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■美しいひとをあらわす三つの言葉

2023/09/10

 

 

 特集「美しい女(ひと)、その理由」に惹かれて「フィガロジャポン」(2021年7月号)を読んだ。いま仕上げに入っている本のテーマが「美」だから、お勉強になることあるかな、と。

 さいきんは、すれてしまったのか、「これは」と思う記事に出合うことが少ないのだけど、とても面白い記事があって、嬉しくなった。

 フランス版マダムフィガロ誌のジャーナリスト、リシャール・ジャノリオへのインタビュー記事。彼は1968年生まれだから、私のふたつ年下。ほぼ同年代。数々の有名女優たち、つまり「美しい女性」たちとの交流があるということで「美しい女(ひと)の生き方」を聞こうという趣旨。

 私が考えさせられたのは「美しい女を形容する、極めてフランス的な言葉」。

 彼は美しい女(ひと)を語るときに使われる三つのフランス語を、「どれも非常にフランス的な概念」と言う。

 三つとは、

「アリュール Allure」

「エレガンス Elegance」

「シック Chic」

 辞書的な意味でいえば、

アリュール=(人が)気品がある、威厳がある、(物が)秀でている、非凡である

エレガンス=優雅、上品、洗練、心遣い、手際のよさ、スマートさ

シック=(人、行為が)あか抜けした、粋な、上品な、しゃれた、かんじのいい

 となるのだという。

 それで、これらの違いについての説明が、私はとても面白かった。

 アリュールは、もっとも特別な言葉。

「彼女は全然アリュールがない」と言われたら救いようがありません。説明は難しいですが、すっと立っている姿勢、シルエット、動作のすべてに関わる、いわばその人の在り方。

 その人が部屋に入ってくると、皆がハッとして、その人のことしか見えなくなる。それがアリュールのある人です。

 アリュールは学ことができない。アリュールはあるか、ないか。それだけです。

 

 私は、「アリュールはあるか、ないか。それだけです。」という表現が気に入ったのだった。

 学ぶことができない。どんなにアリュールのある人になりたい、って思ってもだめ。「あるか、ないか、それだけ」って言い切っちゃうところが好み。

 心がけ、意識しだいでなんとかなる、みたいな嘘くささがないところがいい。

 そりゃあそうよ。

 彼は、まっさきに思い浮かぶ美しいひととしてカトリーヌ・ドヌーヴをあげているけれど、ドヌーヴみたいなアリュールのある人になりたい、って私がどんなに努力したってなれるわけない。ただ、憧れるだけ。世の中には「ある」人がいて、「ない」人が「ある」人に憧れる、それだけなんだと思う。

 でも、かんぜんにそれだけ、っていうのもあまりにも悲しすぎるから、すくいが用意されている。

「エレガンス」。

 しかーし、これも学べないみたい。

 エレガンスも学ぶことができないもののひとつ。服の着こなし、ヘアやメイクもそうですが、同時に、人との接し方や価値観も関わってくる。アリュールやエレガンスの概念にはエスプリや言葉遣いも含まれます。

 だって。

 でも、「シック」がまだ残ってる。

 シックか否かーー。これも難しい問題で、服装、ジュエリー、メイク、アパルトマンのインテリア、色使い、立ち居振る舞いにも及びます。(略)

 歴史の長いメゾン同様、フランス人には美の歴史がある。美に慣れていれば、シックになれる確率は高くなるわけです。

 シックはなんとかなるらしい。

 ところで。私はいま書いている本で、「シック」をあつかっている。年齢を重ねてどんなファッションをしようかと考えたときに「シック」をひとつのテーマにしようと思ったから。これから推敲するから変わるかもしれないけど、こんなかんじ。

 ……イメージとしてのキーワードだけはあって、それは「シック」です。

 フランス語の「Chic」。この言葉は、ふつう「上品で洗練されているようす」に使われます。日本語でもっとも近いのは「粋」でしょうか。

 シックをシンプルという意味で使う人もいますが、シックとシンプルは異なります。

 フランス語のシックの語源は「熟練、技術」。私は「熟練」に注目して、「シック」=「経験を積んで会得した自分だけの粋なスタイル」としました。こうすると、シックなファッション、シックなスタイルは若い年齢では難しいわけで、これ、大人の特権めいていて嬉しくなります。

 

 ちょうどタンゴのお友だちに「アリュール」「エレガンス」「シック」の話をしたものだから、これらをタンゴにからめて、あれこれと言い合った。

 アリュールのある人に出会ったことある? エレガンスは? シックは? 

 自分たちのことを棚にあげての会話。品がないです。三つの言葉からどんどん遠くなる。でも楽しい。イケナイ性格。

 そもそも、タンゴって、ファッションからしてかなりデンジャラスだから麻痺しないようにしないと。

「過剰は醜い」。これはシャネルの言葉。肌の露出と多彩な服を徹底的に嫌っていたシャネルに叱られないようにしないと。

 とはいえ、ファッションよりも私の頭から離れなくて、ずっと考えているのは、「あるかないか」の「アリュール」とタンゴのこと。難しくて頭が痛くなりそうだけど、もうすこし考えてみようと思う。 

*写真は我が家に飾ってあるお気に入り。お友だちの写真家、美代子さんの作品。美しい。

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