■安吾■「一途、ほとばしっているか」
2017/06/12
昨年末からずっと続いていた緊張の糸が、ある日、ぷつりと切れてしまった。
切れたな、と感じられるほどに、切れた。
それは一つの原稿をあげたという具体的理由があるのだが、瞬間に体調を崩した。
そして風邪をひいた。
43回目の誕生日は、ほとんどベッドで過ごした。
それから一週間ひきずった。
その間も仕事をしたけれど、あまりのだるさに精神が落ちこみ、あぶないな、と思った。
そこで、あとさきのことや、さしあたっての仕事のことも考えず、できるだけ眠り許される限りベッドにいることにした。
ある量の眠りの後、緊張していた間ずっと読書から遠ざかっていたことを思い出し、さらに猥雑な用件が近辺にうずまいていることもあって、自分の立ち位置を確認するために、本棚をじっとにらんで、2人の作家の著書を選んだ。
今回は須賀敦子と坂口安吾。
安吾の「坂口安吾全集14」のなかにおさめられている「ピエロ伝道者」というエッセイから。
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すべて「一途」がほとばしるとき、人間は「歌う」ものである。
その人の容器に順って、悲しさを歌い、苦しさを歌い、悦びを歌い、笑いを歌い、無意味を歌う。
それが一番芸術に必要なのだ。
これ程素直な、これ程素朴な、これ程無邪気なものはない。
この時芸術は最も高尚なものになる。
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……一途、ほとばしっているか。
つきつけられたようだった。
日に日に緑濃くなる軽井沢。本を読んで泣いたのは久しぶりだった。