記憶ではなく感覚、映画音楽と物語
2017/02/21
この日は着物をきて、ちょっとお洒落して出かけた。いそいそと向かった先は、銀座のジャズ・クラブ「銀座シグナス」。
目的は、シャンソン歌手の黒川泰子さんと作家の山口路子先生による語りと歌のコンサート。
このコラボレーションは昨年から続けているもので、エディット・ピアフ、マリア・カラスに続く今回のテーマは「映画音楽と物語」。
路子先生の朗読で映画のストーリーを頭に思い浮かべながら、黒川泰子さんが表情豊かに歌い上げる映画音楽に耳を傾ける、なんとも贅沢なひととき。
語りの内容も、路子先生ならでは。自分だったら見逃してしまうような男女のやり取りに着目していたり、何度も見たこともある映画なのに、「あれ、そんな会話あったかな?」と思わせる、ユニークな視点がたまらなく好き。
今回取り上げた映画音楽は全部で7つ。映画を見たことがなくても誰しもどこかで聞いたことのある「シェルブールの雨傘」から、「ニューシネマパラダイス」から、Theフランス映画的作品まで。路子先生が作詞をされたナンバーも!
そしてラストに「ホワイトクリスマス」が流れると、会場はほんわかとした空気に。
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いま、ワインを飲みながら、Youtubeであの夜聞いた映画音楽に酔っている。
人間の感覚は不思議だなあといつも感心するのだが、そのメロディが流れるだけで、その曲を聞いていた当時の感覚が鮮明によみがえる曲がある。そういう曲は、きまって個人的な思い出と結びついている。受験のときに、塾に通う時に毎日聴いていた曲(これは聞いただけで拒否反応が起こる、苦笑)、辛い時に慰められた曲……ストーリーが結びつくと、音楽は、記憶ではなく感覚に刻まれ、ますます忘れがたいものになる。
今回の映画音楽のコンサートは、まさに音楽をストーリーとともに楽しむという試み。歌単体でももちろん素晴らしいけれど、それだけでは到達できない世界、あらためて朗読の可能性と面白さを感じたコンサートだった。 そして名作、名曲はいつまでも色あせないものだなぁ……なんて結局ありきたりなことを思って、余韻に浸るのだった。