■受いれたい■
2016/06/09
偶然、テレビで加島祥造を見た。あ、イエーツの人だ、と思った。思潮社から出ている「イエーツ詩集」の編訳者の人だ、と。
詩集の最後に「イエーツについての実感的覚え書」というのがあって、その内容と言葉のセンスに惹かれて、心のどこかにずっと置いてあった人だ。
90歳。
信州の伊那谷でひとりで暮らす一人の人間の姿に圧倒的に胸うたれた。
aloneだけどlonelyじゃない、ってそんなふうに言っていた。
どうしていままで、彼にふれないできたのだろう! すぐに彼の著作を探した。
英米文学者だと思っていたら、日本を代表するタオイストとしてご活躍だった。私はイエーツでインプットしていたから、最初、老子がピンとこなかった。
五年くらい前に『求めない』という詩集が大ベストセラーになっていた。ぜんぜん知らなかった。
私は最新作の詩集『受いれる』を購入した。
『求めない』と迷ったけれど、「求めない」のハードルは強欲な自分にとって高すぎる気がして、でも『受いれる』なら、すこしくらいは、という希望で読み始めた。
最初の一ページ。
***
受いれる
すると
優しい気持ちに
還る
***
すでにここで、ううっ、なんてこみあげてくるのは、自分のなかに「受いれる」がなかった証拠かな。情けない。
今回響いたところを書きぬいておこう。
***
受いれる――
それは
変化を許すことだ
自分の変化を許すと
他の人が変わることも許すようになるよ
***
教会や神前で
ふたりの愛はいつまでも変わらない
と誓いあうのは
大嘘さ
愛はいずれにしても形を変える
でも、いいじゃないか
その時はそう思ったけれど
いまはこう変わったんだ、と
言えばいいんだ
なんの後ろめたさもなしにね
受いれる心でいれば
人生のどんな変化にも
応じられるんだ
***
いま、を受いれる、ということ。
ほんのすこしだけ、息が楽になったような気がした。
それにしても加島祥造は魅力的だな。映像を見ていても思ったけれど、90歳、現時点での本にふれて強く感じた。
大学教授で英米文学翻訳者としても成功して家族もあって、それでもずっと違和感があって苦しかったんだって。
身体をこわすほどに苦しかったんだって。
それで60歳のときに、逃げ出しちゃったんだって。
そして最愛の人に出会ったんだって。
そして彼女を病気で喪っちゃったんだって。
それでもこんなに美しくやさしい詩を創造した。
人生をそこそこうまく泳いできた人にはない包容力がある。
自分が血だらけになって苦しんだ人の言葉は、なんていうか、裏切らない重みがある気がする。
私はこの詩集にずっしりとそれを感じた。