■「ほんとうに大切なこと」 ヤン・ゴールドスタイン■
2016/06/11
「自分の人生でも恐怖を経験したからこそ、思い出すための時間と、思い出すこと以外のなにかをするための時間があることを知っていた」
東京駅に娘を迎えに行った帰りに、ふたりで丸善に寄った。
いつの間にか、私と同じような本を読むようになった彼女が、私以外の作家の本を手にとって「このひとのめちゃくちゃ面白いんだよ」と言うのを複雑な思いで聞きながら、私も久しぶりに小説でも読もうかと、手にとったのが「ほんとうに大切なこと」。
すごく目立つ置き方だったし、絶対に読んで後悔しない、って書いてあったし、でも、だいたいそういうのって私は感動できないのよね、って思いながら、それでも感動できないことを確かめるのもいいかも、とひねくれた理屈で結局、購入した。
心をとらえた一文に出逢えたから、買ってよかったと思おう。
何かを思い出すこと、忘れないでいることは必要だ。けれど、何かを思い出さないでいること、忘れることもまた、人生には必要なのだ。
考えてみれば、以前は何一つ忘れたくはなかった。
だから思い出の手紙や葉書、メモ、ノートなどきちんととっておいた。
どんな経験も糧になるのだと信じて、苦しいことも哀しいことも、忘れそうになると、わざわざ記憶の奥深くから引っ張り出してきて、苦い思い出を味わったりしていた。
きっと、それができていたから、そうしていたんだな。
今は、できない。
ほんとうに忘れてしまいたいことがある。
でも、ほんとうに忘れてしまいたい、と切実になればなるほどに、それは記憶の奥深くにへばりついて離れない。
自分の近くにいる人たちの精神状態に対して、私が影響を与えている割合はどのくらいなのか、知りたい。
丸善では、うれしいことが一つあった。「自分を好きになる本」というコーナーで「サガンという生き方」がピックアップされていた。
丸善では、驚いたことが一つあった。
私のフェイスブックを運営してくれているモナミカちゃんと偶然会ったこと。
引き合うものがあるんだな、これは何を意味するんだろう、とあれこれ考えて楽しかった。