◎軽井沢夫人の講演録 ブログ「言葉美術館」 路子倶楽部

◎小説:軽井沢夫人の講演録「ドレサージュ」

2023/12/28

 路子倶楽部会員の方から、「エスコート」についての質問がありました。
 考えていましたら、その昔、そんなことを書いたことがあるような記憶がよみがえってきて、そうそう、出版が予定されていた『軽井沢夫人』の続編、『軽井沢夫人の講演録』で、そんなお題を扱ったのでした。

 どこに保存したかな、とデータを探して読み返してみました。

 2009年に書いたものということもあり、いまヒートアップしているフェミニズムとかジェンダー問題から照らし合わせると発禁処分間違いなしの内容でした。

 それでも、2009年、いまから12年前、私が42歳のときに書いたもの、ということでお読みいただければと思います。

 内容はちょっとエロティックなので、そんな気分じゃない方はお読みにならないように。

 そして、あくまでもジャンルとしては「小説」に分類されるものということ、つまり、フィクションということをお忘れなきよう、くれぐれもお願いします。

 1章分、まるまるですから長いです。お時間のあるときにどうぞ。

 それにしても、もちろんアルゼンチンタンゴのアの字も知らないころ。なんだか、このころから私、タンゴを踊っていたのではないかという気がしてきます。

 それではどうぞお楽しみください。

 

**********

ごきげんよう。軽井沢夫人でございます。

みなさま。ようこそおいでくださいました。

本日ご参加のみなさまの平均年齢は二十八歳、男女比は三:七なのだそうでございます。

みなさま、ぴちぴちでございますわね。はい。にっこりと頷いてくださって、嬉しいわ。

まあっ。わたくしもぴちぴち? あなたさまったら、なんて素敵な殿方なのかしら。
大好きよっ。ちゅっ(投げキッス

 

我慢できないおんなの、叫び

本日のテーマは「ドレサージュ」でございます。

まあっ。そんな微笑みを浮かべちゃって……、鞭とか貞操帯とか、サディズムとかマゾヒズム、そんなのを連想なさっておいでね。
ええ、そちらのあなたさまよ。ほほほ。

いいえ、それを連想なさるのは正しいから、ぜんぜん構わないけれど、本日のお話は、もうちょっと全体的なことになりますわよ。

この、とってもゴージャスな響きのフランス語、ドレサージュを直訳しますと、「調教」となりましょう。
調教、つまり対象者を目的に応じて訓練することでございます。
馬術関連のあれこれの意味やお菓子のデコレーションという意味もありますけれども、これらも除外させていただきますわね。

日本全国の老若男女を潤すべく、艶々の活動を続けております「軽井沢夫人の官能調査隊」。
ええ。みなさまのところにもお手紙、メール等で、ときどきアンケートのお願いがゆきますでしょう? いつも御協力ありがとうございます。わたくし、とっても嬉しくってよ。

それで、その官能調査隊の報告書によりますと、どうやらこのところ、現恋人なり現夫なりを「ドレサージュ」しようと試みている女性が急増しているようなのでございます。
けれど、なかなかうまくいかないものですから、
「ああっ、ドレサージュについて、知りたくて、はちきれそうっ」
と悶絶する女性も合わせて急増中なのは、これ、自然の摂理というもの。

さて、ドレサージュとは言っても、どのように、どんなふうに、が気になるところでございます。
報告書にはさまざまな御婦人方の御意見御要望がございますけれども、それらをわたくしなりにまとめましたら、次のようになりました。

「女をエスコートできる男にドレサージュしたい」

はい。というわけで、まずはこのあたりから入ってゆき、最後には「ドレサージュの真の姿」まで到達しようと、わたくし、志すっごく高く、ここにおりますのよ。

それではさっそく「女をエスコートできる男にドレサージュしたい」からまいりましょうね。

……まあっ、男性陣がちょっと……、しゅん、としちゃったような気がするけれど、気を確かにお持ちになってくださいませね。
……女性のみなさまは、はい、とってもお元気そうで、なによりでございます。
まずはこんなお話から……。

 

あるところに、とても端正な顔立ちの殿方がいました。
二十八歳、独身。トニー・レオンさまにちょっと似ているけれど、ずいぶん甘酸っぱい雰囲気なのでハニーレモンと呼ばれていました。

ハニーレモンには交際を始めて三ヶ月になるマーヤという名の恋人がいました。
彼女はハニーレモンとほぼ同年齢、スタイリッシュな女性でした。

あるとき、二人はとあるパーティーへ出かけました。
普段はスポーティーな服装が多いマーヤさんでしたが、その日は艶やかにドレスアップしていたので、ハニーレモンの若き血潮はたぎりまくり、たいへんな有様でした。
ハニーレモンはパーティーの間中ずっと、一刻も早く二人きりになりたい、と切望していました。
しかしそれは叶いませんでした。なぜならマーヤさんが怒って帰ってしまったからです。
最後にマーヤさんは言いました。

「普段から感じていたことだけど、今日は我慢できない。ダメダメダメ! 私がドレスアップしたときくらい、エスコートしたらどうなの? 立派なファリュスもってるからって、エスコートしないで許されるって法則はないのよ! 怠慢よ! 無知よ! 男失格よ! 今夜はすっごいランジェリをつけてたのに!」

