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◆朗読劇の試み『ミューズ』のあとで

 

 12月17日、朗読的の試み『ミューズ』を終えていま、まだぼんやりしている。何かを出し切った感もあり、何も出せなかった感もある。イベント後のあの感覚。

 周囲の人たちからの愛を感じてあたたかな気持ちになる。その隙間に、イベントをすることで血を流した傷跡がうずうずとうごめく。イベントなどしなければ流れなかった血だ。

 もう少ししたら、このメモリアルな一日のことを、きちんと書けるのだろうと思う。

 今日は、朗読劇を始める前の挨拶を、ここに記しておきます。

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 本日はようこそおいでくださいました。お元気ですか。 

「50歳の記念に1920年代のパリへゆく」という、ちょっと自分でもびっくりなタイトルの写真展は、本日の朗読劇のための会場づくりとして準備しました。

 あくまでも私のメインは、今日の朗読です。

 それをあらわすのが、キキの「アングルのヴァイオリン」へのオマージュである、あの、背中の写真です。

 アングルは古典主義の画家であって、画家なんですけれど、ヴァイオリンがプロ並みに上手で、でもあくまでもアングルにとっては余技、趣味でした。

 ということから「アングルのヴァイオリン=とても上手だけれど本職ではなく趣味」

 ですから、マン・レイはキキの背中をヴァイオリンにみたてた「アングルのヴァイオリン」で、ぼくは写真はたしかに上手だけれど、あくまでも趣味だ、ということを表したと考えられます。マン・レイ以前、写真は芸術として認められていなくて、マン・レイも画家を志していたからです。

 そこで私も、この写真展は余技、という意味で展示しました。

 もちろん50年という年輪の刻まれた背中を残したかったということもありますけれど。 

 さて、本日の朗読的「女神 ミューズ」ですが、この小説の原型は、私がはじめて、何かを書いた初めてのものです。「ミューズになりたい」というタイトルではじめて小説、というか創作としての文章を書いたのが26歳のとき。当時、一番近くにいた人が、その短い、日記のような作品を絶賛してくれたことが、すべてでした。

 文筆活動をはじめたのは29歳のとき、フラウで画家とミューズについての絵画の連載です。ここからがかなり長くて、はじめて本が出たのが36歳「彼女はなぜ愛され描かれたのか」。これが処女作となります。

 小説をたくさん書き、いろんなところに応募したり編集者さんに見せたりしましたが、形にならず、絶望の一歩手前、40歳で出版した軽井沢夫人もそれほど評判にならず、かなり落ち込んでいました。 

 ある日のこと、東京から軽井沢に帰る新幹線で、私は考えました。もし、あと数か月の命だとして、これだけはやって死にたいことってなんだろう。まよわず、「ミューズになりたい」を出すこと、と思えました。

 翌日からミューズの原稿にとりかかりました。はじめて書いてから十四年、ずいぶん冷静に作品をながめることができて、そして、その時点での私のミューズを書こうと思えたのです。つまり前半、主人公がパリにゆくところで小説は終わっていました。パリ以後のことはこのときに加えたものです。つまり、パリ以後の主人公に、私は、私の人生でありえたはずの、もう一つの形を描くことで、現人生を受け入れたかった。

 そして小説の献辞で「ミューズ」を彼に捧げたことで、私は彼の「ミューズ」としての役割を終えたのです。その人とは別の関係性を築いてゆこうという決意をそこにこめました。

 この小説は41歳のときに出版されました。

 それからまたおよそ10年が経った今日、私の原点であるミューズ、その原点をもう一度見つめ、そしてこうした朗読劇という形で表現することで、区切りをつけ、私は、さらに先に進みたいと思います。

 今日の朗読劇は、100人200人の前でやりたいイベントではありません。

 とても個人的な出来事だからです。

 そういう意味で、今日、この場に、私が来てほしいと思っている方、ほとんどに来ていただいていることが、ほんとうに嬉しいです。

 その日その時、同じ場にいる。

 ということは大きな意味があると私はずっと信じています。

 さて。小説を読んでいない方のために。

 小説「ミューズ」は、27歳の予備校の講師の主人公エリが写真家と出会って、そして美術の世界に足を踏み入れて、ミューズという存在を知り、けれど長くつきあっている恋人と別れることもなかなかできず、迷いながら、人生の選択をする。パリにゆき、写真家との生活のなかで、また、大きな選択をせまられる。そういう物語です。

 恋愛、ミューズ、といったことも大きなテーマとしてありますが、同時に、人生で彼女は何を選択してゆくのか、という選択の物語でもあります。人生は選択の連続です。

 ひとつお願いがあって。すばらしいヴァイオリンの演奏に拍手を送りたくなることまちがいなしですが、どうぞ拍手は最後までとっておいてください。

 それでは朗読劇「ミューズ」、どうぞ最後までごゆっくりお楽しみください。

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