■引っ越しと、書店での驚きの風景と
引っ越しをして3週間が経とうとしている。
新刊の原稿をかかえての引っ越しだったから、あたまがくるくるして倒れるのではないかと思ったけど、倒れなかった。我ながらしぶといと思った。
引っ越しから一週間が経ったころ、好奇心旺盛な母が上京してきた。新しい部屋に案内し、そのあと、何がしたい? と尋ねたら、「ブルーモーメントの本が並んでいる本屋さんに行きたい」と言う。近くということもあり、新宿紀伊國屋書店に行った。
ブルーモーメントの本を、とても素敵に展開してくださっている書店さん。写真では送っているけれど、じっさい目にするとその感激は何倍にもなる。母は目を潤ませていた。その母の様子を、孫である娘がじいっと見ていた。
近くのHMV &BOOKS SPOT SHINJUKUにも立ち寄ったら、こんな風景が。
「言葉シリーズ」の展開も嬉しいのに、『逃避の名言集』が「当店おススメNo.1」に! 読んでくださって「おススメ」してくださっているということよね。本当に嬉しい。
それから数日後、娘から「すごいことになっている」と写真が届いた。
本と合わせてネイルポリッシュを展開してくださっている書店の風景だった。
現在、関東では、蔦屋書店(幕張店)、ジュンク堂書店(藤沢店)、九州では蔦屋書店(六本松店)でPOP UPが展開されている。(写真は幕張 蔦屋書店)
私はこういう写真を見るといつも、25年くらい前のことを思い出す。本がなかなか出せなくて、何度も諦めそうになったときに書店を訪れ、夥しい数の本を前にたたずんで思ったことを。
こんなに多くの本があるんだ、私だってきっとできる。諦めることはいつでもできる。ひとつだけ確かなことは、諦めたら終わり、ということ。永遠に書店に自分の本は並ばないということ。
それからいつも自問していた。
それであなたはどうするの?
諦めなかったからいまがある。そして諦めないで、もがいていた年月がかなり長かったから、いまでも一冊本が出版されるたびに、しみじみとした感慨が胸に広がる。本が出る、ということは当たり前のことではないことがもう、からだのまんなかにしみついちゃっているのね。
だから、この書店の風景はもう、自分のことではないようなかんじ。もっともこの風景をもたらしたのはブルーモーメントの社長である娘の力なんだけど。すごいなぁ。
7月発売予定の新刊も、原稿をデザイナーさんに送り、あとは入念な校正とあとがきを書くという段階になった。部屋のなかも落ち着いて、ようやく日常生活が戻ってきた。
次の本の執筆を開始している。締め切りは9月。書き下ろし。
その次の本の締め切りは年内。書き下ろし。
そんななか久しぶりに映画を観た。『天才ヴァイオリニストと消えた戦慄』。残念な邦題ではあるけれど、こころにしみた。いい映画だった。
この映画の冒頭の言葉を書き留めた。
ーー芸術において、もっとも近くかつもっとも遠い距離は「よい」と「すばらしい」の間。
そうね、「うまい」「じょうず」とは違うところに私は美を見る。すばらしい、とまではいかなくても、胸に響くような、引っ越しなどですごく鈍感になっているときにも、胸に響いてからだがふるえちゃうような、そんなのがいい。
夜、疲れてふと窓外を見ると、美しい夜景が広がる。夜景が大好きな私としてはかなり良好な環境といえる。週に一度のタンゴだけは確保しつつ、仕事に集中したいと思っている土曜日の夕刻。