*フェイスブック記事 ほやほやのお知らせ ブログ「言葉美術館」
▪️誕生日と書店さんとの交流と
58歳の誕生日は大阪で過ごした。
「リブロアリア」(出版社ブルーモーメントから生まれたコスメブランド)のポップアップが大阪梅田の阪神百貨店で開催されていたから、その様子を見に行き、家族3人でお祝いをしようという流れだった。
前日は予定がなくて、タンゴを踊りに行こうかとも思ったけれど、誕生日当日がヘロヘロになるのを心配して、家でひとり過ごしていた。余白的な1日。いろんなことをつらつらと考え、思い立って、ずっと書きたいと思っていた手紙も一通書けた。余白はこんなに大事なんだ、と体感した。
誕生日当日は食事をしたあと、ホテルの部屋で、娘がファンである「名探偵コナン」の作者、青山剛昌のドキュメンタリーを観た。もっとつっこんでほしいなあ、という部分もあったけれど、彼の創作にかける姿には胸が熱くなった。充分に成功して名声も得ているけれど、創作以外にはなんの興味もない、唯一の興味といえば、過去の自分を超えることだけ。他の人の成功とかはどうでもいい、それは自分ではないから。自分を超えることだけでしょう、という言葉には、以前に書いたピカソのそれを重ねた。
天才と呼ばれる人に共通していることかもしれない。他者との比較ではない。自分だけなのだ。
翌日は私の本をいつも大展開してくださる梅田の蔦屋書店さんにご挨拶に行った。「リブロアリア」の香水やネイルとともに、新刊『私を救った言葉たち』が美しく飾られていた。もう胸がいっぱい。担当の書店員さんの言葉が胸に残った。
歴史に名を残した女性たちの本を書かれているので、そして彼女たちはすごく強いっていうイメージがあるので、今回のエッセイも、もっと違うものを、強いかんじのを想像していました。でも違いました。とてもやわらかくて、ほんとうに、いいなあ、って思いました。
嬉しかったなあ。
それから新幹線で広島に向かった。広島の駅前にあるエディオン蔦屋家電さん、ここはブルーモーメント立ち上げのころから、娘と、いつか行きたいね、と言っていた書店だった。
ブルーモーメント初の本、オードリーとマリリン2冊同時刊行のとき、大量注文をくださって、実際涙が出るほどに感動した体験があったから。あのときはほんとうに感動した。立ち上げたばかりのひとり出版社、はたして注文が来るのだろうか、と不安でいっぱいだったから、どれほど嬉しかったことか。
以後も新刊が出るたびに、こちらが心配するほどの大量注文をくださる。そしていつも驚くほどの展開をしてくださっている。大阪からは1時間半、行って帰ってくるだけでも、とにかく、感謝の想いを伝えたかった。
担当の方おふたりにご挨拶ができた。そして、圧倒されるほどに素晴らしく、私の命の本が飾られていた。小さな出版社からのほぼ無名の作家の本を、その内容を気に入ってくださって、こんなふうに扱ってくださっている。泣きそうだった。
ブルーモーメントから本を出して初めて体験したことはいくつかあるけれど(たとえば、読書体験のない若い人が私の本をきっかけに読書を人生にとりいれる、とか)、書店とのつながりもそのひとつ。これは私の力ではなく出版人の力なんだけど、こんなに書店との、書店員さんとのつながり、書店員さんひとりひとり、個人とのつながりを感じたことはこれまでにないことだ。
どんなことも、結局のところ、「ひとりの人」の情熱や行動力なのだ。
同行者の希望で原爆ドーム、記念公園に出かけた。私は映画『オッペンハイマー』を観たばかりだったので、複雑な想いが胸をぐるぐるうずまいて、「そこにいる」ことに集中できなかった。ガイドの説明を熱心に聞く外国人観光客のグループの横で、にこにこと自撮りをしている日本人カップルの姿をぼんやり眺めていた。
移動中に、新宿紀伊國屋書店でも大展開されていることを知った。公式Xの投稿にあった写真。20代のころから通っていた書店にこんなふうに新刊が展開されている。もう、うそのようだ。
大阪で娘が下車し、ひとり広島で買った地ビールを飲みながら帰宅した。
家に着いて、母の祭壇のお香をたいて、二日間の報告をする。誰よりも見せたい娘のポップアップのこと、誰よりも贈りたい新刊のこと、そして58年前に私を産んでくれたことへのお礼を言って、手を合わせた。