■■芸術のほんとうの力■■
2020/04/23
このところ、絵画に関する本を読んでいる。
私の処女作である『彼女はなぜ愛され、描かれたのか』が出版されたのが、2003年、それ以来、絵画についての本は出していない(のちにこの本は『美神(ミューズ)の恋』というタイトルで文庫化)。
この10年間で、ちょっとした絵画の謎解きブームみたいなのがおきて、たくさんの絵画の本が出版されていたことは知っていたけれど、敢えて、手にとらないでいた。
ちょっとした自分なりの反抗。
だって、私が『フラウ』に絵画のエッセイを連載した1994年から1998年まで、それから2003年にようやく本が出るまでの5年間、「絵画の本は売れない」という理由でどれだけの企画がボツになったか。
……反抗なんていうとウソ臭いかな。単純にすねていたのかもしれない。
時代とじょうずに寝ることができなかったことに。タイミングが悪いんだよ、私は、と。
でも、いつまでもすねていたら次の仕事ができないので、今私は10年の空白をひとり埋めているところ。
とはいえ、どの本も、なぜか私にとっては、無味乾燥。これはいったいなんだろう、と本気でそれこそ謎解きをしたくなるほどに。
そんななかでとびぬけて面白い本が一冊あった。
若桑みどり先生の『イメージを読む』。
最初からひきつけられた。
ミケランジェロのシスティーナ礼拝堂の天井画について、
「ミケランジェロがほんとうに表現しようとしていたことはなんだったのか」といったことをいろんな角度から見てゆくのだけれど、そのなかでこんなくだりが。
「いまでも、私がいっていることはあいかわらずある種の人にとっては危険きわまりないことなのです。ある友人は、そういう学説は発表しないほうが無難だ、と忠告したくらいです。
ときには、ひとは命がけで描いたり、書いたりしてきたのです。
それはいまでも同じことです。
でも、たとえ危険があったとしても、真実は追求しなければなりません。
いちばん恐ろしいのは自分のいっていることが真実ではないということだけです。」
そしてラスト。
「たとえそこに描かれた思想や信仰が今は滅びてしまい、意味を失ってしまっているとしても、絵は残ります。
絵の生命は死ぬことはなく、古びることもなく、それを人が見て美しいと思うかぎりつねに現在です。
それこそが芸術のほんとうの力なのです。」
画家が伝えようとしたことを理解するためには、画家がそのイメージにこめた意味や思想を理解することが必要、という立場に立ちながら、芸術のもつ「美」というエナジーにずっと魅せられているかんじ、人間の創ったものへの愛おしさ、畏怖……そういうものが行間からにじみ出ていてそれが私の胸をうつのかもしれない。
知識は、その人を、その絵を、理解したいと思えばもちろん必要。
そんなのあたりまえ。
けれど、根底に美とか愛とか情熱とか、人間の弱さとか強さとか、そういうのがなければ、やっぱり私はだめ。
大切な本が一冊増えた。そのことがとても嬉しい。