 ハニーレモンはあっけにとられて、ただただマーヤさんを見つめるばかりでした。

 ……あ。だあれ? 「立派なファリュス」ってつぶやいたのは。

違うの違うの、そこに引っかかってはいけないわ。
そうよ、
「その人にとっての立派が他の人の立派になるかといえば、そうとは限らない」
だなんて、言い聞かせなくて大丈夫よ。

問題はそこではないの、「エスコート」、ここに注目してくださいませね。

さて、ここで、男性限定で質問でございます。

みなさまの中で、「エスコート完璧」と言い切れる方は、どのくらいおいでかしら?
はーい、って手を挙げてくださる?
あら。いらっしゃらない。
それでは、「まあまあ、平均くらいかな」という方は? 
ほとんどの方が手を挙げていらっしゃる。
「まったくだめ」という方は? こちらはゼロ。
とってもレベルの高い会場ね。わたくし、燃えちゃうわよ、覚悟はよろしくって?

「エスコート」について進める前にひとつ、確認事項がございます。

エスコートと同じように扱われがちな言葉、「レディファースト」、これは欧米の習慣ですけれども、ニューヨークあたりのキャリアウーマンには、これを嫌う方々もおいでのようでございまして、……きっと「対等に扱ってね」というお気持があるのでしょうね。
わたくしなんかは「対等に扱っちゃいやん」ですけれども……、ほんとうに、世の中は色々と難しいのでございます。

さて、そんなレディファーストでございますが、その起源は、とってもいけないかんじでございます。

時は中世のヨーロッパ。暗殺が横行していた時代のこと。
物陰に敵がいるかもしれない、毒入りの食事かもしれない……、そうだ、いいこと思いついた、まずは女性でそれを確かめよう! お先にどうぞ。
……これが始まりなのでございますから。

そんな起源だし、それに、言葉の響きや直訳的意味からしても、レディファーストって、わたくし好みではないものですから言葉として使用しないようにしておりますのよ。
その点、エスコートってよいでしょう? なんてったって、「護衛」ですもの。
淑女気分間違いなしだし、言葉の響きも、スマートで素敵。

というわけで、「エスコート」と「レディファースト」の勝負、「エスコート」の勝ち、ということにして、先に進みたく思います。

 

エスコート・マジック

わたくしはみなさまご存知のように「艶やかに人生をモンローウォーク」することに、ほとんど命をかけておりますが、そんなわたくしを支えてくださるのが、みなさまと、そしてフェロモンな殿方ならびに女友達でございます。

そのなかの一人に「フウ子さん」とおっしゃる方がおいででございまして、……まあ、あなたさま、ご存知? あなたさまも?  嬉しいわ……。

はい、それでフウ子さんでございますけれども、わたくしとほぼ同年齢、独身ライフを謳歌しすぎなほどに謳歌しておいでのエネルギッシュな方でございます。

そんな彼女の今年のテーマは「ファリュス一本主義から多本主義への回帰」。

ええ、フウ子さんは長い間ずっと、多くの殿方たちと熱き関係を築いていらしたけれど、ここ数年、一対一の恋愛に夢中で、けれどどうやらそんな季節も終わったようでございますわね。

……それでね、このフウ子さん、「エスコート」にすっごく厳しいことで巷では有名なのでございます。

「トイレ以外のドアはすべて開けること」から始まってエスカレーター、エレベーターの乗り方、といった基本的な事項の他にも、

1「デート中は絶対お金を払う場面を見せてはいけない。金銭のやりとりなどこの世に存在しないという幻想の世界へ女を連れてゆかなければいけない」

2「いかなる事情があろうとも女を走らせてはいけない。ヒールの場合は死刑」

3「女のバッグは男にとってのファリュスと考えるべし。けっして荷物ではなく、ゆえに女のバッグを持ってあげようなどと考えてはいけない」

4「おはようこんにちはこんばんは、の挨拶のかわりに、お美しい、今日も目が眩みそうだ、君のミネットは世界一、などの言葉を発すること」

等がございまして、これらすべてに合格しないと、フウ子さんの恋人にはなれないのでございます。

フウ子さんいわく
「たとえ、その人が有無を言わせないファリュスの持ち主であっても、例外は認めない。その人とはベッド限定のおつき合いはできるが恋人にはなれない」
のだそうでございます。

フウ子さんのエスコートに関するあれこれ、いかがかしら?

