■危険な選択 「アイリス・マードック随筆対談集」■
2016/05/22
「アイリス・マードック 随筆・対談集」(室谷洋三 編)を読んだ。
「世の中には色々なタイプの人がおり、人間関係にしても、男女の結婚が唯一の『正しい』つまり『豊かな』『意義ある』関係という訳ではない。
同性愛者として生きていこうとすることは、私が述べてきたような理由から危険な選択であるだろう。
しかし独身を通すことも危険な選択であり、結婚するのもそれに劣らず危険な選択である」
「同性愛と倫理」というエッセイの中から。
同性愛が社会的に全く認められていなかった(病気の一種とされるほどに)時代(1964年)に発表されたと考えれば、アイリスの思考の深さがよくわかる。
すべてが危険な選択なのである、という考えに私は全面的に、共鳴する。
人がその歴史において、たとえば国を統治しやすいから、といった理由なんかで作り上げた制度に縛られて平気で、何も感じないということは、真実、精神の不自由さを物語ると思う。
このエッセイのラストは次のように結ばれている。
「人は互いに異なっているものであるという当然の事実を、寛容な態度を持って認めることである」
このことは、アイリスだけではなく、幾人もの人たち、作家が書いてきたことだ。表現してきたことだ。
じゃあ、私が自分の中から出したい、表現したいと思うことは、意味がないのだろうか。
そういうわけではない。「誰」によって「それ」がどのような道筋を通って生まれてきたのかが肝心なのだろうから。
誰が、いつ、どのような状況で「それ」を表現せざるを得なかったのか、ということが大切なことなのだから。
と今朝は自分自身に言い聞かせている。雨空を眺めながら。