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■バンコク(のホテル)滞在記*4■

2023/09/10

■ひとり旅を反対するひとはいなかった

★25日(土)

 昨日は娘から、彼女が所属するKEIOの英語劇のクラウドファンディングをシェアして欲しいとメッセージが届いた。熱い想いは伝わってくる。だからFBにアップした。親バカを承知で。彼女もがんばってるなあ。

 今回の突然のひとり旅、その理由を話した親しいひとたち数人の反応を、思い返す。

 誰ひとりとしてマイナスの反応をしたひとはいなかった。「それはぜひ行くべきだ」と背中を押してくれた。

 私は、私が私らしくあることをこころから望んでいるひとたちに囲まれている。そんなことを再確認できて、あたたかな気持ちになった。もう、それだけでもこの旅の意義はあったと思うくらい。

 さて、土曜日。

 今夜は、レンブラントホテルのミロンガに行く。だから、マッサージは我慢。夜まで原稿に集中しよう。

 ホテルでいつものようにゆっくりと朝食をとったあと、部屋にこもった。

 ベッドで書く。

 

 物語世界に入りこむために、過去の日記やブログを読み返してインスピレーションを求める。内容が変わりそう。確かに主人公は動き出している。

 この日は、いいかんじで原稿が進んだ。これに勝る充実感はないように思う。

 8時スタートのミロンガ。歩いて20分くらいと聞いていた。8時半くらいに着くように支度をしてホテルを出る。

 こんなことなら、ワンピースをもう一枚くらいもってくればよかった。昨夜は汗をかいていないからそのまま同じワンピースを着る。不本意。でも仕方がないわ。

 

 夜、3日目にして「バンコクではじめて外出」というものをする。

 バンコクの夜。

 ホテルにこもるのだからとwi-fiもシムもなんにも準備していない。

 入念にホテルの場所をあたまにたたきこんで、外に出る。どきどき、びくびく。

 もわん。

 ものすごい湿度。そして、暑い。くさい。

 レンブラントホテルまでの道。すごい交通量で車やバイクに轢かれないように歩くだけで精一杯。空気が汚れていることを身体が感じる。ハンカチを鼻のところにあてながら歩く。早足で。やはり夜、異国ではじめての一人歩きはこわい。

 途中、セブンイレブンでミネラルウォーターを購入、レジの人に「レンブラントホテルってこの先よね?」と確認。

 私にしては優秀。迷うことなくホテルに到着。

 

 ホテルの広いレストランがミロンガ会場となっていた。

 

■タンゴに言葉は必要ないもーん

 

 結局到着したのは9時で、昨夜、すてきなタンゴを踊った男性と、それから日本人のペアが手をふってくれる。

 広ーいレストラン。20人いるかどうか、という人数。

 たしかに昨夜踊ったひとたちも何人かいる。

 似たような顔ぶれ、という言葉は本当だった。

 「彼」の隣の席が空いていたので、隣に座る。

 「彼」ともたくさん踊ったし、はじめてのひとともたくさん踊った。

 広い会場なので、カベセオ(タンゴのひとつのルール、目と目を合わせて互いにオッケーなら踊るという)もよく見えない。

 何度か、「あれって、私へのカベセオ?」というのもあったけれど、確信がないから立ち上がれない。

 あるひとなどは、遠くの方から手をあげる。「私かなー、違った恥ずかしいな」と思いながら、私もちょこっと手をあげる。その彼はさらにもう一方の手をあげる、私ももう一方の手をあげる。これでようやく成立、なんてのもあった。

 その彼は踊り終わったあと、いろんなことを言ってくれたけれど、いま残っているのは、これ。

「あなたはロマンティックなタンゴを踊るね」

 そして彼は、もう一度誘ってくれた。

 昨夜すてきなタンゴを踊り、隣に座っている「彼」とはたくさん踊った。

 赤ワインもさりげなくごちそうしてくれて、このあたりのやり方が、スマートなのよねえ。

 おしゃべりタイムに彼は言う。

「あなたが僕の国に来てくれたら、もう絶対に帰さない」とか、「日本に帰らないで」とか。

 その場だけの言葉だとわかってはいても、きゅん、となる。その気になりやすい私。

 でも、人生の可能性を私はあらかじめ閉ざすことはしたくないから、妄想する。

 ……ありよね。バンコクのミロンガで出逢って、フォーリンラブってなって、彼の国に住むってのも、ありよ。そうよ。

 なんだって、自分次第なのよ。自分で自分の限界をきめてはいけない。

 そう、自分で限界をきめてはいけない。

 これはすべてに言えること。

 

 しかし、あれね、前日にFBでつながっていたから、彼は私の職業についてなんとなく知っていて、それで、こんなふうに言われたの。

「あなたは東京で高等教育を受けていると思うんだけど、なぜ、そんなに英語が話せないの?」

 がーん。

 でも、私はあやまったりしないもんね。

「だから私はタンゴを踊るの……タンゴに言葉は必要ないもの……」

 これ、思慮深い女ふうに、かつ憂い顔で言うのがポイント。

 

 優しい「彼」は「うん、そうだね」と言ってくれたけれど、彼の問いが、嫌味とかじゃなくて、素朴な疑問、ってかんじでなされただけにきつかったわ。

 「彼」は、広い会場だったからか、ヒーロ(くるんってまわるの)をたくさんいれてくる。私はまだまだこれが苦手。

 「彼」はそんな私に「あなたはターンがあんまり好きじゃないね?」と笑う。

 ええ。確かにあんまり好きじゃないけど、それ以前に、まだモノにできていないの。

 ここは心のうちでつぶやく。

 帰国したら、ヒーロぐるんぐるんできるようにレッスンするわ、と決意。

 

 できるのにしたくないのか。できないからしたくないのか。

 これはまったく異なるから。

 「彼」がほかの女性と踊るのも見ていた。みんな華麗に踊っていた。もちろんヒーロもぐるんぐるん、かるーくきめている。私が好きな踊りではなかったけれど。

 でも、それなのに「彼」は私と踊るのが一番、と言ってくれた。ってことは、やはり好み、ということにつきると思う。どんなタンゴが好きなのか、ってこと。

 11時。ラストの曲は「クンパルシータ」。

 おそらく「彼」と踊るのはさいご。

 えーん。さびしいなあ。

 いまの自分のすべてで踊る。

 きつく抱擁して、私たちは離れた。

 

 ミロンガ会場を出て、通りに出る。日本人の、私に親切にしてくださった女性が、タクシーを拾ってくれる。運転手さんにちゃんとメーターを使うか確かめて、私をタクシーに乗せてくれる。

 なんてたくましく心強く映ったことか。

 ありがとうっ。心からのお礼を告げる。

 無事にドリームホテルに到着。

 とってもよい気分。

 お友達にメッセージ。

「私のことを知らないひとたちから誘われて、また踊りたい、って言ってもらえて、すごく嬉しい。そのままの私を求めてくれているようで、とっても嬉しい。タンゴが好き」

 書きながら、そうか、私はタンゴが好きなのか、って思った。

 タンゴについても、さまざまな疑問を抱えていた時期だったから、そう思えた、そのこと自体が嬉しかった。

 (5につづく)

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