まあ。ほとんどの男性が首を横に、ほとんどの女性が首を縦に、ぶるんぶるんと動かしておいでね。

ほら、この一瞬の会場の反応でおわかりいただけるでございましょう。

「エスコート」について男女間には果てしない距離があるのでございます。

 

1のお金うんぬんにつきましては、激怒する方が多いかもしれませんわね。

「わりかん」という、言葉にしただけで、なにかしょんぼりとした心持ちになってしまう、そのような行為がお好きな方もおいででしょうけれど、わたくしは、フウ子さん派でございまして、デイト中の金銭のやりとりに萎えてしまう体質でございます。

ですからたとえ、デイトの前、あるいは後に、まとめて「今日のぶん」をお支払いしてもよいから、デイト中は、金銭のやりとりがない世界にいたいと願うのでございます。

2の走ることに関して、ときおり駅の階段などで、飾っておきたいくらいに美しい靴を履いている御婦人を走らせている殿方を目撃しますけれども、そしてわたくしは、ついついその後を観察してしまうのですけれども、そういう殿方は大抵、さっさと先に電車に乗ってしまっていますわね。

先に御婦人を乗せるということをしておりません。

その殿方がどんなに素敵な服を着ていようとも、素敵なルックスをしておいでであろうとも、その殿方は「愚鈍な男」以外の何者でもありません。

おしりぺち、しちゃいたいくらいですわ。

3のバッグね、これも時折目撃しますわね、御婦人のしゃれたバッグを隣の殿方が持って歩いている、という奇妙な光景を……。

フウ子さんは、バッグは殿方のファリュスに相当するほどに女性にとっては重要だからそれを「持つ」だなんて意味不明、と過激におっしゃっておいでですけれど、ファリュスとまでは言わないにしても、バッグはトータルファッションに欠かせないものでございます。

服との、そして靴とのコーディネイトを考えて、女はバッグを選ぶものでございます。

ですから、それを男性が持つというのは大きな間違いであり、けっしてしてはならない行為なのでございます。

「美」に対して敏感にならなければなりません。

「歩きタバコ」については顰蹙の視線が多用されるようになりましたが、次なるターゲットが「女性のバッグを持ってあげること」になるよう、みんなで念じましょうね。

4の挨拶、これもたいへん重要でございます。

フウ子さんは、ロスアンジェルスに数ヶ月滞在していたことがございまして、そのとき、犬の散歩をしていても街を歩いても、「今日も綺麗だね!」「僕と結婚しよう!」「その服、すごく似合っているよ!」などの言葉を日常的に浴びて、「美しくいたい」という欲望が突き上げてきたそうでございます。

日本の殿方はとってもシャイですから、ロスの状況を望むのは酷と言えましょうけれども、それでもやはり、もちろん相手が恋人でなくても、「こんにちは」の後に「今日も綺麗ですね」が欲しいのが女心。

単純なのは男性、と相場が決まっているようでございますが、女性も充分に単純なのでございまして、そのひとことがあっただけで、その日一日が「潤いのある一日」になったりしますのよ。

ですから男性のみなさま、ぜひ、実践なさってみてくださいませね。

みなさまの、その小さな、しかし勇気ある第一歩が、いつの日か、きっと大きなムーブメントとなり、日本全国津々浦々に「こんにちは、今日も綺麗ですね」が浸透することでございましょう。

 

それではここで、わたくしが「これこそ最高のエスコートなのだわ」と思うことについてお話しましょうね。

ある冬の午後のことでございます。

水道屋さんの殿方と、とある森の道で、ばったり出会ったのでございます。

お互いに車で、すれ違うときに気づいて、きゅっと急ブレーキ。

水道屋さんは
「うわあ! びっくりだ! 夫人さんに会いたいと思っていたんだ! 相談したいことがあるんだ!」
とおっしゃいました。

わたくしたちは、森の中でふたりきり。
車をちょっと寄せ合って、ウインドウを下げ、お話することにしました。

ほんわり、水道屋さんのお車から殿方臭が流れてまいりまして、わたくし、なんだかめまいが。

さて、水道屋さんは、奥様がこのところ、つれない態度をおとりになっていることに困惑しておいででした。

夜の誘いにも昼の誘いにも朝の誘いにものってくださらず、悶々な水道屋さんなのでございます。

わたくしはちょっと思案し、尋ねました。
「雪かきは、どうなさっておいでですの?」

水道屋さんは無邪気に答えました。
「一緒にやります、自分が仕事に出ちゃうときは、かみさんに頼みます」

 わたくしはばっちん、ウインク。
「わかったわ。原因は、それでございましょう」

 なにしろ雪かきときたら、すっごい重労働なだけでなく、エロティックからほど遠いコスチュームなので、女性を萎えさせる危険性があるのでございます。

そうよね、長靴をはいたダルマのようなかっこうで、おりゃあ、とスコップを振り回した後で、「あなた、うふん」な気分になれというのは、やはり無茶というものでございましょう。

ですから、大切な恋人、大切な妻を、優雅でエロティックで、スウィートな存在にしておきたいと願うなら、断じて雪かきをさせてはなりません。

「雪かきなんて重労働を君にさせるわけにはいかないよ」と、おでこにちゅっ、した後で「おりゃあっ」と荒々しく雪かきをしてごらんなさい。

「あなたって素敵、とっても頼りになるのね、まあ、こんなに寒いのに、汗かいちゃって、ふいてあげるわ……」と、つながるでございましょう。

 

わたくしが以上のことを申し上げますと「わっかりました!」と水道屋さんは輝く瞳で頷きました。

その数日後の午前中。久々の大雪となりました。

そしてその日の夕刻、電話が鳴りました。水道屋さんからでございました。水道屋さんはおっしゃいました。

「夫人さんの言った通りになりました! うひうひ」

めでたしめでたし、なのでございます。

 

というわけで、ドアを開けるとかエスカレータの上りのときは女性を先にとか、それらと比べものにならないくらいの力仕事、という意味において、「雪かきは最高のエスコート」となるのでございます。

