女時代のアナイスの日記には、ほんとうに驚かされた。私が大好きなアナイス……作家になりたい、自立したい、芸術家を育てる存在でありたい、そして愛し愛されたいという強い欲求をもつ女性……は、こんなに幼いころからすでに彼女のなかに鋭く存在していた。

たとえば、アナイス16歳、5月15日の日記。彼女はひとりきりで、「ある空虚感」のなかにいる。家族の愛情には満足しているけれど、「何かが足りない」気がする。

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別のものが欲しいのだ。とても強くて、とても力のある誰か、私を愛してくれる、そして、私も心から愛せる誰から欲しいのだ。(略)

空には星がきらめき、月が微笑んでいる。私に見える地平線は窓から見える行き止まりの道だけれど、無限のスペースに向けて、私は両手に顔をうずめて、祈りを放った。

「お願いです。誰か、私を愛してください!」

わからない、私の心が創りだし、私の夢が魂を入れた大きな一つの人影が入ってこなければ埋まらない空虚な場所を、私がかかえているとは、知らなかった。

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まだ恋を知らないころの日記だ。こののち、アナイスは奔放な愛の遍歴を重ねる人生を歩む。

読み終えるのが惜しくて、ゆっくりとかみしめるように読んだ。

出版社がアマゾンへ抗議して出荷停止しているので、恵比寿アトレの有隣堂で取り寄せた。
書店へゆき、取り寄せをお願いして、電話をいただいて、受け取りにゆく。こういう一連の動きがあって手に入れた本はまた格別。クリック一つで郵送されてくるのでは味わえない、「本を買う」ことのよろこびがある。

いま、アナイスのセリフを声に出してみて、ふと思った。
具体的な対象がなく、「誰か、私を愛してください!」と願うのと、誰か具体的なひとに対して、「私を愛してください!」と願うのとでは、どちらが、胸が苦しいのだろう。

どちらもそれぞれに、苦しいな。
前者は広大な闇のなかにぽつんとひとりで座りこんでいるような、こわいほどの寄る辺なさがあるし、後者は愛するひとに思うように愛されないという、これまたこわいほどの悲しみがある。

私はといえば、その時代時代で、両方の「私を愛してください!」からずっと、逃れられないでいる。

そんなことを考えて、『リノット』を大切に胸に抱く。

この本を出版してくださった方々に感謝をして、そして私は、40代以降のアナイスにとっても興味があるので、出版が難しいこんな時代でも、なんとか翻訳して出版をしていただきたいと、もう、祈るように思う。

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