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▽シェルブールの雨傘(「映画音楽と物語」より)

2017/02/20

  

 雨に濡れる石畳が真上から映し出され、感傷的なテーマ曲が甘く流れるなか、色とりどりの傘が、まるで花が咲き乱れるように流れゆく。

 色彩豊かなシーンから始まる1964年のフランス映画。ジャック・ドゥミ監督。ミシェル・ルグランが音楽を担当したミュージカル映画で、主演は当時二十歳のカトリーヌ・ドヌーヴ。

 フランス、港町シェルブールの傘屋の娘十六歳のジュヌヴィエーヴは自動車修理工場で働く青年ギイと大恋愛中。ところがギイに召集令状が届き、彼は兵役につくことになります。1957年、当時フランスはアルジェリア戦争の真っ最中。

 兵役は二年間、とはいえ、若い二人には永遠に思われ、生木が裂かれるような別れとなります。

 第一幕のクライマックスはこの別れのシーンで、テーマ曲にのって、悲痛な別れにもがき苦しむ恋人たちの姿が画面いっぱいに映し出されます。

 若ければ若いだけ、経験がなければないだけ、その別れが、全世界の絶望となる。実にシリアスな別れの場面です。

 ギイが戦地に赴いて連絡も思うようにできず、手紙も途絶えがちななか、ジュヌヴィエーヴは妊娠していることを知ります。出征前にふたりは結ばれていて、そのときに宿った命でした。

 ギイからの便りがついに途絶え、音信不通の日々が続くなか、彼女は裕福な宝石商からプロポーズされます。彼はお腹の子を一緒に育てて行こうと、すべてを包み込む愛情をみせ、悩みながらも彼女はプロポーズを受け入れる決心をします。

 そして、二年後にギイが負傷兵として帰還したとき、ジュヌヴィエーヴの姿はなく、傘屋も閉まっていました。ギイは荒れますが、やがてずっと自分を見守ってくれていた女性と結婚、シェルブールの町で小さなガソリンスタンドを経営します。

 ラストシーンはこのガソリンスタンド。クリスマスイヴの夜です。

 ギイは妻と男の子と家族三人で幸せそう。ツリーの飾りつけも終わり妻と子が買い物に出かけ、そこにまるで入れ違いのように一台の車が入ってきます。助手席に女の子を乗せたジュヌヴィエーヴです。彼女は結婚してからはじめてシェルブールに立ち寄ったのでした。

 偶然の再会からの数分間が情感たっぷりで、引き込まれます。

 ギイが助手席の女の子の名をたずね、ジュヌヴィエーヴは答えます。「フランソワーズよ、あなたに似ているわ」

 このシーンの直前に、ギイの男の子の名がフランソワ、と呼ばれていることに観る者はすでにぎくりとしていますが、ここで女の子の名がフランソワーズ、ということを知らされて、言いようのない感慨につつまれます。なぜなら、子どもができたら、男の子ならフランソワ、女の子ならフランソワーズにしようというのが二人の約束だったからです。

「そろそろ行ったほうがいい、家に着くのが遅くなるよ」というギイの言葉で立ち去ろうとするジュヌヴィエーヴが振り返って「幸せ?」と尋ね、ギイが「幸せだよ」と答え、雪が降りしきる中、ジュヌヴィエーヴが車に向かい、エンジンをかけガソリンスタンドを出てゆき、すぐにギイの妻と子どもがプレゼントを抱えて帰宅、三人家族は幸せそうに雪の中でじゃれあい、テーマ曲が波のようにいくどもいくども、おしよせる。胸がぐっと熱くなる、観る者を圧倒するラストシーンです。

 最愛の人と結ばれなくても人は生き続けることができる。「幸せ」とさえいえるそういう人生を、生きることができるということ。

 けれど、あのときの、長い人生からしてみたら一瞬のあの恋の激しい情熱の日々は、おそらく永遠に彼らの記憶から離れようとはしないのでしょう。

♪「シェルブールの雨傘のテーマ曲」をお聴きください。

★2016年12月21日「語りと歌のコンサート~映画音楽と物語」台本より。

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