◆青鬼の褌を洗う女
2016/06/21
「私は然し浮気は退屈千万なものだということを知っていた。
然し、退屈というものが、相当に魅力あるものであり、人生はたかだかそれぐらいのものだとも思っていた」
電車のなかで読みふけった「青鬼の褌を洗う女」。大好きな坂口安吾。
『白痴』のなかに収められている中編。
ヒロインのセリフがこの小説全体に、薄い霧のようにたちこめている。
私は昨夜の『桜の森の満開の下』に続いて安吾にふれて、とてもなつかしい、いるべき場所に帰ってきたような気がしている。
退屈、人生はたかだかそれぐらいのもの。
なんか、この感覚が、よくわかるように思う。
何をしていても、うすい霧のように、あるものがたちこめている。
それにどんな名前をつけたらよいのか。
安吾みたいに退屈? それともサガンみたいにシニック?
虚無? むなしさ? 孤独のさびしさ? ……やっぱり退屈……?
これから解放される道が一つだけあることを私は知っている。
でもそれは一人では不可能なこと。
そしてそんなに人生には訪れないこと。
情熱恋愛。
でも、どうしよう、それすらも、このうすい霧をはらしてくれないとしたら。
雨はやっぱりそう。内省を呼びこむ。