寒冷地限定というのがはがゆく、惜しいところではございますけれど、なんたってわたくしは軽井沢夫人、寒冷地限定もなんのその、きっとみなさま許してくださることでございましょう。

雪かきにまつわるあれこれには、エスコートにおける本質がございますのよ。
「わたしは、彼に大切にされている」「わたしは、彼に庇護されている」、これを実感できることこそ、女性の幸せ、喜び、潤いのモトなのですもの。

ですから、ここにいらっしゃる男性のみなさま、今日からぜひ、女性を「大切にする」「庇護する」をテーマに日常を過ごしてみてくださいませね。

雪はそうどこでも降るものでもないし、季節限定でございますから雪かきは無理だとしても……そうね、日常の些細なことでよいのでございますから。

たとえばエスコートの基本の一つ、「道路を歩くときには必ず車道側を」でもよいのでございます。

ただし、これを一途に守りすぎて、女性の足もとがレンガだったり、あるいは排水溝があったりして、ヒールがはまりこんでしまう、なんてこともありますからご用心。

「あ。足もと気をつけて」と、すかさず位置を入れ替わったりしてくれたら、
「ちゃんとわたしの歩くところに注意してくれている、大切にされている! 庇護されている!」
となり、彼女はぷるぷるに潤うでございましょう。

そうよ、潤うの。

エスコートされてスウィートな気分になった女性は、とびきり潤って、んもう、最高! になるのでございますから、そういった意味でも殿方はみなさま、もっともっと、エスコートに精を出すべきでございます。

パーティーにしても雪かきにしても……、やはり、わたくしは次のように決定したく思います。

 

「エスコート、それは女の気分を薔薇色にし、女を潤わせるマジックなのでございますわよ。」by軽井沢夫人

 

そしてね、女性のみなさま方、ぷるぷるに潤ったなら、やはり、潤わせてくれた殿方に対して、潤った旨を、つまり感謝の気持を「伝える」ことが肝要でございます。

「そんなこと言わなくったってわかるさ」
これは男性の専売特許だと思われがちでございますが、そんなことはなくって、女性にも多く見られる現象でございます。

よいですか、みなさま。

「言わなかったらわからない」のでございますわよ。

 

それでは先に進みましょうね。エスコート・マジックをまったくわかっていない殿方が登場します。

 

ベッドでうっふん、エスコート

あるところに美しい御婦人がいました。

三十歳になったばかり。その名をエリーゼといいました。

彼女には交際を始めたばかりの恋人がいました。
ドイツのノイシュバンシュタイン城近くのご出身の素敵な殿方で、エリーゼは彼をノイシュバンと呼んでいました。
彼のデイト時におけるエスコートは充分満足のゆくものでした。

ある夜、美味しいフレンチをゆっくりと楽しみながら、ノイシュバンはホテルの部屋をリザーブしてあることをエリーゼに告げました。

食事を終えて彼らはレストランを出ました。
もちろんエリーゼの椅子を引き、エリーゼのコートをかけてあげて、さらに彼がいつ支払いをしたのかわからない、その手際の良さはまるで魔法のよう、……ノイシュバンのエスコートは完璧です。

部屋に入ってからのルームライトの調光もスマートでエリーゼはほっとしました。

エリーゼには、ホテルの部屋でパチパチとライトの調光にもたつく男性を見ると首を絞めてやりたくなる、というデンジャラスな習性があったのです。

ノイシュバンは桃の皮をむくようにエリーゼの服を脱がしました。

彼は美しいフォルムのファリュスのもちぬしでした。

甘美な愛撫が数分、ありました。

そして、美しいフォルムのが……、と思った瞬間、小さな痙攣と小さなうめき声があり、彼はエリーゼに体重をあずけました。

そして「ゴメンネ」と言いました。

「桃の皮をむくように」から「ゴメンネ」まで、およそ四分。

エリーゼは「いいの」と言いました。

すると彼はにっこりと笑って「シャワー浴びてくるね」と言い、ベッドを出てゆきました。

エリーゼのミネットは熱く脈打っていましたが、エリーゼは必死に自分に言い聞かせました。

「彼ったら、よっぽど私が欲しかったのよ。だからここは嬉しがる場面なのよ」

その日からエリーゼは三度ほど、ノイシュバンと肌を合わせました。

結果、すべて同じ様子でした。
エリーゼは迷うことなく彼と別れました。

彼は「別れたくない」と泣いてエリーゼを引き止めました。ノイシュバンにはエリーゼが別れを決意した理由がまったくわからないのでした。

さあ。
ここでみなさまに質問でございます。
エリーゼが別れを決意した最大の理由は何でしょう?

