◎Tango ブログ「言葉美術館」

◆体重と真夏のスイカとオリゴ糖のジャム

 私はウエスト部分にゴムの入ったショーツが、その締めつけ感が嫌いで、総レースのを愛用しているのだけれど、ここのところ、それがゆるくなってきて、今朝、部屋の中を歩いているだけでも落ちてくるのに、あれ、と思って、娘が愛用している体重計にのってみた。そうしたら今までにない数字が出てきてびっくりした。

 身長163センチになってからの、……つまり高校生以来になるのかな、最低体重がそこにあった。

 さいきん痩せたなあ、よくないなあ、とは漠然と思っていた。

 私は恋をすると胸がいっぱいになって食欲がなくなり痩せるという性質があり、いままでにも何度かそんなので体重が3~4キロ落ちることはあった。

 今回もそれはあるかもしれない、と見栄をはりたいところだけれど、そして確かにそれに似たようなことはあるかもしれないけれど、きっかけはやはり絶筆についての原稿を書き始めたことだった。春にパリから戻って取りかかり始めて、画家の最後の作品に、画家に寄り添って書いていたら、苦しくて食欲がなくなった。眠ることもさらに苦手になった。

 季節が夏に変わり、原稿をしあげ、そこまでして書いた原稿がまさかのボツになったショックに浸る間もなく、次の原稿書きに集中していた。

 もともとお腹いっぱいな状態が、頭が愚鈍になるから嫌いなのだけれど、それの強いバージョンが続いたかもしれない。

 美味しいものは大好き。美味しいものしか口に入れたくないくらい好き。
 誰が作ったのかわからないようなお店のはあんまり食べたくない。

 美味しいものを少しずつ、無理のない範囲で楽しむというのが理想の食事。
 無理矢理全部食べなさい、という人は苦手。私は自分の容量を少しでも越えると気持ちが悪くなってしまうから、その時間まで台無しになる。

 ママ、やつれてるよ、よくないよ。とめずらしく娘に指摘されたのが夏の盛りで、ちょうどそのころ、お友だちの家に行った。

 彼女は私より一つだけ年下なのだけれど、慈愛に満ちた人で、私の様子を見て、スイカをカットして、ガラス皿にきれいに盛って出してくれた。
そして、「とにかく食べなさい」と可愛い命令口調で言った。「はい」と返事をして、ひとくち、口に入れた。

 甘い愛の味がして私は泣きそうになった。おいしい、おいしい、と言いながらすべて食べた。あのスイカは、今年の夏に食べたあらゆる食事の中で一番、美味しかった。

 先日、母に相談があって電話をした。ひとしきり話したあと、電話を切る前に母が言った。

「とにかくちゃんと食べなさいよ、身体が資本、食べるものには気をつけてるのはわかっているけど、とにかくちゃんと食べることね、食べなくちゃダメ、食べなさいよ、わかった?」 

 私はそれを聞いて大笑いしてしまった。「なんでそんなに笑うの」と言われて、まだ笑いながら私は言った。「その言葉、ほとんど同じことを今朝、愛娘に言ったばかりだから」。

 大学夏休み中の娘はサークル活動とアルバイトでほとんど家にいない。お友だちの家に泊まることも増えて、家での食事は、するとしても朝食だけ。

 そのため、私は野菜と果物などをいつでも食べられるように冷蔵庫に入れていて、その朝もサラダとヨーグルトとフルーツといった朝食をとったあと、出かける準備をして鏡の前に立ち、「太った太った、やばいしっ」と私の嫌いな言葉をつぶやいている娘に言ったのだった。

「ぜんぜん太ってないけど、その気持ちはわかる、そういう年ごろだもんね。でも何を食べるのかちゃんと考えなさいよ、外食だって選ばなけきゃだめ。いくら若くったって身体が資本だよ、ちゃんとしたものを食べないとへんな太り方をするし、肌も荒れるし、きれいじゃなくなるんだからね!」

 そんな話をしたばかりだったから、母から娘へ同じこと言ってるな、っておかしくなっちゃったの、と言ったら母も笑った。

 電話を切ったあと、母が一日でも長く生きてくれるようにと願った。私はまだ娘でいたい。

 50を過ぎて、あんまり痩せると美しくない。全裸で鏡の前に立って、確信した。

 そして身体がビジュアル的に一番マシだったのはいつだったかなあ、と、またどうでもいいことを考え始めた。彼のモデルになり始めたころ、26歳くらいから妊娠する前、31歳くらいの時期かな。あのころは、いまよりも体重は6キロくらい多かったけれど、たぶん、筋肉もあったし、私なりのベストだった、きっと。あくまでも見た目、だけど。内容はたぶん、こんなでも現在のほうがマシ。

 それから、いままでに3キロくらいの増えたり減ったりはあったけど、ここまではなかった。

 でも、そんなに体調が悪いわけでもない。それでも、なんとなく根本的にスタミナがないような気もしてきた。年内に、5キロを目標に体重を戻そう。

 だって、大好きなタンゴをきれいに踊るためには基本的エネルギーがないとだめだもの。弱々しいのじゃだめだもの。そういう踊りではないもの。気持ちだけでは限界があるもの。私はタンゴを美しく踊りたい。そのための努力だと思えばできるはず。

 写真は白砂糖を嫌がる私のために、ほかのと区別して母が作って送ってくれた「オリゴ糖」を使ったブルーベリージャム。

 *優しい方々へ。心配してほしいのー、という趣旨の記事ではないので、ご安心ください。健康おたくの私はちゃんと検診もしていますので。

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