◆あの人との絶望的な距離
2016/06/21
エディット・ピアフと別れたムスタキは悲しみから立ち直れないでいた。ミッシェル・シモンはそんなムスタキに言った。
「悲しむ必要などないよ。そんなこと、ありふれた話じゃないか。
カップルなんて、いつもどちらかが絶望しているかと思えば、もう一人の方はうんざりしているものだよ」
「ムスタキ自伝」を読んでいて、このくだりを見つけて、数日そのままにしておいたけれど、なぜか頭から離れない。
同じ恋愛を共有する二人の絶望的な距離というものを、そういうことを考えていなかった日々に突然突きつけられて、涙がどっとあふれる、そういう感覚を抱いた。
どちらかが絶望していて、どちらかがうんざりしている。
この、うんざりというのが、悲しい。
どちらかが絶望しているけれどどちらかは希望をいだいている、のではない。うんざりしているのだ。
こういう距離感は、恋愛にかぎらず、さまざまな人間関係で、そのへんに転がっている。
なるべく傷つかずにいるためには、「相手は私と同じようには考えていない、感じていない」という真実を忘れないでいること。
忘れ物をしないように手のひらにマジックで書くみたいに、書いておかないといけないくらいに、大切なこと。