……。まあ。男性のみなさま、なぜ、がっくりと首を落としておいでなのかしら。さあさ、気を取り直してくださいませね、ファイトっ。ほほほ、そうよ、その調子。

女性のみなさまは、訳知り顔で頷いておいでの方がほとんどでございますわね。
まあ、お隣の方と共犯の微笑を交わしたりしちゃって、いけないわねっ。

エリーゼの別れの理由、それは「スピード」ではございません。
……いいえ、それがないとは申しませんけれども、このあたりはとってもデリケートな問題で、いじわるな女性の言葉に傷ついている男性がたくさんおいでなのですから、慎重に扱いましょうね。

そうよ、所変わればずいぶん評価も異なるようですし。
……あの、アフリカのある地域などでは「早さは強さ」とされているようなのでございますわよ……。

そんなこんなで、「スピーディーなファリュスがまずここにある」という前提でお話を進めてまいります。

 

エリーゼご自身は別れの理由について、次のようにおっしゃいます。

「スピードについては何も言わないわ。けれど、だったら、すべきことがあると思うのよ。デイトのときは完璧なエスコートをしたけれど、肝心のエスコートができていないのよ」

なんと、理由は「エスコート」でございました。

たしかに、エリーゼがおっしゃるように、ノイシュバンは、ぜんぜんまったく、百二十%、エスコートをわかっていなかったようでございますわね。

ぜんぜんまったく、「女の気分を薔薇色にし、女を潤わせる」をしていないのでございますから。

ならば、どのようにすればよかったのでございましょうか。

そうですとも、前後を充実させるのでございます。
まず、フォアプレイ。これにたっぷりと、ええ、そうですとも、女性が本気で「もう充分です」と言うくらいまでなさってくださいませね。
性愛の行為のなかで、女にとってもっとも甘美なのがこのフォアプレイでございますから、ここをたっぷりと充実させたなら、多少のことには目をつぶれるものでございますから、殿方には熱心になさっていただきたいところでございます。

次に、アフタープレイでございますが、これについてはちょっと注意が必要でございましょう。
と申しますのも、「とにかくフォアとアフターを充実させること」、これが殿方たちの間で常識となっているようでございまして、これについて、わたくしは異議があるのでございます。

わたくしの友人知人たちからの情報、ならびに「軽井沢夫人の官能調査隊」の報告によりますと、女性というものには二タイプございまして、殿方が極まった後に色々と施されるのを嫌うタイプと嫌わないタイプがあるのでございます。

嫌わないタイプが相手の場合は問題ないのですけれど、嫌うタイプが相手のときは、アフターではなくフォアに全力投球しなければなりません。

……ほんとうに、アフター嫌いの女性はけっして少なくないのでございますのよ。

彼女たちは殿方の欲望をかきたてることに悦びを感じるのでございます。

ですから殿方が極まっ後、ほんとうならぐーっと寝たい、あるいはぷかーっと煙草を吸いたい状態なのだろうな、と思いながら、あれこれ自分の身体をいじられても、バツなのでございます。

殿方の欲望がもやは落ち着いてしまっているわけでございますから……なにをされても、もはや快楽に結びつかないのでございますわね。

白けてしまう程度ならまだしも「むしろ苛立つ」といった方もおいでのようでございますからご用心。

まあ。そちらのあなたさま。ええ、甘い眼差しをなさっている殿方……今、「初耳だ! アフター嫌いをどのように見極めたらいいんだ!」とお思いになったでございましょう? 

ほほほ。このお話はまたいつの日か、その種のテーマのときにお話しましょうね。
まあっ。そんな心細そうなお顔をなさらないでくださいな。わたくし、抱きしめたくなっちゃうわ。ばっちん(ウィンク)。

そうね、不安でしたら、とにかくフォアプレイに集中なさっていてくださいな。そうすれば間違いございませんから。

さてさて。話を戻しましょうね。

ノイシュバンでございます。

ノイシュバンはフォアプレイもほとんどなしで、さらにご自身が極った後、すべてを終わりにしてしまいましたから、ベッドの上でのエスコートの点数は零点、ということになりましょう。

そして、ノイシュバンのがそのような状態で三十年以上生きてきたということは何を意味するか。

ここが肝要でございまして、それは彼と出逢った御婦人方が、誰一人として彼を「ドレサージュ」して差し上げなかったことを意味するのでございます。

ドレサージュ。

このノイシュバンにしても、それからハニーレモンにしても、いったいどのようにすればよいのでございましょうか。

というわけで、ここで「ドレサージュの達人」にご登場いただきます。

 

<あなたが傑作をものにしたら、そのとき結婚しましょう>

むかしむかし。世紀末のウィーンに、アルマ・マーラーというお名前の、泣く子も黙る稀代の妖婦がいました。その時代のあらゆる芸術家に強烈なインスピレーションを与えて、彼らを一流にしたことで有名な御婦人でございます。その名が語る通り、音楽家のグスタフ・マーラー夫人でもあります。

さて、このアルマさまをクレイジーなまでに熱愛した天才殿方の一人に、画家のオスカー・ココシュカさまがおいででございます。ココシュカさまは、なかなか思い通りにならないアルマさまに焦れて結婚を迫りました。「君は一刻も早く僕の妻になるべきだ。さもないと僕の偉大な才能は哀れにも消えてしまう!」

アルマさまは、ココシュカさまを見つめておっしゃいました。

「あなたが傑作をものにしたら、そのとき結婚しましょう」

この、アルマさまの殺し文句がココシュカさまに、畢生の大作を描かせました。
『風の花嫁』。絵の具が不均等に厚く塗られているため門外不出、スイスのバーゼル美術館に行かなくては観ることがかなわない、んもう、すっごい名画なのでございます。

