ブログ「言葉美術館」

■「女ひと」 室生犀星■

2016/06/30

41us1r8fqjl「映画演劇や音楽文学の向いてゆくところは何か、みな人間の愛情あるところに、さざなみを打ち寄せているのである。恐らく地球というものを搾り上げて見たら、死厳バラスの間に人間の恋いこがれた液体だけが、生きたものとして滴ってしぼられるに違いない、(略) とにかく生きるということは一人ずつの人間にとって、命がけでその一日だけでも、心ゆくまで生き抜きたいものである。」


随筆集のなか「廃墟の学問」という随筆から。


室生犀星の文学碑と夫妻の石碑が、軽井沢にある。

矢ケ崎川のほとり、川の水が流れ続けるけはいと、うっそうとした木陰のにおいのなか、それはあって、碑に刻まれた詩が、そこをさらに切実な異空間にしている。

「我は張り詰めたる氷を愛す。斯る切なき思ひを愛す」からはじまり、「斯る切なき思ひを愛す」で終わる詩にはたしかに「人生の荒涼の中に呻吟」する文学者の肉声がある。

訪れたのは夏だった。

もうすぐ氷の季節が来る。そうしたら再び訪れて、あの空間に身を置いて、今の自分をぎゅっと搾り上げたらどんな液体が滴り落ちるかな、なんてことを考えてみたい。


今朝は冷たい雨。
今日は外出の予定なし。
どこまで原稿がはかどるかな。はかどってほしい、どうかうまくいきますように。と祈るような想いのなか、今日もまた私なりに必死の一日が始まる。

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