■その言葉■
2016/06/28
昨日の新川和江の詩からもう一つ。「骨の隠し場所が」から。
「人が一生のあいだに どうしても云わなければならない言葉というのは
二言(ふたこと)か、三言(みこと)なのであろう
はやばやと云ってしまうと 生き続ける理由がなくなるので
人は その言葉を どうでもいい どっさりの言葉の中にまぎれこませて
自分でも気づかぬふりをしているのだろう
どうでもいい どっさりの言葉で
お喋りをすればするほど 心はみすぼらしく飢え」
どうしても言わなければならない、ふたこと、みこととは何だろう。
私には、たったひとつの言葉しか、浮かばない。
もうちょっと、と思うと、あとは同列でいくつも浮かんでしまう。
45回目の誕生日に、心たのしいカードと小さな赤い花束と、シャンパンボトルに入ったバブルバスのプレゼントを娘からもらったときにも、私は「ありがとう」と口にして、こころでは、そのたったひとつの言葉をつぶやいた。
とろけるような、そして実際くちのなかで甘くとろけたケーキにこどものようにろうそくをたててもらったときにも、わたしは「ありがとう」を言い、こころのなかでたったひとつの言葉をつぶやいた。
はじめて母に、自分の誕生日に「うんでくれてありがとう」と言えたときにも、こころのなかでその言葉をつぶやいた。