いかがでございましょうか? わたくしは、このアルマさまの殺し文句に、ドレサージュの極意を見るのでございます。

 

はい。それではアルマさまに学ぶドレサージュの「極意その1」、まいりましょう。

まずは「ふてぶてしいほどの自信をもつ」のでございます。

とにかく、なにがなんでも、強引に、「彼ったら私に夢中なの」という自信をもつのでございます。

「ほんとに、困っちゃうわ」と本気で困ることができるまでに、周囲からは「頭おかしいんじゃない?」と言われるくらいに、徹底的に、思いこむのでございます。

すると、その強烈なエナジーが、相手の殿方をじわじわととらえ、やがて殿方は、「俺、夢中かも……」「きっと夢中だ」「好きだ、好きでたまらない、夢中だー」と熱愛モードになりましょう。

ここまで無事に進んだところで、「極意その2」にまいります。

熱愛モードの殿方に、「ふてぶてしいほどに堂々と交換条件を出す」のでございます。

「自分が欲しいもの」をはっきり伝え、それと交換にこちらが用意しているものについて教えます。

「恋愛に交換条件とかって、不潔っ」なんて言っている場合ではありません。

確かにわたくしも「不潔っ、いやん」と思いますけれども、今はなんとしてもドレサージュを成功させるという目的がございますから、目をつぶります。

さて、この交換条件でございますが、「こちらが用意しているもの」と「相手がすっごく望んでいるもの」が一致していることが肝要でございます。

ここ、ずれていたら「いらない」と言われておしまいでございますから、ご用心。

 

それでは、以上のことを、「女をエスコートできる男にドレサージュしたい」に活かしてみましょうね。

たとえばマーヤさんからハニーレモンへ。

「あなたがパーティーのときのエスコートをものにしたら、そのとき、すっごいプレイをしましょう」

たとえば水道屋さんの奥様から水道屋さんへ。

「あなたが雪かきをすべて担当してくれたら、そのとき、朝昼晩にうっふん、しましょう」

たとえばエリーゼからノイシュバンへ。

「あなたがベッドでのエスコートをものにしたら、そのとき、別れることをやめましょう」

 

あとは、どんなのがあるかしら。そうね、みなさまはどんなセリフをお考えかしら?

女性だけでなく、男性のみなさまもお考えになってくださいませね。
「こんなふうに言われたら、なんでもしちゃうよなあ……」というセリフ、はい、お考えになって。

……あ……感じるわ……みなさまが頭の中に描いたセリフを……ほら、わたくし、今、上手にキャッチ。ほほほ。

「今日のデイトのとき、車道側を必ず歩いてくれたら、そのとき、夜、いままで恥ずかしくてできなかった……、あれ、しましょう」

「性愛のとき、ちゃんと手を洗って、清潔な手のまま私を愛撫してくれたら、そのとき、初めてのあれ、しましょう」

「飲み会のとき、私のそばにずっといてくれたら、そのとき、あれを使ったあれをしましょう」

まあっ。みなさまったら「あれ」ばっかり。なんてミステリアスなのかしら。すてき。

それにしましてもアルマさまは、ココシュカさまだけではなくて、建築家、音楽家、詩人、さまざまな天才殿方たちをドレサージュなさっておいでで、ほとんどその道のプロといえましょう。

そのほかにも、ドレサージュがお上手な方はたくさんおいでですわよ。

思いつくままにあげてみますと……たとえばエディット・ピアフさま。ピアフさまが見出した新人歌手、つまり彼女の恋人たちのリストによって第二次世界大戦後のシャンソンの歴史が書けるほどでございます。

男装の麗人ジョルジュ・サンドさまも、ミュッセさまやリストさまショパンさまをドレサージュなさっておいでですわね。……それから……わたくしが、ときどき悶絶しながら「あなたはわたくし、わたくしはあなた」と叫びたくなる、アナイス・ニンさまもそうね。
ヘンリー・ミラーさまをはじめとする作家の殿方たち、高名な精神分析医たち、その他あらゆるジャンルの殿方たちをドレサージュなさいましたものね。

 

男女の薔薇色の未来のために

先日、お会いした年上の殿方がおっしゃっていました。

「三十代あたりの男女を見ると、圧倒的に女が強いね。経済的にも自立し、自分磨きに精を出し、ほとんとパーフェクトだよ。となると、自分に見合う男性を見つけるのは困難だろうな。大体、男は男で、アクのないのばかりで、全体的に受け身なんだよな。肉食タイプはほとんど残っていないそうじゃないか。以前から夫人が主張していたドレサージュが今こそ、必要とされているのだろうな。情けないことだが」

彼は少し悲観的におっしゃっておいでで、その様子がとってもセクシーで、わたくし思わず彼の二の腕に頬寄せたくなりましたけれども……、悲しむことはございませんわよね。ドレサージュは愛に満ちた行為ですもの。

そうそう、これは男性のみなさまにお伝えしておかないといけないのですけれど、ドレサージュの行為のあれこれの根底には「愛情確認」願望がございますこと、どうぞお忘れになりませぬよう……。

