▽おやすみなさいを言いたくて
2016/06/21
こころに残りそうな映画を観た。
これは映画館で観たかった。
夫と二人の娘のいる戦場カメラマンの女性がヒロインで、この女性を私が好きな女優ジュリエット・ビノシュが演じている。
ヒロインは自らの使命と家族との間に立ち、苦しむ。彼女だけではない、家族ももちろん。
水彩画のような映像、そして、戦場でのシーンでさえ静寂があるような空気感。
ヒロインの二人の娘のうち上の子が日本でいえばたぶん高校生くらいの設定で、その娘が母親の仕事をどのように見ているのか、受け入れるのか受け入れないのか、母親と娘の関係、おそらくこのあたりがこの作品のテーマの一つで、私自身、そこの部分にもっとも興味をもって見ていた。
ラストシーンはもうなんともいえない感情が胸を、身体じゅうを絞り上げて、そののち、ヒロインと同じように膝の力が抜けるようになる。
どうにもならない想いがすべてを覆いつくす。
そのラストシーンからちょっとだけ前にも、私のなかに残るだろう名シーンがあった。
車中で母親と長女が話をする場面。
とは言っても、長女は母親を避けている。そんな長女に大切な話だからしておきたいと母親が、自分が戦場カメラマンをやめられない理由を話す。
「いつかあなたが大人になって自分と向き合ったとき、抑えきれない何かが自分の中にあるのが分かる。
私は止めようのない何かを始めてしまったの。
終わらせ方を探さないと」
そのあといくつかやりとりがあって、長女が母親にむけて一眼レフをかまえて、空シャッターを切り続ける。
ここはふるえが走った。
私はこの映画は、ほんとうにすごい映画だと思う。
そしてこれは職業が戦場カメラマンに限定されたテーマではないとも思う。
「抑えきれない何かが自分の中にある」とわかってしまった人たちが「家庭」というものをもったときの共通のテーマ。
両立なんてできない。できると言っている人はうらやましいほどに鈍感か、嘘つきなだけ。あるいは両立の自己ハードルが激しく低いか。
それでも人は……、いいえ私は、強欲だからどちらも欲しいと願い、結果、両方の間で引き裂かれながら生きる。確実にどこかにしわ寄せがいっていて、確実にどこかで傷ついてる人がいて、それでもおまえはそれをするのか、という問題がそこにある。