■アナイス■「いろんなものから遠く離れて」
2017/05/25
アナイス、私の理解者私の分身私自身。……こんなふうに自由に書くことの快楽。
何度も登場している「インセスト アナイス・ニンの日記」を、またしても読み直しているだけのことなのだが、やはりアナイスは私にとって特別な人。
昨夜は次の部分が痛いくらいに染み入って、暗記するほどに何度も何度もたどってしまった。
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寂しくてしょうがない。
私がいつもヘンリーにしてあげているようなことを、私にしてくれる人が欲しい。
私は彼が書くものはすべて読む。彼が読む本は私も読む。彼の手紙には必ず返事を書く。
彼の話を聞き、言ったことをみんな覚えている。彼のことを書く。彼に贈り物をする。彼を守る。彼のためならいつだって、誰だって諦められる。彼の思考をたどり、参画する。
情熱と母性と知性をかたむけて彼を見守っている。
では彼はどうか。私のために、彼にはこんなことはできない。誰にもできない。誰にもそのやり方がわからない。私の才能、私が生まれながらに持っているものだ。
ヒューゴーは私を守ってくれるが、応えてはくれない。
ヘンリーは応えてくれるが、私の書くものを読む時間がないし、私の気持ちをこまかく察してもくれない。私のことを書いてもくれない。
父は女と言ってもいい思い遣りはみせてくれるが、私の仕事には関われない。
私に与えられるものは不完全な、不満足な、焦燥をそそる断片だけ。
だから私は寂しい。
だから日記のなかで私は私が欲しい応えを書き綴る。
自分で自分を養わなければならない。
私に愛は与えられる。だが、愛だけでは充分ではない。
どのように愛するかを誰も知らない。
***
アナイス。貴女の強烈な自己愛を私は強烈に愛する。
夏が終わった軽井沢、最後の緑に妙な生命力を感じる日。