わたくし、今、とても肝心なことをお話しているような気がするわ……みなさま、エナジーを、わたくしに集中してくださいませね。ああ、そうよ、感じるわ、みなさまからの熱いエナジー……。続けますわね……。

ドレサージュの根底にある愛情確認願望。

これ、ちょっと幼稚っぽいかもしれないけれど、「わたしのこと好きだったら、このくらいのことできるでしょ」といった甘い願望でございます。

そして愛情確認は、「愛をもたない女性たち」あるいは「もともと愛情の薄い女性たち」には縁のない行為……。

これらを考え合わせますと、次のことが導き出されましょう。

「軽井沢夫人官能調査隊」の報告書で判明した、ただいま急増中と見られる「ドレサージュしたい女性たち」は、「愛をたくさんもった女性たち」と同義となり、自然、「愛すべき女性たち」とも同義となるのでございます。

もう一回言わせてね。

「ドレサージュしたい女性たち」イコール「愛をたくさんもった女性たち」イコール「愛すべき女性たち」でございますわよ。

みなさま、この種の女性が急増しているということが、何を意味するのか、もうおわかりですわね。

そうよ。喜ばしいことに、そこには、「男女のあれこれにおける薔薇色の、輝かしい、スウィートな、ロマンティックな……ようするに、とってもエロティックな未来」があるのでございます。

ですから、ぜったい、

「ドレサージュを拒む男に未来はないのでございますわよ。」by軽井沢夫人

 

みなさま、ノルウェーが誇る画家、ムンクさまをご存知? 一番有名な絵は『叫び』かしら。

そうよ、両の掌を両の耳におしあてている人が描かれているあの絵ね、ムンクさまは、……ドレサージュされるのを拒んだことのない殿方でしたわ。

なんたって初恋のお相手からいきなり、ドレサージュされております。
お相手は年上の人妻でございまして、徹底的にムンクさまに色恋の激しさを教えこんだのでございます。彼女をモデルにした絵のタイトルが『吸血鬼』でございますから。

それから、芸術家グループのマドンナ的存在の御婦人に夢中になって、けれども彼女は自由奔放に恋愛を楽しんでいたものですから、ムンクさまは彼女をモデルに『嫉妬』を描いておいでです。
こちらをじっと見つめる、嫉妬に狂ったムンクさまの自画像に身がすくむような絵でございます。
また、同棲相手の御婦人からピストル片手に結婚を迫られたこともありました。もみあううちにピストルが暴発し、ムンクさまの左手中指を吹き飛ばしたのでございます。

どれもこれも、激しくどろどろの関係でございました。それはおそらくムンクさまに流れていた血が、それを求めていたからでございましょう。

画家にとって最も重要な創作のエナジー、ムンクさまにとってのそれは、「恋愛における激しい情念の炎」だったのでございます。

だからムンクさまはその先に苦しみがあると知りながら、いいえ、知っていたからこそ、魔性の御婦人に近づいてゆき、そして叫び声をあげ、のたうちまわりながら絵筆を握った……。だって、それがムンクさまの命の源だったのですもの……。

これって「女王様、ドレサージュしてください」って、身を差し出している状態でございましょう。

そして、魔性の御婦人方はとってもお上手に、つまりムンクさまが望むように、ムンクさまをドレサージュなさったのでございますわね。

「相手が望むようにドレサージュ」だなんて、プロの女王様にだって、難しいのに……。

 

ドレサージュの真の姿

エスコート限定のドレサージュあれこれからお話を発展させ、ムンクさままで登場させて、わたくしが懸命に「ドレサージュを拒んじゃだめよ」とお伝えしていることにお気づきでございましょうか。

わたくしがなぜこれほどまで……ええ、ほら、こんなに熱くなって頬染めて、そこまでしてなぜ、それをお伝えしたいのかといえば、やはり、ドレサージュは恋愛そのものに深く関わってくることだからでございます。

みなさま、恋愛の魅力について、どのような見解をお持ちかしら?

ほほほ、そうよ、もちろん一つだけではございませんことよ。たくさんあるからやめられないのよね、うっふん。

そのたくさんのうちのひとつに、「変わってゆくことの悦び」が、たしかにございましょう。

誰かと深く関わることによって、「わあっ、わたしったらこんな面があったの!」とか「うわあっ。世の中にはこんなに胸ときめくことがあったのか! 」といったふうに、未知の自分を発見したり未知の世界を見たりして、少しずつ変わってゆく、その悦び……、これが恋愛の魅力のひとつでございましょう。

ね。ですから変わることを怖れていては恋愛はできないし、つまり、未知の自分自身を発見できないし、未知の世界を見ることができないから、すっごくつまらないのでございます。

はい、今、何人かの方が大きく頷いてくださいましたけれども、よく「恋愛で成長する」なんて言い方をしますけれども、これも「変わってゆく」ことと同義でございましょう。

わたくしは「恋愛で成長する」という表現は、なんだかエロティックでないから好きではないけれど、いわゆる「成長」できる恋愛をしている男女は、互いにドレサージュし合っているのでございます。

