ブログ「言葉美術館」

■暴力を孕んだ瞬間 「『外科室』の解説」 川村二郎■

2016/05/19

7194d9ezgal「だが、たとえ長い時間をかけて成長したり衰弱したりするにしても、少なくとも愛が発生するのは瞬間である。

分別も常識もたちどころに無力化する、

有無をいわせぬ暴力を孕んだ瞬間である。

その瞬間を知らぬ人は愛を知らぬというにすぎない。

鏡花は『外科室』でただその瞬間だけを定着しようとしたのである」

泉鏡花の『外科室』を、久しぶりに読んだ。

いつものようにしびれて、それからいつもは読まない解説を読んだ。

そして、好きな文章を見つけた。

しばし、「瞬間」の思い出にふける。

好きな小説の解説で感動した経験は記憶のなかでは皆無だけれど、この解説は、私に、私が「瞬間」を熱愛していること、だからこそ『外科室』を溺愛するのだということを提示して見せてくれた。

まったく。

日常のなかでは、それこそ「瞬間」の積み重ねが日常なのに、「瞬間」を忘れてしまう。

それは余裕がないからだ。

余裕とは時間ではなく、心と頭のなかの自由な空間のことだ。

いったい何にそんなに束縛されているのか、と笑いたくなる。

そして自分を束縛し、余裕をなくしている要因をひとつひとつを拾い上げてみれば、ほんとうに実のところは重要ではないものばかりで、それに気づいた瞬間だけは、ふっと軽くなれたように思う。

こういうの、たまには持続すればいいのに、とふくれたくなる午後。 雨も上がり、いきなりあらわれたさわやかな秋空を仕事場の窓から眺め、ため息などついてみたくなる。

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