■「シンプルな情熱」 アニー・エルノー■
2016/07/01
「私には思えた。
ものを書く行為は、まさにこれ、性行為のシーンから受けるこの感じ、この不安とこの驚愕、つまり、道徳的判断が一時的に宙吊りになるようなひとつの状態へ向かうべきなのだろうと」
何度も読み返す本のグループに入っている一冊。
恋をするということはこういうことです。
それだけが語られていて、見事だと思う。
ただ、この作者が無名だったらここまで評価されたのかな、と疑問は残る。
換言すればそれほどまでに、尖っていなくて読者を選ばない小説ということになる。私は好きだけど。
冒頭の一文は最初に出てくる。
語り手の女性がポルノ映像を観て、そのあとで物を書く行為につなげる。
よくわかる。
「道徳的判断が一時的に宙吊りになるようなひとつの状態」
のなかでなければ書けないから、よくわかる。
そしてその状態のなかに入りこんで
「ああ、もう飽きた、いったん出よう」
と自らが思うまで入りこめたら、こんなに幸せなことはない。
書くという行為に焦点を絞って考えれば。
その状態に向かうというエナジーは、実は他者は関係なくて、日常のあれこれも関係なくて、問題は自分自身なのであって、だから日々格闘しているのだった。
今日の軽井沢は晴れていて、でも最高気温がマイナス一度なのだそうです。ぬくぬくとした部屋で、これから「道徳的判断が一時的に宙吊りになるようなひとつの状態」へ入りこんでみようかと企んでいます。