◎小説:軽井沢夫人の講演録「ドレサージュ」
路子倶楽部会員の方から、「エスコート」についての質問がありました。
考えていましたら、その昔、そんなことを書いたことがあるような記憶がよみがえってきて、そうそう、出版が予定されていた『軽井沢夫人』の続編、『軽井沢夫人の講演録』で、そんなお題を扱ったのでした。
どこに保存したかな、とデータを探して読み返してみました。
2009年に書いたものということもあり、いまヒートアップしているフェミニズムとかジェンダー問題から照らし合わせると発禁処分間違いなしの内容でした。
それでも、2009年、いまから12年前、私が42歳のときに書いたもの、ということでお読みいただければと思います。
内容はちょっとエロティックなので、そんな気分じゃない方はお読みにならないように。
そして、あくまでもジャンルとしては「小説」に分類されるものということ、つまり、フィクションということをお忘れなきよう、くれぐれもお願いします。
1章分、まるまるですから長いです。お時間のあるときにどうぞ。
それにしても、もちろんアルゼンチンタンゴのアの字も知らないころ。なんだか、このころから私、タンゴを踊っていたのではないかという気がしてきます。
それではどうぞお楽しみください。
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ごきげんよう。軽井沢夫人でございます。
みなさま。ようこそおいでくださいました。
本日ご参加のみなさまの平均年齢は二十八歳、男女比は三:七なのだそうでございます。
みなさま、ぴちぴちでございますわね。はい。にっこりと頷いてくださって、嬉しいわ。
まあっ。わたくしもぴちぴち? あなたさまったら、なんて素敵な殿方なのかしら。
大好きよっ。ちゅっ(投げキッス)
◆我慢できないおんなの、叫び
本日のテーマは「ドレサージュ」でございます。
まあっ。そんな微笑みを浮かべちゃって……、鞭とか貞操帯とか、サディズムとかマゾヒズム、そんなのを連想なさっておいでね。
ええ、そちらのあなたさまよ。ほほほ。
いいえ、それを連想なさるのは正しいから、ぜんぜん構わないけれど、本日のお話は、もうちょっと全体的なことになりますわよ。
この、とってもゴージャスな響きのフランス語、ドレサージュを直訳しますと、「調教」となりましょう。
調教、つまり対象者を目的に応じて訓練することでございます。
馬術関連のあれこれの意味やお菓子のデコレーションという意味もありますけれども、これらも除外させていただきますわね。
日本全国の老若男女を潤すべく、艶々の活動を続けております「軽井沢夫人の官能調査隊」。
ええ。みなさまのところにもお手紙、メール等で、ときどきアンケートのお願いがゆきますでしょう? いつも御協力ありがとうございます。わたくし、とっても嬉しくってよ。
それで、その官能調査隊の報告書によりますと、どうやらこのところ、現恋人なり現夫なりを「ドレサージュ」しようと試みている女性が急増しているようなのでございます。
けれど、なかなかうまくいかないものですから、
「ああっ、ドレサージュについて、知りたくて、はちきれそうっ」
と悶絶する女性も合わせて急増中なのは、これ、自然の摂理というもの。
さて、ドレサージュとは言っても、どのように、どんなふうに、が気になるところでございます。
報告書にはさまざまな御婦人方の御意見御要望がございますけれども、それらをわたくしなりにまとめましたら、次のようになりました。
「女をエスコートできる男にドレサージュしたい」
はい。というわけで、まずはこのあたりから入ってゆき、最後には「ドレサージュの真の姿」まで到達しようと、わたくし、志すっごく高く、ここにおりますのよ。
それではさっそく「女をエスコートできる男にドレサージュしたい」からまいりましょうね。
……まあっ、男性陣がちょっと……、しゅん、としちゃったような気がするけれど、気を確かにお持ちになってくださいませね。
……女性のみなさまは、はい、とってもお元気そうで、なによりでございます。
まずはこんなお話から……。