■アナイス■「人工の冬」
2017/05/25
「あなたにはいつもあなたらしくいてほしいの。
あなたのなかに残酷な面があることもわかっているわ。
わたしはあなたにあらゆる特権をあげたい。
ありのままのあなたでいいの。
芸術家にして聖者、飢えた獣にして道化であるような」
久しぶりにアナイスの小説を手にとった。飢えているんだな、と自己分析しながら、ひとつひとつ丁寧に文字を追う。
『ジューナ』というタイトルの中編を読みながら、やはりアナイスの日記がスライドみたいに頭のなかを頻繁に横切る。
アナイスの場合、小説と日記、通常は小説がフィクション、日記がノンフィクションとなるのだろうけど……、アナイスの場合、それは濃霧のなか。
「私はあなたにあらゆる特権をあげたい」
これはアナイスの決定的な愛のかたちで、私が強く共鳴するところ。
近くにいる人たちは絶句するほどに、私はこの言葉と遠いところにいるように見えるかもしれないけれど、こうありたいと思っているのです。
ところで、小説家であるハンスが愛する女性ジューナに「きみはぼくを作家としてしか見ていない」と、すこし失望の香りを漂わせて言う場面がある。
作家としても見てほしいけれど、男としても見てほしい。
作家でないとしてもぼくを愛してほしい。
恋する男のわがままをこの台詞に見る。
そしていつものように自分と重ねる。
「作家として見てほしい。そして女としても見てほしい。両方おんなじくらいにね」
「7:3の割合でね」
「6:4くらいが嬉しい」
「2:8でよくってよ」
と、相手によって違ってくる。
もちろん「どうか作家としてだけ見てください」と願う相手もいる。
そんなことをぼんやりとした頭で考えはじめる。
今朝は気分が重かったので、家族を送り出した後で、もう一度ベッドに入った。
ようやく起きて、珈琲を飲みながら「人工の冬」を広げて、幾人かの人を思い浮かべながら、これを書いている。
さいごに、もう一箇所、引用。
「嘘の最悪なところは、孤独を創り出すことね」