自分が相手によって「変わってゆくこと」を受け入れ、悦んでいるのでございます。

自分が相手をドレサージュすることによって、実は自分も変わってゆくことを、悦んでいるのでございます。

ようするに男と女の間には常にドレサージュがあるのでございます。

それがない関係があるとしたなら、それは恋愛ではないのでございます。

ほんとうよ、わたくし、言い切っちゃうわよ。

ほら、クルミの入っていないパンを「クルミパン」と言ったらそれは嘘でございましょう? それとおんなじなのよ。

みなさま……ドレサージュの真の姿が見えてまいりましたわね。

恋愛におけるドレサージュは、クルミパンにおけるクルミの重要度に匹敵するほどに、ほんとうに、大切なことなのでございます。ええ、わたくしクルミパンがないと生きてゆけない体質だから、どうしてもたとえがこれになってしまうけれど、

「ドレサージュのない恋愛は、クルミの入っていないクルミパンなのでございますわよ。」by軽井沢夫人

 

とはいえ、「俺には俺のスタイルがあるぜっ」なんておっしゃる、とっても頑固な殿方や、「あたしはあたし、このままのあたしを愛して欲しいわっ」という強情な御婦人もおいでよね。

それはそれで魅力的な方々ではございますが、やはり、ぜんぶがぜんぶ頑固だったり強情だったりすると、人生の悦びを取り逃がす恐れがございますから、そうね、こんなのはいかが?

「ぼくの生活信条として、なんでもないことは流行に従う。重大なことは道徳に従う。芸術のことは自分に従う」。
はい、小津安二郎さまでございます。

ね。これを参考になさって、ひとつだけ「自分に従う」ことを決めておいてそこは譲らず、あとは「好きなひとに従う」としちゃって、相手のドレサージュに委ねてみたらいかがかしら。
きっとめくるめく世界が、そこにあってよ。

それから……ああ、そうだわ。ドレサージュにおける注意事項をお話しておきましょうね。

ドレサージュは柔軟体操とおんなじ。突然に体は柔らかくなりませんから、えいやあ、と曲げようとしたり、足を広げようとしたりしたら、身体が壊れちゃいますでしょう?
ドレサージュもおんなじでございますから、毎日少しずつ、焦らず、けれど弛まず、いたしましょうね。優しくね、草花を育てるようにね……。

そして、人間は感情の生きものでございますから、すべて思い通りにゆくわけがなく、これ、当たり前のことですけれど、ドレサージュに夢中だと忘れてしまいがちなので、そうね、携帯の待ち受け画面などを利用して、「人間は感情の生きもの」という基本事項を毎日、確認できるようにしておくのもよいかもしれませんわね。

まあっ。わたくしの待ち受け画面を知りたい、ですって? ほほほ。ご覧になったら、あなたさま、きっと、くらくらになっちゃうわよ。ばっちん。(ウィンク

まあっ。

いつの間にか時も経ち、そろそろお別れのお時間のようでございます。
あとはみなさまの官能力に、すべてを委ねるといたしましょうね。

みなさま、頬が紅潮していてよ。それに会場の、このエナジー……、薔薇色で、なんともあたたかで……それでいてエロティックで……わたくし、みなさまのこと大好きよ。

男性のみなさま。あたたかな微笑を、メルシー・ボクー。
愛すべき女性たちのこと、頼みましたわよ、よろしくね。ばっちん(ウィンク)。

女性のみなさま、ますます、愛あふれる人生をお送りくださいませね。
そうよ、それはご自身のためだけではなくってよ。そのエナジーは、きっと、他の方々にも伝染しますから、そんじょそこらのウイルスなんかより、強烈なのでございますから、薔薇色のエロティックな未来のために、ドレサージュ人生をモンローウォークしてくださいませね。

それではみなさま、ごきげんよう。またお会いしましょうね。ちゅ。(投げキッス

 

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おまけ■本日の軽井沢夫人の推薦図書■

今宵は谷崎潤一郎さまの『痴人の愛』の世界へ……。

こちら、ナオミという名の御婦人が、とっても上手に、ジョージという名の殿方をドレサージュなさっておいででございます。さまざまなテクニックが披露されていて、参考になりますわよ。

一例をあげましょう。「友達の接吻」。

これ、唇を合わせないキスでございまして、ぽかんと開けたジョージの口のなかにナオミが息を吹き込むというものでございます。

ジョージは目をつむってそれをおいしそうに深く吸い込みます。
ナオミの息は「人間の肺から出たとは思えない、甘い花のような薫り」がします。

他にもたくさんためになることが書いてありますので、未読の方はぜひお読みになってくださいな。

『痴人の愛』は、「社会化されたマゾヒズムを描ききった」文学作品として評価されているのでございますが、わたくしは、「ドレサージュしあう男女を描ききった」文学作品として評価しておりますのよ。

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以上は 2009年×月×日 某所において開催されました「軽井沢夫人の官能の講演録『ドレサージュ』」を収録したものです。

次回の講演テーマは「フェロモン」を予定しております。こちらは女性限定とさせていただきます。なお「ドレスコード」がありますのでご注意ください。

ドレスコード:胸元が広く、あるいは深く、開いた服装。ガータベルト着用ならばなお可。

お申し込み・問い合わせ:軽井沢夫人マネージメント担当、山口路子まで。

*全てフィクションです。

-◎軽井沢夫人の講演録, ブログ「言葉美術館」, 路子倶楽部