■悪の法則■
2016/05/24
昨年末は『悪の法則』に支配されたかんじがする。
信頼できる女性たちから勧められて、でもすくいのない物語ですよ、路子さんは精神状態の良いときを選んで観たほうがいいです、なんていう「注」つきだったから、結局映画館に足を運ぶ勇気がなく、原作を購入して読んだ。
昔からホラーがだめというのとつながっているのか、私はむごい映像もだめだし、人がばたばた死んでゆく映画もだめ。
いちばんだめなのは性的快楽殺人関連かな。
だからこの映画は観なくてよかったのかもしれない。本でじゅうぶんに打ちのめされてしまったから。
……もしかしたら与えられる映像ではなく自分の想像世界のほうがずっとむごいのかもしれないけれど。
それでもコーマック・マッカーシーが創り出した世界の人物たちのセリフは面白かった。
たとえば、これ。
信頼できる女性が面白い言葉があった、と言って教えてくれた「モラル・ジレンマ」のあたり。
女性にもてる弁護士に対して知人が分析する。きみがなぜもてるかと言えば、モラル・ジレンマがあるからだと。女は男のモラル・ジレンマ、精神的パラドックスに惹かれるのだと。
そして男も欠点のある女に惹かれる。それはこの女を直してやれるという幻想をもつからだと。
……うーん、たしかにそれはあるな。
ただ、私自身がモラル・ジレンマを抱えている男性に惹かれるかといえばそれはあまりないかもしれない。
どちらかといえば、私を好きになってくれる人たちの多くは「この女を直してやれる」と思っているような気がする。
本のなかからセリフとしてひとつだけ抜き出すとしたら、これかな。
「その人を知っているというのは、その人が何を欲しがっているかを知っているということ」
私は彼のことを、彼女のことを「知っている」だろうか。
彼らが何を欲しがっているか知っているだろうか、そんなことを考えた。
それからコーマック・マッカーシーの頭のなかをぐるぐると想像して、寒くなった。
私は彼に共鳴しない。
「今日はこの冬一番の寒さです」って、早朝のラジオから流れてきた。
ようやく一冊の本を書きあげた。
昨日、けっこう長い時間いじっていた初校を編集者さんと一緒にチェックして、ひとだんらく。三月に出版予定。