◎Tango アルゼンチンタンゴ ブログ「言葉美術館」 私のタンゴライフ
◾️第3条 今夜、私は踊りたい
2023/09/10
落ちこんでいるわけではないけれど、しずんだ気分で1日を過ごし、長い打ち合わせを終えて、2階のタンゴサロン「ロカ」に。
今夜はめずらしく、踊らなくてもいいかな、ワイン飲んでタンゴの音楽に身を委ねているだけでもいいかな、と思っていた。
大好きな年下の美しいお友達に最近みた夢の話なんかをして。
……中東の紛争地域にいるの。それでテロリストに襲撃されて、私、弾があたったふりをして地面に倒れて死んだふりをするの。息を殺しているとやがてあたりが静かになって、テロリストたちがいなくなって、生き残った数人で、塹壕のようなところに逃げこむの。でもすぐに襲撃されることはわかっていて、数時間の命。そんなとき、塹壕のなかの一人が私に話しかける。ふつうのおじさんって雰囲気のひと。そのひとが言うの。一度、東京のミロンガで踊りましたね、って。私はぜんぜん覚えていなくて、でも、タンゴが踊れるひとがいる、って狂喜する。そして塹壕から出て、タンゴを踊るの。曲が何だったのか覚えていなくて、そもそも音源があるはずはないんだけど、そこは夢で、でも私、踊りながら殺されるなんて、ほんとうに嬉しい、って思うの。アナイス・ニンの「殺されるなら踊りながら殺される」って言葉がずっと好きだったから。
絶望的な状況なんだけどしあわせな気分で目が覚めて、どれだけ私タンゴが好きなんだろう、って呆れた。1月4日くらいにみたと思うんだけど、覚えているかぎり、それが私の初夢。
それから数日してまた夢をみて、それはとても悲しい夢だった。タンゴ関係で知り合ったほとんどの男性が出てきて、状況はよく覚えていないのだけど、私が、私のためにまだここにいて、って懇願しても、全員が立ち去ってゆくという。全員の後ろ姿が目に焼きついて、私は、やっぱり誰ひとりとして、私のところに最終的にはいてくれないんだ、って絶望するの……
そんな話をしているときに、好きな曲が流れて、誘っていただいて、踊ったら涙が出そうになって、私、やっぱり好きだなぁと思う。
おいしい赤ワインで酔いがまわって、きもちよくなって、タンゴシューズと脚が一体化するあの感覚、目を閉じて踊れば世界がいまここだけになるという感覚に身を委ねる。
踊りたかったのね1日中ずっと。踊れば、そのときだけは慢性的な寂寥感から逃れられる、そう思っていたのよね、そうでしょ、と自分に話しかける。
そう、今日は1日ずっと、大好きなモンパルナスのキキの法律が頭にあった。
キキの法律。
第1条 私自身の主人公は私である。
第2条 今夜、私は自分がしたいことをする。
第3条 今夜、私は踊りたい。
……今夜、私は踊りたい。
ああ。そう願う夜が幾夜あることか。
けれど、タンゴはひとりでは踊れない。
そして今夜私は踊った。けれどずっと、私のなかで強烈に不在しているものを感じてもいた。
それがいったい何なのか、自分でも発見できないでいる。自分でもわからないでいる。
嘘だ。それは認めたくないもの。認めたら、苦しむことがわかっているから、発見できないことに、わからないことにしているもの。
そして、それはいけないことなのか、と自問すれば、いけなくはない、自衛は大切、と答えが返ってくる。
その答えを私は嫌悪する。
写真は陽気なキキ。1920年代、狂乱の時代のパリ、モンパルナスの女王。私の原点。